中世ギリシャ語 μεσάνυχτο(真夜中、← μέσα「まんなか」+ νύχτα「夜」の中性形)の複数形 μεσάνυχτα が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、子音連続 [kt] が中世期に同化変化(ανομοίωση τρόπου άρθρωσης)で [xt] に変わった μεσάνυκτον > μεσάνυχτο の音変化の結果で、現代では複数形だけで使う pluralia tantum(複数のみで使う名詞)として定着している。ヘレニズム期ギリシャ語にはすでに μεσανύκτιον(真夜中)の形が見え、源にある合成発想は古代から続く語族。
源にある古代の μέσος(まんなかの、中央の)は印欧祖語の「中央、まんなか」を表す語根に由来し、ラテン語 medius(中央の、← 英 medium, middle, midst の語源), サンスクリット mádhya-(まんなか)と同族。ギリシャ語側の派生語族には μέση(まんなか、腰、女性形), μεσαίος(真ん中の), μεσημέρι(昼、← μεσο- + ημέρα「日」、「日のまんなか」), Μεσόγειος(地中海、← μεσο- + γαία「土地」、「陸のまんなかの海」), μεταξύ(〜の間に)が並び、古代以来の生産的な造語要素として生きている。
源にある古代の νύξ(属格 νυκτός、夜)は印欧祖語の「夜、闇」を表す語根に由来し、ラテン語 nox(夜、← 英 nocturnal の語源), サンスクリット nákt-(夜), ドイツ語 Nacht, 英語 night, ロシア語 ночь と同族。地中海・印欧語の「夜」を表す古い系譜の語で、現代ギリシャ語の νύχτα(夜)として継承されている。
派生・関連語族として μεσονύκτιο(真夜中、書きことばの古典形), μεσονύχτι(真夜中、口語の単数形), μεσάνυχτος(真夜中の、形容詞), μέρα-νύχτα(昼夜、まったく違うもの、定型表現)。同じ夜の時間帯の領域には、夜全体の νύχτα(夜), 日没から夜の前半の βράδυ(晩、夕方、夜), 真夜中以降の深い時間帯の περασμένα μεσάνυχτα(夜更け、真夜中過ぎ), 夜明け前の χαράματα(夜明け、明け方)が並び、夜の時間帯を細かく言い分ける体系になっている。比喩用法では έχω μαύρα μεσάνυχτα(さっぱり分からない、文字どおり「真っ黒な真夜中を持っている」)が、無知や見当のなさを表す慣用句として頻出する、夜の闇を「無知」に重ねた口語の比喩展開。