
母音の音素
母音の発音について
ギリシャ語の母音と音素
- 母音の音素は /a/, /e/, /i/, /o/, /u/ の5つ
/a/, /e/, /o/ の発音
- 基本的に異音なし
/i/ の発音
- 基本は [i]。非強勢で母音に続けば [j]、母音に先行するときは直前の子音で結果が分かれる
- 先行子音が k/g/x/ɣ/n/l なら融合、β/δ/ζ/θ/π/σ/τ/φ/μ なら /i/ が [ʝ]/[ç]/[ɲ] に、ρ なら [i] または [j] のまま
- 古典・文語由来の古い形では融合や硬口蓋化が起こらないことがある
/u/ の発音
- 基本は [u]。非強勢で母音の後に続く場合は [w] に子音化する
二字で1音素
- αι は /e/、ει, οι, υι は /i/、ου は /u/
ギリシャ語の母音一覧・調音位置による分類
- 前舌・後舌、高・中・低による分類表
ギリシャ語の母音と音素
ギリシャ語の母音の音素は5つです。
母音の音素:a, e, i, o, u
- 音素:/a/ のようにスラッシュで表記
- 異音:[a], [j] のように角括弧で表記
アクセントが置かれた母音はわずかに長くなります。アクセントのない母音が弱くなることはほとんどありませんが、語末では短く、やや無声化することがあります。
/a/の発音
異音はなく、どの環境でも [a] と発音されます。口を広めに開き、唇を丸めずに出す「ア」の音で、非円唇中舌広母音に分類されます。日本語の「ア」、スペイン語・イタリア語の a に近い音で、英語の father, hot の a にも似た響きですが、英語のそれらは後舌寄りで、ギリシャ語の [a] のほうが中舌で軽い印象になります(αγορά [aɣorá・アゴラー])。
/e/の発音
異音はなく、どの環境でも [e] と発音されます。口を中程度に開き、唇を丸めずに前舌で出す「エ」の音で、非円唇前舌半広母音に分類されます。日本語の「エ」、英語の bed, set の e に近い音です(πεθερά [peθerá・ペセラー], αιτία [etía・エティア])。
/i/の発音
基本の音価 [i] は、口を狭く閉じて唇を丸めずに前舌で出す「イ」の音で、非円唇前舌狭母音に分類されます。日本語の「イ」、英語の see, meet の i に近い音です(νίκη [níki・ニーキ], κλειδί [klidí・クリディ])。
ただし /i/ は周囲の音によって異音が多く、環境によって発音が変わります。以下、条件ごとに整理します。
基本は [i]
次のいずれかに当てはまるとき、/i/ はそのまま [i] と発音されます。
- /i/ の後が母音でないとき:γλυκό [ɣlikó・グリコー], κοινός [cinós・キノス]
- /i/ にストレスが置かれるとき:ιστορία [istoría・イストリア], παιδεία [peðía・ペディア]
非強勢の /i/ が母音の直後にあるとき → [j]
/i/ にストレスがなく、直前が母音のとき、半母音 [j] になります。
- αϊτός [ajtós・アイトース]
- τσάι [tsái・ツァイ]
非強勢の /i/ が母音の直前にあるとき
/i/ にストレスがなく、後ろに母音が続くときの結果は、直前の子音ごとに3パターンに分かれます。
(1) 先行子音が k, g, x, ɣ, n, l のとき → 融合
先行子音が硬口蓋音に変わり、/i/ はそこに融合します(個別の異音は子音ページを参照)。
- k + /i/ + 母音 → [c]:κιόλας [cólas・キオラス]
- g + /i/ + 母音 → [ɟ]:γκιόνης [ɟónis・ギオニス]
- x + /i/ + 母音 → [ç]:χιόνι [çóni・ヒオニ]
- ɣ + /i/ + 母音 → [ʝ]:γιατί [ʝatí・ヤティ]
- n + /i/ + 母音 → [ɲ]:νιάζομαι [ɲázome・ニャーゾメ]
- l + /i/ + 母音 → [ʎ]:ελιά [eʎá・エリャ]
(2) 先行子音が β, δ, ζ, θ, π, σ, τ, φ, μ のとき → /i/ が [ʝ], [ç], [ɲ] になる
先行子音はそのままで、/i/ 自身が硬口蓋摩擦音または鼻音に変わります。
- 有声子音(β, δ, ζ)+ /i/ + 母音 → [ʝ]:καράβια [karávʝa・カラーヴャ], παιδιά [peðʝá・ペディャー]
- 無声子音(θ, π, σ, τ, φ)+ /i/ + 母音 → [ç]:ελάφια [eláfça・エラーフチャ], φωτιά [fotçá・フォチャー]
