#物質
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ギリシャ語:λιβάνι
読み方:リヴァニ・リヴァーニ
ラテン文字:livani
中世ギリシャ語の λιβάνιν(乳香、香)を継承。古代ギリシャ語 λίβανος(乳香)に、指小辞 -ιον が付いた形。
古代ギリシャ語 λίβανος はセム語系の語からの借用で、ヘブライ語 ləḇōnā(乳香)やアラビア語 lubān(乳香)と同系とされる。さらに「白い」を表すセム語系の語根に由来し、乳香の白っぽい樹脂に関わる命名と考えられる。
英語 frankincense は古フランス語で「上質な香」を表す語から来た別系統の語。一方、英語 olibanum(乳香)は中世ラテン語 olibanum を経て、古代ギリシャ語 λίβανος とつながる。
類義語に θυμίαμα(香、燻香)。関連語には κερί(ろうそく、蝋)、μυρωδιά(におい)、άρωμα(香り)、καπνός(煙)、εκκλησία(教会)などが挙げられる。
ギリシャ語:θυμίαμα
読み方:シミアマ・シミーアマ・ティミアマ・ティミーアマ
ラテン文字:thymiama
古代ギリシャ語の θυμίαμα(香として焚くもの、燻香)に由来。θυμίαμα は、動詞 θυμιάω(香を焚く、燻す)に、結果物を表す接尾辞 -μα が付いた名詞である。
θυμιάω は「煙を立てる、焚く、供犠する」行為に関わる語。さらに印欧祖語で「煙を立てる、燻す」ことを表す語根に遡るとされる。
形には θυμίαμα と θυμιάμα がある。後者の θυμιάμα は、母音の連続を避けた形態として説明される。
類義語には λιβάνι(乳香、香、お香)など。関連語として θυμιατό(香炉、振り香炉)、θυμιατίζω(香を焚く)、καπνός(煙)、άρωμα(香り)、μυρωδιά(におい)、εκκλησία(教会)などがある。
ギリシャ語:σωματίδιο
読み方:ソマティディオ・ソマティーディオ
ラテン文字:somatidio
ヘレニズム期ギリシャ語の σωματίδιον(小さな身体、小さな物体)に由来。古代ギリシャ語の σῶμα(身体、物体)から作られた指小形で、σῶμα 本来の由来は確定していない。
現代の「粒子」という意味は、フランス語の corpuscule(小体、微粒子)や particule(粒子)からの意味借用。corpuscule もラテン語 corpus(身体、物体)の指小形 corpusculum に由来し、発想としては σωματίδιον と対応している。
関連語に άτομο(原子)、μόριο(分子)、ηλεκτρόνιο(電子)、πρωτόνιο(陽子)、νετρόνιο(中性子)などがある。連語には στοιχειώδες σωματίδιο(素粒子)などが挙げられる。
ギリシャ語:υδρατμός
読み方:イドゥラトゥモス・イドゥラトゥモース
ラテン文字:ydratmos
ギリシャ語:ασβεστόλιθος
読み方:アズヴェスソリトス・アズヴェスソーリトス・アズヴェストリトス・アズヴェストーリトス
ラテン文字:asvestolithos
ギリシャ語:ηφαιστειακή πέτρα
読み方:イフェスティアキペトゥラ・イフェスティアキーペトゥラ
ラテン文字:ifaisteiaki petra
ギリシャ語:ώχρα
読み方:オフラ・オーフラ
ラテン文字:ochra
ギリシャ語:λάσπη
読み方:ラスピ・ラースピ
ラテン文字:laspi
中世ギリシャ語の λάσπη を継承。
それ以前の語源は定かではなく、中世期から土と水が混じった泥を指す語として文献に現れる。
比喩で相手の評判を汚す「中傷、悪口」を表す使い方は、フランス語 boue(泥)からの意味借用とされる近代的な用法。λασπολογία(中傷合戦、誹謗中傷の応酬)のような合成語でもこの感覚が生きている。
