
ストレス(アクセント)
ストレス(アクセント)について
現代ギリシャ語のストレス
- 音の強弱で区別する強勢アクセント(ストレス)を使う
音節
- ストレスは音節単位で決まる。音節数は基本的に母音の数で数える
ストレスの基本規則
- 2音節以上の語には必ず1つのストレスがあり、後ろから3音節以内に置かれる
ストレス位置の移動
- 語形変化で音節が増えると、この規則を守るようにストレス位置が移動する
- 名詞:μάθημα → μαθήματος、άνθρωπος → ανθρώπου(古代の長母音の名残)
- 動詞:γράφομαι → γραφόμουνα、能動態過去ではストレスをできるだけ左に置く傾向
接語を含む句のストレス
- 弱形代名詞などの接語が付くと音韻的にひとつの語として扱われ、ストレスが追加される(γείτονας + μας → ο γείτονάς μας)
補足
- ピッチアクセントとの違い、音節・ストレスに関する用語、文法的な区別のためのアクセント記号
現代ギリシャ語のストレス
言語のアクセントには、音の高低で区別するピッチアクセント(日本語など)と、音の強弱で区別する強勢アクセントがあります。現代ギリシャ語は強勢アクセントを使う言語で、この強弱のことをストレスと呼びます。
ストレスのある音節は、声量が大きく、母音がより明瞭に、そしてわずかに長く発音されます。
同じ音素で構成されていても、ストレスの位置が異なることで意味が区別される単語があります。
- [píra] πείρα 「経験」 / [pirá] πυρά 「火」
- [xóros] χώρος 「空間」 / [xorós] χορός 「ダンス」
- [ála] άλλα 「他の(中性)」 / [alá] αλλά 「しかし」
音節
ストレスは音節単位で決まります。音節とは、母音を中心とした発音のまとまりです。
ギリシャ語の音節は、基本的に母音の数で数えます。
- μα [ma](1音節)
- φίλος [fí-los](2音節)
- μάθημα [má-θi-ma](3音節)
※表記(アクセント記号など)については別ページで説明します。
ストレスの基本規則
ストレスの数
2音節以上の単語には、必ず1つのストレスがあります。
- φί-λος [fí-los](2音節・1番目にストレス)
- ο-δός [o-ðós](2音節・2番目にストレス)
- δά-σκα-λος [ðás-ka-los](3音節・1番目にストレス)
単音節語には、ストレスを持つものと持たないものがあります。
- ストレスあり:ναι [né]「はい」、πού [pú]「どこ」
- ストレスなし:ο, η, το(冠詞)、με, σε(前置詞)など
ストレスの位置
ストレスは、後ろから3音節以内に置かれます。
| 位置 | 例 |
|---|---|
| 最後の音節 | οδός [oðós]「道」 |
| 最後から2番目 | φίλος [fílos]「友人」 |
| 最後から3番目 | δάσκαλος [ðáskalos]「先生」 |
ストレス位置の移動
名詞や動詞では、語形変化によってストレスの位置が移動することがあります。これらの移動は「後ろから3音節以内」という規則を守るように調整されます。
形容詞は語形変化全体を通して、ストレスが基本的な位置を保ちます。
名詞
| 単数 | 複数 | |
|---|---|---|
| 主格 | μάθημα | μαθήματα |
| 属格 | μαθήματος | μαθημάτων |
| 対格 | μάθημα | μαθήματα |
| 呼格 | μάθημα | μαθήματα |
基本形 μάθημα [má-θi-ma] は3音節で、ストレスは後ろから3番目にあります。
単数属格や複数主格などでは、語尾に母音が加わり音節が増えます。そのままではストレスが後ろから4番目になるため、1音節右に移動します。
- μάθημα [má-θi-ma](3音節)→ μαθήματος [ma-θí-ma-tos](4音節)
- μάθημα [má-θi-ma](3音節)→ μαθήματα [ma-θí-ma-ta](4音節)
なお、複数属格 μαθημάτων ではストレスが2音節右に移動していますが、これは次に説明する別の規則が適用されています。
| 単数 | 複数 | |
|---|---|---|
| 主格 | άνθρωπος | άνθρωποι |
| 属格 | ανθρώπου | ανθρώπων |
| 対格 | άνθρωπο | ανθρώπους |
| 呼格 | άνθρωπε | άνθρωποι |
άνθρωπος「人」では、属格単数 -ου、属格複数 -ων、対格複数 -ους の語尾で、音節数が増えていないにもかかわらずストレスが移動しています。
- άνθρωπος [án-θro-pos](3音節)→ ανθρώπου [an-θró-pu](3音節)
これは古代ギリシャ語でこれらの語尾が長母音や二重母音を含んでいたためです。現代ギリシャ語では長短の区別はありませんが、ストレス位置にその名残が残っています。
ただし、-ος で終わる男性・女性名詞や -ο で終わる中性名詞では、ストレスが移動しない形も広く使われています。
- του δάσκαλου(δάσκαλος「先生」の属格単数)
また、一部の話者は主格複数でもストレスを移動させることがあります。
- οι ανθρώποι(標準:οι άνθρωποι)
動詞
動詞でも名詞と同様に、語尾の変化によってストレスが移動します。
基本形 γράφομαι [ɣrá-fo-me] は3音節で、ストレスは後ろから3番目にあります。
-
γράφομαι [ɣrá-fo-me](受動態現在・3音節)
-
γραφόμουνα [ɣra-fó-mu-na](受動態非完結過去・4音節)
-
γράφτηκα [ɣráf-ti-ka](受動態完結過去単数・3音節)
-
