
子音の音素
子音の発音について
ギリシャ語の子音と音素
- 子音の音素は15種類(p, t, k, f, θ, x, v, ð, γ, s, z, l, r, m, n)
- 隣り合う音によって異音が生じる
/p/の発音
- 基本は [p]、鼻音の後で [b] に変化
/t/の発音
- 基本は [t]、鼻音の後で [d] に変化
/k/の発音
- 基本は [k]、前母音の前で [c]、鼻音の後で [g] または [ɟ]
/f/の発音
- [f] のみで異音なし
/θ/の発音
- [θ] のみで異音なし
/x/の発音
- 基本は [x]、前母音の前で [ç]
/v/の発音
- 基本は [v]、無声音の前で [f] に同化
/ð/の発音
- [ð] のみで異音なし
/ɣ/の発音
- 基本は [ɣ](後母音の前)、前母音の前で [ʝ]
/s/の発音
- 基本は [s]、有声音の前で [z]
/z/の発音
- [z] のみで異音なし
/l/の発音
- 基本は [l]、非強勢の /i/ + 母音の前で [ʎ]
/r/の発音
- [r] のみ、舌先を震わせる巻き舌
/m/の発音
- 基本は [m]、唇歯音の前で [ɱ]
/n/の発音
- 基本は [n]、後続子音に応じて [ɲ], [ŋ], [m], [ɱ] に同化
[ts]と[dz]の発音
- 無声・有声の破擦音で、独立した音素かどうかは議論がある
二字綴りの発音
- 同じ文字の重なり(ββ, κκ…)は対応する単独字と同じ音
- αυ/ευ/ηυ は後続音の有無声によって [f] 系/[v] 系に分かれる
- γγ, γκ, γχ, μπ, ντ は有声閉鎖音または鼻音+閉鎖音
- τζ [dz], τσ [ts] は破擦音
ξ・ψ
- 1文字で2音素(ξ [ks], ψ [ps])を表す
ギリシャ語の子音一覧・調音部位と調音方法による分類
- IPA 形式の表で、調音部位と調音方法により分類
補足
- 鼻音+破裂音の発音は話し手の世代・地域により異なる
- 外来語では鼻音+無声破裂音がそのまま保たれることがある
ギリシャ語の子音と音素
ギリシャ語の子音の音素は15種類あります。音素は隣り合う音によって発音が変わることがあり、これを異音といいます。
子音の音素: p, t, k, f, θ, x, v, ð, γ, s, z, l, r, m, n
- 音素:/p/ のようにスラッシュで表記
- 異音:[p], [b] のように角括弧で表記
/p/の発音
- 基本は[p]
- 鼻音の後 → [b]
- 語頭では鼻音なしの[b]:μπότα [bóta・ボータ]
- 語中では鼻音の有無は話し手による(後述):καμπάνα [ka(m)bána・カンバーナ/カバーナ]、συμπονώ [si(m)bonó・シンボノー/シボノー]
/t/の発音
- 基本は[t]
- 鼻音の後 → [d]
- 語頭では鼻音なしの[d]:ντάμα [dáma・ダーマ]
- 語中では鼻音の有無は話し手による(後述):πέντε [pé(n)de・ペンデ/ペデ]
/k/の発音
- 基本は[k]
- 前母音(i, e)の前 → [c]
- [c]は「キ」に近い音だが、舌先ではなく舌の中央部分を上あごに近づけて出す
- κήπος [cípos・キーポス]
- 鼻音の後 → [g](後母音の前)または[ɟ](前母音の前)
- [ɟ]は[c]の有声版(濁った音)
- 語頭では鼻音なし:γκρίνια [gríɲa・グリーニャ]、γκιόνης [ɟónis・ギオニス]
- 語中では鼻音の有無は話し手による(後述):αγγούρι [a(ŋ)gúri・アングーリ/アグーリ]
- 「k + 非強勢の/i/ + 母音」→ [c]:κιόλας [ciólas・キオラス]
/f/の発音
- [f]のみ(異音なし)
/θ/の発音
- [θ]のみ(異音なし)
- 英語の “think” の th の音
/x/の発音
- 基本は[x](喉の奥を狭めて出す「ハ」に近い音)
- 前母音(i, e)の前 → [ç]
- [ç]は日本語の「ヒ」の子音、ドイツ語 ich の ch に近い音
- χιόνι [çóni・ヒオニ]
- 「x + 非強勢の/i/ + 母音」→ [ç]
/v/の発音
- 基本は[v]