派生語に λασπώδης(泥のような、ぬかるんだ)、λασπώνω(泥まみれにする、泥をはねる)、λασπωμένος(泥まみれの)、λασπολογία(中傷合戦)、λασποτόπι(ぬかるみの地)などがある。
ギリシャ語:άμμος
読み方:アモス・アーモス
ラテン文字:ammos
印欧祖語にさかのぼらない地中海圏の基層語からの借用とされる古代ギリシャ語の ἄμμος(砂)を継承。同じ「砂」を表す ψάμμος とは語形が混ざり合った可能性も指摘されている。
派生語に αμμώδης(砂地の)、αμμουδιά(砂浜)、αμμόλοφος(砂丘)、αμμόλιθος(砂岩)、αμμοθύελλα(砂嵐)、αμμοθεραπεία(砂療法)など。
英語の科学用語で「砂」を表す接頭辞 psamm(o)-(psammophile=好砂性生物、psammon=砂中生物群集など)は、同じ意味の古代ギリシャ語 ψάμμος をもとにした語。
ギリシャ語:ατμός
読み方:アトゥモス・アトゥモース
ラテン文字:atmos
古代ギリシャ語の ἀτμός(蒸気、湯気、匂い)に由来。古い形 ἀετμός にさかのぼり、さらなる起源は確かでないが、伝統的に ἄημι(吹く、息を送る)と結びつけられてきた。
ατμός は、νερό(水)が熱で気体になったもの、あるいは πάγος(氷)が昇華してできるもので、水や氷の気体の相に当たる語。
派生語・複合語に ατμόσφαιρα(大気、雰囲気。σφαῖρα「球」との合成)、ατμομηχανή(蒸気機関)、ατμόπλοιο(蒸気船)、ατμοστρόβιλος(蒸気タービン)、εξατμίζω(蒸発させる)、εξάτμιση(蒸発、排気管)など、蒸気にまつわる語を幅広く作る語根。
英語 atmosphere(大気、雰囲気)は同じ古代ギリシャ語 ἀτμός をもとにした語で、atmospheric(大気の、雰囲気のある)、atmospherics(雰囲気作りの演出)などもここから派生している。接頭辞 atmo- は atmometer(蒸発計)など気象・気化関連の学術語にも使われる。
ギリシャ語:βράχος
読み方:ブラホス・ブラーホス・ヴラホス・ヴラーホス
ラテン文字:vrachos
中世ギリシャ語 βράχος(岩、大岩)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、ヘレニズム期に中性名詞として使われた τὸ βράχος(岩)が、中世期に「大きく堂々としたもの」のイメージから増大形 -ος の男性名詞として再解釈(μετάπλαση)された結果。源にあるのは、古代ギリシャ語 βραχύς(短い、浅い)の中性複数形 τὰ βράχεα(浅い場所、浅瀬、浅い海の岩場)で、もとは「浅瀬」「浅い海中の岩場」を意味していた語が、地形としての「岩」へと意味の中心が移った経路を持つ。
源にある古代の βραχύς(短い、浅い、低い、簡潔な)は、印欧祖語の「短い、わずかな」を表す語根に由来し、ラテン語 brevis(短い、← 英 brief, abbreviate, brevity), ゴート語 ga-maurgjan(短くする)と同族。古代ギリシャ語の βραχύς からは現代まで広範な派生語族が継承され、βραχίονας(腕、もとは「短い肩」「上腕」、βραχιόλι も同源), βραχυχρόνιος(短時間の), βραχυγραφία(速記、← 英 stenography と同類), βραχύβιος(短命の), βραχυκύκλωμα(短絡、ショート、電気用語)が並ぶ、極めて生産的な造語要素。
意味の変化のすじみちは興味深い:古代の「浅い場所」(船にとって危険な浅瀬の岩礁)が、ビザンツ期の航海語彙の中で「岩礁、岩場」へと意味の中心が移り、さらに中世期に陸の「大きな岩」へと拡張された。海洋・地形の語彙が、古代の形容詞から具体的な岩石を指す名詞へと変化する、意味の物質化の典型例。
