アラビア語 الدبران al-dabarān(アルデバラン、← الـ al-「定冠詞」+ دبران dabarān「従う者、後に来る者」、← دبر dabara「後ろから来る、後を追う」)からヨーロッパ語に入った国際的な星名で、現代ギリシャ語にはラテン語経由のヨーロッパ語形(フランス語 Aldébaran, イタリア語 Aldebaran, 英語 Aldebaran)を借用した転写語として定着した、典型的な学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)の星名。
源にあるアラビア語 al-dabarān(「従う者」)は、中世イスラム天文学の星名命名で、おうし座のこの明るい星が Πλειάδες(プレアデス星団、すばる)の後を追うように東の地平線から昇ることに由来する。プレアデス星団がまず昇り、その後に αλντεμπαράν が続いて昇る、夜空の星の運行の観察に基づいた命名で、「すばるを追う星」「プレアデスの後継ぎ」という意味を担う。
中世イスラム天文学(9-15 世紀のバグダード、コルドバ、サマルカンドなど)は、古代ギリシャの天文学(プトレマイオスの『アルマゲスト』)を継承・発展させ、星名の体系を整えた。多くの主要恒星がアラビア語起源の名前を持つ:Aldebaran(アルデバラン、おうし座 α 星), Vega(ベガ、こと座、← waqi「落ちるワシ」), Altair(アルタイル、わし座、← ṭāʾir「飛ぶ鳥」), Betelgeuse(ベテルギウス、オリオン座、← yad al-jawzāʾ「ジャウザの手」), Rigel(リゲル、オリオン座、← rijl「足」), Algol(アルゴル、ペルセウス座、← al-ġūl「悪鬼」)など、ヨーロッパ天文学の星名の半数以上がアラビア語起源で、al- 定冠詞を含む形が多いのが特徴。中世イスラム天文学から西欧への天文学の知識伝達は、12 世紀以降のラテン語訳を経て進み、現代の国際天文学の星名体系の基盤となった。
ギリシャ語の伝統的なアルデバランの呼称には、古代以来の Λαμπαδίας(ランバディアス、← λαμπάς「松明、明るい星」+ -ίας)があり、古代ギリシャの天文学者プトレマイオスやアルファーラビーの『アルマゲスト』に登場する。この古代の Λαμπαδίας と、中世以降のアラビア語経由の Αλντεμπαράν が並走し、現代の天文学では国際標準の Αλντεμπαράν が一般的、書きことば・学術文献では古典的な Λαμπαδίας も使われる、二系統の星名共存の典型例。
天文学的には、アルデバラン(α Tauri)は、おうし座の最も明るい恒星で、視等級 +0.85 の橙色の K 型巨星、地球から約 65 光年。Υάδες(ヒアデス星団)の手前に見えるが、星団の一員ではなく前景の星。北半球の冬の夜空で、オリオン座の右上にひときわ目立つ赤橙色の星として見える、肉眼観測の代表的な星の一つ。
派生・関連語族として αστήρ Αλντεμπαράν(アルデバラン星、書きことば), αλντεμπαρανικός(アルデバランの、形容詞、まれな書きことば), σύστημα Αλντεμπαράν(アルデバラン系、SF 文学・天文学)。
文学・SF では、アルデバランは「赤い星」「未知の世界」の象徴として頻出するモチーフ:H・P・ラヴクラフトの『暗黒の儀式』, アイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズ、ロシア・ソ連の SF(ストルガツキー兄弟)など、20 世紀の SF 文学の代表的な星名として国際的に知られる。