- μ + /i/ + 母音 → [ɲ]:μια [mɲá・ミャー]
(3) 先行子音が ρ のとき(単独でもクラスターでも) → [i] または [j]
ρ には対応する硬口蓋音がなく、/i/ も硬口蓋化しません。/i/ は [i] のままか、短縮して [j] になります。
- μακριά [makriá・マクリア]
- γριά [ɣriá・グリア]
- αύριο [ávrio/ávrjo・アーヴリオ/アーヴリョ]
- άγριος [áɣrios/áɣrjos・アーグリオス/アーグリョス]
例外
上の (1), (2) のグループでも、次の条件では融合や硬口蓋化が起こりません。
- 古典・文語由来の古い形 → /i/ は [i] のまま:στάδιο [stáðio・スターディオ], ποιόν [pión・ピオン]。同じ綴りで由来により発音が分かれる対もあります:άδεια [áðʝa・アーディャ]「許可」/[áðia・アーディア]「空の」
- /i/ が別の /i/ と隣接するとき → [i] または [j]:διοικώ [ðiikó/ðjikó・ディイコー/ディコー], ποιητής [piitís/pjitís・ピイティース/ピティース]
/o/の発音
異音はなく、どの環境でも [o] と発音されます。口を中程度に開き、唇を丸めて後舌で出す「オ」の音で、円唇後舌半広母音に分類されます。日本語の「オ」、英語の law, caught の o に近い音です(ομάδα [omáða・オマーダ], πάνω [páno・パーノ])。
/u/の発音
基本の音価 [u] は、口を狭く閉じて唇を丸めて後舌で出す「ウ」の音で、円唇後舌狭母音に分類されます。日本語の「ウ」より、もう少ししっかり唇を丸めて発音します。英語の boot, food の u に近い音です(ουρανός [uranós・ウラノス])。
- 基本は[u]:πουλί [pulí・プリー]
- 非強勢で母音の後に続く場合は[w]に子音化する(該当する語は少ない):φράουλα [fráwla・フラウラ]、σκίουρος [scíwros・スキウロス]
二字で1音素
以下の母音字の組み合わせは、それぞれひとつの母音音素を表します。
| 綴り | 発音 | 例 |
|---|---|---|
| αι | [e] | αιτία [etía・エティア] |
| ει | [i] | εικόνα [ikóna・イコーナ] |
| οι | [i] | οικογένεια [ikoʝénia・イコイェニア] |
| ου | [u] | πουλί [pulí・プリー] |
| υι | [i] | (まれ) |
ει, οι, υι は単独字 ι, η, υ と同じ /i/ を表すので、/i/ の異音ルール(半母音化、硬口蓋子音化など)が同じように適用されます。詳しくは「/i/の発音」を参照。
ギリシャ語の母音一覧・調音位置による分類
| 前舌 | 中舌 | 後舌 | |
|---|---|---|---|
| 狭 | /i/ | /u/ | |
| 半広 | /e/ | /o/ | |
| 広 | /a/ |
- /a/, /e/, /o/:基本的に異音なし
- /i/, /u/:特定の条件で子音のように発音される異音あり
母音の記述と参照資料について
現代ギリシャ語の母音は、資料によって調音位置や IPA 記号の書き方に揺れがあります。narrow transcription で書けば、/a/ は [ɐ](中舌・準広)、/e/ と /o/ は [e̞]・[o̞](半広と半閉の中間)になりますが、broad transcription では慣習的に [a], [e], [i], [o], [u] でまとめられます。
本ページでは次の資料を総合し、broad transcription による表記と、前舌・中舌・後舌の3区分による調音位置の分類を採用しています。
- Holton, D., Mackridge, P., Philippaki-Warburton, I. (2012). Greek: A Comprehensive Grammar of the Modern Language. Routledge
- Arvaniti, A. (2007). “Greek Phonetics: The State of the Art”. Journal of Greek Linguistics 8
- Foundalis, H.
“Modern Greek Pronunciation”
- ギリシャ教育省 中学校文法(
ebooks.edu.gr)
- Κέντρο Ελληνικής Γλώσσας (
greek-language.gr)