派生・関連語族として βράχια(複数形、岩場、岩礁、複数の岩), βραχάκι(小さな岩、口語の指小形), βραχούδι(書きことばの指小形), βραχοτέιχισμα(岩壁、書きことば), βραχόκηπος(ロックガーデン、岩石庭園), βραχονησίδα(小さな岩礁の島、書きことば), βραχώδης(岩の多い、岩がちの、形容詞), αναρρίχηση σε βράχο(ロッククライミング), βραχογράφημα(岩絵、考古学)。
同じ岩・石の領域には、書きことば寄りの λίθος(石、書きことば、専門語), 日常の πέτρα(石、岩、口語の中心語), 大きな塊の όγκος(塊、岩塊), 岩盤の κιμωλιόλιθος(石灰岩、← κιμωλία「白亜」+ λίθος)が並び、規模・用途・専門性で言い分けられる。βράχος は中規模から大規模の岩塊や岩壁を指し、特に地形として迫ってくる印象を持つ語として機能する。
地理学的には、ギリシャの代表的な「岩」として、アテネのアクロポリスの岩(ο βράχος της Ακρόπολης), メテオラの巨大岩塊(οι βράχοι των Μετεώρων), モネンヴァシアの岩(ο βράχος της Μονεμβασιάς), ザキントスの岩礁(οι βράχοι της Ζακύνθου)など、観光・歴史・地質の中核となる岩石地形が多数あり、ギリシャの自然・文化遺産の象徴として広く認識されている。
比喩用法は活発で、人について「圧力に負けない頑丈で揺るがない人」を「岩」と呼ぶ慣用が定着している(στάθηκε βράχος「岩のように踏みとどまった」, σαν βράχος「岩のように頑丈な」, ἐπὶ τῆς πέτρας ταύτης「この岩の上に」、マタイ伝 16:18 のキリストのペテロへの言葉と並ぶ宗教的比喩)。岩の不動・堅牢のイメージを介した精神的強さの表現が、自然と人格の関係を結ぶ慣用表現として機能する。
ギリシャ語:ελαιώδης
読み方:エレオディス・エレオーディス
ラテン文字:elaiodis
古代ギリシャ語の ἐλαιώδης(油のような, 油を帯びた)に由来。ἔλαιον(油, オリーブ油)に性質を作る -ώδης(〜のような, 〜を帯びた)が付いてできた形容詞。ラテン語 oleum(油)も同じ ἔλαιον の系統から入った語で, そこから英語 oil も Romance 経由で入った。現代の「油性の, 含油の」の用法はフランス語 huileux, oléagineux と英語 oily, oleaginous からの意味借用で整った。
同じ ἔλαιον の語族に λάδι(油, オイル), ελαιούχος(含油の), ελαιόλαδο(オリーブ油), ελαιοπαραγωγός(オリーブ生産者)。
λάδι が油そのものを指すのに対し, ελαιώδης は質感や成分について「油っぽい」「油を含む」と言うときに使う。υγρός(液体の, 液状の, 湿った)が液体一般を指すのに対し, ελαιώδης は油らしいぬめりや重さ, 油分の含有に焦点がある。
ギリシャ語:άλας
読み方:アラス・アーラス
ラテン文字:alas
古代ギリシャ語の ἅλας(塩)に由来。食卓の塩や料理には古代の指小語 ἁλάτιον を継承した αλάτι(塩、食塩)が使われ、άλας は化学や改まった文脈に残る。「地の塩(το άλας της γης)」のように、塩そのものを指す語義は文語。
化学の塩(えん)、および複数形 άλατα が指すミネラル、水垢、バスソルトなどの用法は、ドイツ語 Salz とフランス語 sel からの意味借用。
英語 halogen(ハロゲン)は ἅλς(塩。ἅλας の古代の基本形)と γεν-(生じる)をもとにした語。halo-(halite=岩塩など)も同じ語源。