γραφτήκαμε [ɣraf-tí-ka-me](受動態完結過去複数・4音節)
受動態非完結過去や複数形などでは、語尾に音節が加わります。そのままではストレスが後ろから4番目になるため、右に移動します。
- έγραφα [é-ɣra-fa](能動態非完結過去単数・3音節)
- γράφαμε [ɣrá-fa-me](能動態非完結過去複数・3音節)
能動態過去時制では、ストレスをできるだけ左側(後ろから3番目)に置く傾向があります。そのため単数形 έγραφα ではオーグメント έ- の位置までストレスが移動し、複数形 γράφαμε では語幹 γρά- にストレスが置かれます。
接語を含む句のストレス
弱形代名詞や冠詞のような「接語」は、それ自体にストレスを持たず、隣接する語と一体となって発音されます。このような接語を含む句は、音韻的にはひとつの単語として扱われます。
以下のような組み合わせがこれに該当します:
- 前置詞 + 後続の句
- 定冠詞 + 名詞・形容詞
- 名詞・形容詞 + 弱形所有代名詞
- 弱形人称代名詞 + 動詞
- 命令形の動詞 + 弱形人称代名詞
- 現在分詞 + 弱形人称代名詞
- 副詞 + 弱形人称代名詞
たとえば γείτονας「隣人」に μας「私たちの」が付くと、γείτονας μας 全体がひとつの音韻単位として扱われます。しかし γείτονας [ʝí-to-nas] のストレスは後ろから3番目にあるため、μας [mas] が加わると [ʝí-to-nas-mas] となり、ストレスが後ろから4番目になってしまいます。これは「後ろから3番目以内」のルールに違反します。
語形変化ではストレス位置を移動させましたが、接語が付く場合は元の語のストレスを保ったまま、新たにストレスを追加します。
ストレスが後ろから3番目にある語 + 弱形代名詞
名詞、形容詞、副詞、動詞のストレスが後ろから3番目にあり、その後に弱形代名詞が続く場合、元の語の最後の音節に追加のストレスを置きます。
- γείτονας [ʝí-to-nas]「隣人」+ μας
- → ο γείτονάς μας [o ʝítonáz mas]「私たちの隣人」
- φύλαξε [fí-la-kse]「保て」+ το
- → φύλαξέ το [fílaksé to]「それを保て」
- χάρισε [xá-ri-se]「ください」+ μου το
- → χάρισέ μου το [xárisé mu to]「それを私にください」
- απέναντι [a-pé-nan-di]「向かいに」+ μας
- → απέναντί μας [apénandí mas]「私たちの向かいに」
ストレスが後ろから2番目にある命令形 + 弱形代名詞2つ
命令形の動詞のストレスが後ろから2番目にあり、2つの弱形代名詞が続く場合、動詞に近い方の代名詞にストレスを置きます。
- δώσε [ðó-se]「与えよ」+ του το
- → δώσε τού το [ðóse tú to]「彼にそれを与えよ」
- ※ [ðóstuto] と発音されることもある
- φέρε [fé-re]「持ってこい」+ μου τα
- → φέρε μού τα [fére mú ta]「それらを私に持ってこい」
ストレスが後ろから3番目にある現在分詞 + 弱形代名詞
現在分詞のストレスが後ろから3番目にあり、1つまたは2つの弱形代名詞が続く場合、現在分詞の最後の音節に追加のストレスを置きます。
- γράφοντας [ɣrá-fon-das]「書きながら」+ μου
- → γράφοντάς μου [ɣráfondáz mu]「私に書きながら」
なお、元のストレスと追加されたストレスのうち、追加された方がより強く発音されます。
補足
ピッチアクセントとの違い
冒頭で述べたように、現代ギリシャ語は強弱で区別する強勢アクセントを使います。一方、日本語は音の高低で区別するピッチアクセントを使い、「橋」と「箸」のように同じ音素でも高低の違いで意味が変わります。
ギリシャ語を学ぶ際は、日本語のような高低ではなく、強弱を意識して発音することが重要です。
音節とストレスに関する用語
英語の教材では、音節の位置やストレスパターンを表す専門用語が使われることがあります。
| 日本語 | 英語 | 読み方 |
|---|---|---|
| 最後の音節 | ultima | ウルティマ |
| 最後の音節にストレスがある語 | oxytone | オクシトーン |
| 最後から2番目の音節 | penult | ピーナルト |
| 最後から2番目にストレスがある語 | paroxytone | パロクシトーン |
| 最後から3番目の音節 | antepenult | アンテピーナルト |
| 最後から3番目にストレスがある語 | proparoxytone | プロパロクシトーン |
例えば「oxytone nouns(最後の音節にストレスがある名詞)」や「antepenultimate rule(後ろから3番目以内のルール)」のように使われます。
文法的な区別のためのアクセント記号
ここまで説明したストレスの追加は、音韻的な規則に基づくものでした。これとは別に、書き言葉では文法的な役割を明確にするためにアクセント記号を付けることがあります。
弱形代名詞の属格(μου, σου, του など)や定冠詞の属格(του, της, των)は通常ストレスを持ちませんが、所有以外の意味で使われる場合にアクセント記号を付けて区別します。
-
ο πατέρας μού είπε「父が私に言った」(動詞の間接目的語)
-
ο πατέρας μου είπε「私の父が言った」(所有)
-
ο πατέρας τού τότε πρωθυπουργού「当時の首相の父」(後続の名詞句を修飾する冠詞)
-
ο πατέρας του「彼の父」(所有)
これは主に書き言葉での慣習で、話し言葉では語順や文脈から判断されます。