- 無声音の前 → [f]に同化:ευτυχία [eftiçía・エフティヒーア]
/ð/の発音
- [ð]のみ(異音なし)
- 英語の “the” の th の音
/ɣ/の発音
- 基本は[ɣ](喉の奥を狭めて出す有声音)
- 後母音(a, u, o)の前でのみ現れる
- 前母音(i, e)の前 → [ʝ]
- [ʝ]は日本語の「ヤ行」に近い音
- γέρος [ʝéros・イェロス]
- 「ɣ + 非強勢の/i/ + 母音」→ [ʝ]:κουράγιο [kuráʝo・クラーヨ]
/s/の発音
- 基本は[s]
- 有声音の前 → [z]:κόσμος [kózmos・コーズモス]
/z/の発音
- [z]のみ(異音なし)
- ζ(ゼータ)で表される独立した音素
/l/の発音
- 基本は[l]
- 「l + 非強勢の/i/ + 母音」→ [ʎ]
- [ʎ]はイタリア語の gli、スペイン語の ll に近い音(「リャ」のような音)
- ελιά [eʎá・エリャー]
/r/の発音
- [r]のみ(異音なし)
- 舌先を震わせる巻き舌の音
/m/の発音
- 基本は[m]
- 唇歯音(f, v)の前 → [ɱ]
- [ɱ]は上の歯と下唇を近づけた状態で鼻に抜ける音
- αμφιβολία [aɱfivolía・アンフィヴォリーア]
/n/の発音
- 基本は[n]
- 「n + 非強勢の/i/ + 母音」→ [ɲ]
- [ɲ]は日本語の「ニャ」の子音に近い音
- νιάζομαι [ɲázome・ニャーゾメ]
- 子音の前では、後続の子音に同化:
- 両唇子音(p, b)の前 → [m]:συμπαθώ [si(m)baθó・シ(ム)バソー]
- 唇歯子音(f, v)の前 → [ɱ]:συμφωνία [siɱfonía・シンフォニーア]
- 硬口蓋子音の前 → [ɲ]:συγχέω [siɲçéo・シニヒェーオ]
- 軟口蓋子音(k, g, x, ɣ)の前 → [ŋ]
- [ŋ]は日本語の「案外」の「ん」に近い音
- άγχος [áŋxos・アーンホス]
[ts]と[dz]の発音
- [ts]は無声、[dz]は有声の破擦音
- 独立した音素か「t+s」「d+z」の組み合わせかは議論がある
- τσέπη [tsépi・ツェーピ]、τζάμι [dzámi・ヅァーミ]
二字綴りの発音
子音の文字が重なったもの、および2文字で1音または連続する音を表す綴りの発音を扱います。
同じ文字の重なり
ββ, κκ, λλ, μμ, νν, ππ, ρρ, σσ, ττ は通常、単一の音を表し、対応する単独字と同じ発音になります。
- Σάββατο [sávato・サーヴァト]
- εκκλησία [eklisía・エクリシーア]
- άλλος [álos・アーロス]
- γράμμα [ɣráma・グラーマ]
- γέννηση [ʝénisi・イェーニシ]
- ιππότης [ipótis・イポーティス]
- θάλασσα [θálasa・サーラサ]
- αττικός [atikós・アティコース]
αυ・ευ・ηυ
αυ, ευ, ηυ は、後続の音が無声か有声かによって、それぞれ [af]/[av]、[ef]/[ev]、[if]/[iv] に分かれます。υ の部分が子音 [f] または [v] に変わります。
-
無声音の前・語末 → [af], [ef], [if]
-
有声音の前 → [av], [ev], [iv]
-
αυτός [aftós・アフトス]、αυλή [avlí・アヴリ]
-
εύκολος [éfkolos・エフコロス]、ευμενής [evmenís・エヴメニス]
-
διηύθυνα [ðiífθina・ディイフシナ]
γγ・γκ・γχ・μπ・ντ
有声閉鎖音、または鼻音+閉鎖音を表します。語頭か語中か、後続母音が前母音(/i/, /e/)か後母音(/a/, /u/, /o/)かで発音が変わります。
γγ:語中のみ。通常は [ŋg] / [ŋɟ]。古典・文語由来の語では [ŋɣ] / [ŋʝ]。
- αγγούρι [aŋgúri・アングーリ](後母音)
- άγγελος [áŋɟelos・アンゲロス](前母音)