ギリシャ語:αλάτι
読み方:アラティ・アラーティ
ラテン文字:alati
印欧祖語で「塩」を表す語根にさかのぼる古代ギリシャ語 ἅλς / ἅλας(塩)の指小形 ἁλάτιον を経て, 中世ギリシャ語の αλάτι を継承。ラテン語 sal, 英語 salt も同じ語族。
派生に αλατίζω(塩をかける), αλατώνω(塩漬けにする), αλατιέρα(塩入れ), αλάτινος(塩の), αφαλάτωση(脱塩), αλατοπίπερο(塩コショウ), αλατόνερο(塩水), αλατωρυχείο(岩塩鉱)。
文語形の άλας は改まった「塩」や化学の「塩類」に残る。同じ語族の αλμυρός は塩気を帯びた味や状態を表す語で, 物質としての αλάτι と対になる。
ギリシャ語:μέλι
読み方:メリ・メーリ
ラテン文字:meli
古代ギリシャ語の μέλι(蜂蜜)を継承。印欧祖語で蜂蜜を表す語根から続き、ラテン語 mel、ゴート語 miliþ、古アルメニア語 mełr と共通する。ミケーネ期の線文字Bに me-ri として記録がある。英語 mellifluous(甘美な)はラテン語 mel + fluere(流れる)から。
派生語に μέλισσα(ミツバチ)、μελίσσι(ミツバチの巣、群れ)、指小形 μελάκι、合成語に υδρόμελι(蜂蜜酒)、ροδόμελι(バラの蜂蜜)、μελίμηλον(蜂蜜のリンゴ)など。英語 marmalade(マーマレード)は μελίμηλον がラテン語・ポルトガル語を経てできた語。古代ギリシャ語の属格 μέλιτος は ταξίδι του μέλιτος(新婚旅行)、μήνας του μέλιτος(蜜月期)のような決まった言い方に残る。
ギリシャ語:σκόνη
読み方:スコニ・スコーニ
ラテン文字:skoni
中世ギリシャ語 σκόνη(埃、塵)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、古代ギリシャ語 κόνις(属格 κόνεως、塵、粉)を語幹に -η を付けた形で、語頭に補助的な [s] が発達(ανάπτυξη προτακτικού [s])した形。この [s] の発達は、定冠詞女性属格単数 τῆς、対格複数 τὰς との続き発音 [tisko] が再分節(αναλλαγή)されて [tis-sko] となる過程で生まれた、現代ギリシャ語ではよく見られる音韻変化の例。同じパターンの語に σταυρός(十字架、← σταυρός 自体は古代の σταυρός で別系統だが、初頭 [s] の発達としては同類), σπλάχνο(内臓、← σπλάγχνον)が並ぶ。
源にある古代の κόνις(塵、灰、粉、墓地の土)は、印欧祖語の「灰、塵、燃え尽きたもの」を表す語根に由来し、ラテン語 cinis(灰、← 英 incinerate「焼却する」), サンスクリット kanā-(粒、点)と関連する古層語。古代ギリシャ語の κόνις は、戦場の土埃、墓地の土、火葬の灰など、細かな粒子状のものを広く指した。
派生・関連語族として、κόνις 系統の書きことばは現代ギリシャ語にも生きており、κονιορτός(粉塵雲、砂煙、← κόνις + ὄρνυμι「立ち上げる」, 文字どおり「立ち上がる塵」), κονία(粉、書きことば), ασβεστόκονη(漆喰の粉), ξηροκονία(乾いた粉)が並ぶ。一方、口語形 σκόνη からは σκονάκι(小さな埃の塊、口語、または「カンニングペーパー」を意味する若者言葉), σκονάς(埃まみれの人、口語), σκόνωμα(埃まみれにすること、書きことば), σκονισμένος(埃まみれの、形容詞・過去分詞), σκονίζω(埃にする、動詞), ξεσκονίζω(埃を払う、動詞)が出ている。
