
異化
異化について
調音法の異化
- デモティキでは無声摩擦音や無声破裂音の連続が「摩擦音+破裂音」に変換される
- カサレヴサ由来の形はフォーマルで、デモティキ由来の形は日常的
- 動詞の活用(語幹に接辞がつくとき)にも異化が見られる
規則1:摩擦音と/s/の隣接
- 摩擦音は /s/ に隣接すると破裂音に変化する
- 受動完結の /θ/ も語幹末の摩擦音と隣接すると破裂音 /t/ に変化する
規則2:/s/を含まない子音の連続
- 「摩擦音+破裂音」の順が要求され、2つの摩擦音が隣接すると2番目が破裂音になる
- デモティキ由来の単語に限定され、古典・文語由来の語は従わない
規則3:2つの破裂音の連続
- 最初の破裂音が摩擦音に変化する
- 古典・文語由来の語彙では異化が起きない
規則4:破裂音+摩擦音の連続
- 破裂音が摩擦音に、摩擦音が破裂音に変化し、「摩擦音+破裂音」の順になる
調音法の異化
「単語内の音素配列」のページで述べたように、ギリシャ語では特定の子音群を含む単語に2つの語形が存在することがあります。
デモティキ(口語)では無声摩擦音や無声破裂音の連続が避けられ、「摩擦音+破裂音」に変換されるためです。この変換を異化といいます。
どちらの語形を使うかは状況や立場、個人の好みによりますが、カサレヴサ(文語)由来の形のほうがフォーマルです。
- φθηνός [fθinós・フシノース] / φτηνός [ftinós・フティノース]
- χθες [xθés・フセース] / χτες [xtés・フテス]
- επτά [eptá・エプター] / εφτά [eftá・エフター]
異化は、動詞が活用するとき(語幹に接辞がつくとき)にも見られます。
- τρέχω [tréxo・トレホ] → θα τρέξω [θa trékso・サ トレクソ]
- κλέβω [klévo・クレーヴォ] → θα κλέψω [θa klépso・サ クレプソ]
この異化には4つのパターンがあります。
規則1:摩擦音と/s/の隣接
摩擦音(鼻音または流音を除く)は、/s/に隣接している場合、順序に関係なく破裂音に変化します。
- /tréx-o/ → τρέχω [tréxo・トレホ]
- /θa tréx-s-o/ → θα τρέξω [θa trékso・サ トレクソ]
- /klév-o/ → κλέβω [klévo・クレーヴォ]
- /θa klév-s-o/ → θα κλέψω [θa klépso・サ クレプソ]
- /xtíz-o/ → χτίζω [xtízo・フティーゾ]
- /θa xtiz-θ-ó/ → θα χτιστώ [θa xtistó・サ フティストー]
上記の例では、語幹末の摩擦音(/v/や/x/など)が能動完結の接辞 /s/ と接触すると、破裂音に異化します([trékso]、[klépso])。受動完結の接辞 /θ/ も同様に、語幹末の摩擦音と隣接すると破裂音 /t/ に異化します。なお、語幹末の /z/ は後続の無声子音 /θ/ の前で /s/ に無声化します(有声子音は無声子音の前で無声化する)。
規則2:/s/を含まない子音の連続
子音の連続が /s/ を含まない場合、どの音が破裂音になり、どの音が摩擦音になるかは順序によって決まります。「摩擦音+破裂音」の順でなければならないため、2つの摩擦音が隣接する場合は2番目の音が破裂音になります。
- /θa ɣraf-θ-ó/ θα + γραφ-(語幹)+ -θ-(受動)+ -ώ
- → θα γραφτώ [θa ɣraftó・サ グラフトー]
- 語幹末の /f/ と受動の接辞 /θ/ が隣接し、/θ/ が /t/ に異化
この規則はデモティキ由来の単語に限定されます。古典・文語由来の単語はこの規則に従いません。
- ελέχθη [eléxθi・エレフシ]
- λέγω(言う)の受動完結形
- /xθ/(摩擦音+摩擦音)がそのまま保たれる
- ελήφθη [elífθi・エリーフシ]
- λαμβάνω(取る)の受動完結形
- /fθ/(摩擦音+摩擦音)がそのまま保たれる
また、屈折に限定され、派生(前置詞接頭辞など)には影響しません。
- ευ- + θανασία → ευθανασία [efθanasía・エフサナシーア]
規則3:2つの破裂音の連続
2つの破裂音が連続する場合、最初の音が摩擦音に変化します。
- /plek-tó/ πλεκ-(語幹)+ -τό(形容詞化接尾辞)
- → πλεχτό [plextó・プレフトー]
- 語幹末の /k/ と接尾辞の /t/ が隣接し、/k/ が /x/ に異化
この現象はデモティキ由来の単語に見られます。古典・文語由来の語彙では異化が起きません。
- εκλεκτός [eklektós・エクレクトース]
- /kt/(破裂音+破裂音)がそのまま保たれる
- αντιληπτός [andiliptós・アンディリプトース]
- /pt/(破裂音+破裂音)がそのまま保たれる
2つの無声破裂音の連続は、前置詞接頭辞 εκ- の後にも現れます。
- εκ- + τιμώ → εκτιμώ [ektimó・エクティモー]
- εκ- + πέμπω → εκπέμπω [ekpémbo・エクペンボ]
規則4:破裂音+摩擦音の連続
破裂音の後に摩擦音が続く場合、最初の破裂音は摩擦音に変化し、後続の摩擦音は破裂音に変化します。結果として「摩擦音+破裂音」の順になります。
- /blek-θ-ike/ μπλεκ-(語幹)+ -θ-(受動)+ -ηκε(過去)
- → μπλέχτηκε [bléxtike・ブレフティケ]
- 語幹末の /k/ が /x/ に、受動の接辞 /θ/ が /t/ に異化