- εγγράμματος [eŋɣrámatos・エングラマトス](古典・文語由来、後母音)
- εγγεγραμμένος [eŋʝeɣraménos・エンイェグラメノス](古典・文語由来、前母音)
γκ:語頭は鼻音なしの [g] / [ɟ]、語中は [ŋg] / [ŋɟ]。
- γκρίζος [grízos・グリーゾス](語頭、後母音)
- γκιόνης [ɟónis・ギオニス](語頭、前母音)
- αγκώνας [aŋgónas・アンゴーナス](語中、後母音)
- ανάγκη [anáŋɟi・アナンギ](語中、前母音)
γχ:語中のみ。[ŋx] / [ŋç]。
- άγχος [áŋxos・アーンホス](後母音)
- αγχίνοια [aŋçínia・アンヒーニア](前母音)
μπ:語頭は [b]、語中は [(m)b](話者により鼻音の有無に揺れ)。外来語の一部では [(m)p] のまま。
- μπότα [bóta・ボータ](語頭)
- καμπάνα [ka(m)bána・カンバーナ/カバーナ](語中)
- κομπιούτερ [ko(m)pjúter・コンピューテル](外来語)
ντ:語頭は [d]、語中は [(n)d](話者により鼻音の有無に揺れ)。外来語の一部では [(n)t] のまま。
- ντουλάπα [dulápa・ドゥラーパ](語頭)
- κοντά [ko(n)dá・コンダ/コダ](語中)
- αντένα [a(n)téna・アンテナ](外来語)
τζ・τσ
破擦音を表します。独立した音素か、t+s/d+z の組み合わせかは議論があります。
- τζ [dz](有声歯茎破擦音):τζάμι [dzámi・ヅァーミ]
- τσ [ts](無声歯茎破擦音):τσέπη [tsépi・ツェーピ]
ξ・ψ
1文字で2つの音を表します。
- ξ [ks](無声軟口蓋破裂音+無声歯茎摩擦音):ξένος [ksénos・クセノス]
- ψ [ps](無声両唇破裂音+無声歯茎摩擦音):ψωμί [psomí・プソミ]
ギリシャ語の子音一覧・調音部位と調音方法による分類
下表では、国際音声記号(IPA)の一覧表の形式で、横軸に調音部位、縦軸に調音方法を配置した表で異音を示します。
各セルの左が無声音、右が有声音です。
| 両唇 Bilabial | 唇歯 Labiodental | 歯 Dental | 歯茎 Alveolar | 硬口蓋 Palatal | 軟口蓋 Velar | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 無 | 有 | 無 | 有 | 無 | 有 | 無 | 有 | 無 | 有 | 無 | 有 | |
| 破裂 Plosive | p | b | t | d | c | ɟ | k | g | ||||
| 鼻 Nasal | m | ɱ | n | ɲ | ŋ | |||||||
| ふるえ Trill | r | |||||||||||
| 摩擦 Fricative | f | v | θ | ð | s | z | ç | ʝ | x | ɣ | ||
| 接近 Approximant | (w) | j | ||||||||||
| 側面 Lateral | l | ʎ | ||||||||||
| 破擦 Affricate | ts | dz | ||||||||||
補足
- 鼻音 + 破裂音の発音バリエーション
- μπ, ντ, γκ/γγ の発音において、鼻音部分の有無は話し手によって異なる
- 位置による傾向:
- 語頭:鼻音なし([b], [d], [g]/[ɟ])
- 語中:鼻音あり/なし両方([mb]/[b], [nd]/[d], [ŋg]/[g])
- 話者による傾向:
- 若い世代・アテネ:鼻音を省略する傾向
- 年配の世代:フォーマルな場面では鼻音を残すことが多い
- 地域差・個人差も大きく、一概にルール化しにくい
- 外来語の例外
- 完全に同化していない外来語では、鼻音 + 無声破裂音がそのまま保たれることがある
- σαμπάνια [sampánia・サンパーニア]([mb] にならない)
- κομπιούτερ [kompjúter・コンピューテル]([mb] にならない)