複合表現では αστρική / κοσμική / διαστημική σκόνη(宇宙塵、← 英 cosmic dust の翻訳借用), ηφαιστειακή σκόνη(火山灰), σκόνη του Σαχάρα(サハラの塵)など、自然現象を表す近代語彙にも広く使われる。
同じ「粉・粒子」の領域には、土・地面の χώμα(土、土壌、地面、土地), 強く舞う κονιορτός(粉塵雲), 煙の καπνός(煙、タバコ), 灰の στάχτη(灰)が並ぶ。σκόνη は最も日常的・中立的で、家庭の埃から食品の粉末、洗剤、薬剤、消火剤まで広く使える基本語として機能する。比喩用法では、舞い上がった塵が視界を遮り、やがて収まって全体が見えるというイメージから、κατακάθισε η σκόνη(塵が収まる、騒ぎが収まる), σηκώνω σκόνη(塵を巻き上げる、騒ぎを起こす), τρώω τη σκόνη κάποιου(人に大きく遅れを取る、後塵を拝する)のような慣用句が定着している、視覚と動きの語彙が活発に展開する語。
ギリシャ語:αφρός
読み方:アフロス・アフロース
ラテン文字:afros
ギリシャ語:λάβα
読み方:ラヴァ・ラーヴァ
ラテン文字:lava
イタリア語 lava(溶岩)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)で、近代の地質学・火山学の語彙が西欧語からギリシャ語に取り入れられた典型例。ギリシャ語の女性名詞語尾を保ったまま λάβα として定着した。
源にあるイタリア語 lava は、ナポリ方言で「斜面を流れ落ちる雨水、流れ」を意味する語に由来するとされ、ヴェスヴィオ山の噴火で麓に流れ下った溶融岩を見て、もともとの「流れ」の語が新しい意味を帯びた、地域語起源の自然語彙。さらに語源をさかのぼるとラテン語 labes(崩落、滑り), lābī(滑る、流れ落ちる)に行き着く可能性が論じられる。18 世紀以降、ヨーロッパの地質学の発達とともに lava はそのままの形で各国語に広まり、フランス語 lave, スペイン語 lava, 英語 lava, ドイツ語 Lava と並走する国際語になった。
ギリシャ語の伝統的な火山語彙では、ヘシオドスの『神統記』以来の τυφών(嵐、火を吐く怪物、ティフォン), Ήφαιστος(ヘファイストス、火山の語源)の神話的系譜があるが、近代地質学の用語体系はラテン語・イタリア語起源の西欧語を取り入れて構築されており、ηφαίστειο(火山), λάβα(溶岩), κρατήρας(火口、← 古代 κρατήρ「混酒器」)が並ぶ。
派生・関連語族として λάβα-βόλος(溶岩を投げ飛ばす、形容詞), λαβορόη / λαβική ροή(溶岩流)。同じ火山現象の領域には、έκρηξη(爆発、噴火、激発), στάχτη(灰、火山灰), μάγμα(マグマ、← 古代 μάγμα「練り物、軟膏」が地質学で再利用された語), ηφαίστειο(火山)が並び、それぞれ「噴出活動」「噴出後の灰」「地下のもの」「噴出の場」と分担している。
文学的比喩では「溶岩のような感情の奔流」が定型化しており、έρωτας(恋愛、恋人), πάθος(情熱、激情)と組み合わさって「抑えきれない感情の高まり」を表す比喩として頻出する。装飾の領域では λάμπα λάβας(ラバランプ、内部で色つきの液体がゆっくり動くランプ)が現代の家庭インテリア語彙として定着している。
ギリシャ語:κερί
読み方:ケリ・ケリー
ラテン文字:keri
中世ギリシャ語 κερί(ν)(ろう、蝋)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は古代ギリシャ語 κηρίον(蜂の巣の板、ろうの小片、← κηρός「蝋」の指小形)に由来し、語末の -ν が脱落して κερί になった。
源にある古代の κηρός(蝋、蜜蝋)は印欧祖語の「蝋、蜜の固いもの」を表す語根に由来する語で、古代ギリシャ語の文献では蜜蝋、ろうそく、文字を刻むための蝋板(κηρός)として広く使われた。同じ語族にラテン語 cera(蝋、← ラテン語からはイタリア語 cera, スペイン語 cera, フランス語 cire の「蝋」語が出て、英語 cerumen「耳あか」も同源)が並び、地中海の古代語彙としてギリシャ語と並走する系譜を持つ。
書きことば(古典形)の κηρός から派生した語族には、κήρωμα(蝋引き、蝋掛け), κηρίο(蜂の巣の板、巣房、医学・養蜂語彙), κηρώδης(蝋のような), κηρόπηγμα(蝋燭の固化)が出ている。複合語としては, μελισσοκέρι(蜜蝋、← μέλισσα「ミツバチ」+ κερί), αγιοκέρι(教会用ろうそく、← άγιος「聖なる」+ κερί), κηροπήγιο(燭台、書きことば), κηροτεχνία(蝋細工術), κηροπλαστική(蝋造形)が並ぶ。
派生・関連語族として κεράκι(小さなろうそく、誕生日用の細いろうそく、ろうそく形の小型電球、指小形), κερωτό(蝋引きの紙、蝋を塗ったもの), κερώνω(蝋で塗る、蝋がけする), ξεκερώνω(蝋を取り除く、ワックス脱毛をする), αποτρίχωση με κερί(ワックス脱毛)。同じ蝋・ろうそくの領域には、形が長く太い λαμπάδα(長いろうそく、復活祭用のろうそく、書きことば), 素材名の παραφίνη(パラフィン), στεατίνη(ステアリン)が並び、用途と形で言い分ける。蜂が巣作りで分泌する物質が原点にあるため、養蜂・自然素材から教会・装飾品・脱毛用品まで、現代でも κερί が指す範囲は広い。
ギリシャ語:υγρός
読み方:イグロス・イグロース
ラテン文字:ygros
印欧祖語で「濡れる」を表す語根の子孫で, 物質が液体であることや物が濡れていることを言う古代ギリシャ語の形容詞 ὑγρός(液体の, 湿った)を継承。文法用語の υγρά σύμφωνα(液音)はフランス語 liquide からの意味借用で, ヘレニズム期の ὑγρά στοιχεῖα(液体の文字群)の言い方を受けつつ, 近代の文法概念として整えられた。ふつうは λ(ラムダ)と ρ(ロー)を指す。
同じ ὑγρός から派生した語に動詞 υγραίνω(湿らせる), 名詞 ύγρανση(湿らせること, 加湿), 形容詞 υγραντικός(保湿の), 名詞 υγρασία(湿気, 湿度), υγρότητα(湿り気, 液状性)。合成語では υγραέριο(液化ガス), υγρόφιλος(親水性の), υγροποίηση(液化), υγρομετρία(湿度測定), υγρογράφος(湿度記録計)が並ぶ。
「水」そのものを言うには νερό(水)か ύδωρ(水)を使い, 中性形の υγρό は水に限らず液体全般を指す。英語 hygrometer(湿度計), hygroscopic(吸湿性の), hygrograph(湿度記録計)は ὑγρός から経由した語族。ラテン語 ūmor(湿り気), ūmidus(湿った), 英語 humid(湿った), humidity(湿度)も同じ印欧語根の子孫とされる。
ギリシャ語:χιόνι
読み方:ヒョニ・ヒョーニ
ラテン文字:chioni
古代ギリシャ語 χιών(女性名詞、雪)の指小形 χιόνιον(小さな雪、雪片)が、中世ギリシャ語 χιόνι を経て現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。指小辞が原形と入れ替わって新しい主格となるのは、ギリシャ語の名詞語形成によく見られるパターン。
源にある古代の χιών は、印欧祖語の「雪、寒冷」を表す語根に由来し、ラテン語 hiems(冬), ヒッタイト語 gimi-(冬), サンスクリット hima-(雪、寒冷、ヒマラヤ「雪の住処」の hima- と同根), アルメニア語 jiwn(雪)など、印欧語族の「雪・冬」語彙の中核を成す。同じ χιών から派生した英語 chionophile(雪好き、寒冷好き), ラテン語 chioneus(雪のような)など、近代の地理学・生態学の専門用語が広まる。
派生・関連語族として χιονιάς(吹雪、雪嵐), χιονιά(雪玉、ひと雪), χιονάκι(小雪、小さな雪片、指小形), χιονοθύελλα(吹雪), χιονόπτωση(降雪), χιονοδρομικό κέντρο(スキー場), χιονονιφάδα(雪片), χιονισμένος(雪の積もった), χιονώδης(雪のような), χιονοστιβάδα(雪崩), Χιονάτη(白雪姫、Snow White の翻訳借用)。類義語的に χειμώνας(冬、季節としての冬)と対の関係。
比喩的に「白さ・冷たさ」「テレビの砂嵐(受信不良時の白いノイズ)」を指す用法も日常で広く使われ、Τα χέρια μου είναι χιόνι(手が氷のように冷たい), Η τηλεόραση κάνει χιόνι(テレビに砂嵐が出る), Θα 'ρθουν χιόνια στα μαλλιά σου(髪に雪が降る = 白髪になる)など、定型表現が豊富。
ギリシャ語:έδαφος
読み方:エダフォス・エーダフォス
ラテン文字:edafos
古代ギリシャ語の ἔδαφος(地面、地表、底)からの学術借用。ἕδος(座、土台)に -φος が付いた形と考えられ、さらに ἕζομαι(座る)の根につながる。比喩の「土台、条件」として使う用法は、フランス語 terrain(地面、活動の場)の影響による。
派生語に εδαφικός(土壌の、領土の)、εδάφιο(節、聖書や法律の一節;古代 ἐδάφιον「底、節」から)、εδαφολογία(土壌学)、εδαφοτεχνική(土質工学)など。関連語に γη(地球、大地)、χώμα(土、土壌)、επικράτεια(領域、版図)、χώρα(国、土地)。
英語 edaphic(土壌の)は同じ古代ギリシャ語 ἔδαφος をもとにした生態学・農学の学術語で、土壌条件による生物の差を論じるときに使う。
ギリシャ語:στάχτη
読み方:スタフティ・スターフティ
ラテン文字:stachti
ヘレニズム期のギリシャ語 στακτή κονία(滴下した粉、灰汁)の στακτή が、形容詞「滴下した」(στακτός「滴下した」の女性形)から名詞化し、中世期に異化(ανομοίωση)で [kt > xt] の音変化を起こして στάχτη になった継承語(κληρονομιά)。意味も「灰汁(灰を水で漉した液体)」から「灰そのもの」へ移った。
ヘレニズム期の στακτός は動詞 στάζω(滴る、滴下する)の過去分詞で、この動詞は印欧祖語の「滴る、垂れる」を表す語根に由来する。同じ語根からラテン語 stagnum(淀んだ水、池、英語 stagnant の語源)が派生したと見る説もある。なお、στάχτη の語源を「立つ、留まる」を意味する印欧祖語の語根(英語 static, stay と同根)に求める説もあるが、Tri は στάζω 系統を採用している。
派生に σταχτής(灰色の、形容詞、語形変化あり), σταχτί(灰色、不変化形容詞・名詞), σταχτοδοχείο(灰皿、文字どおり「灰を入れる容器」), σταχτόχρωμος(灰色の、灰色がかった), σταχτοπούτα(シンデレラ、文字どおり「灰の中で寝る娘」、童話 Cendrillon の翻訳借用)。類義語に τέφρα(灰、書きことば寄り、火山灰・遺灰など格式高い文脈で), σποδός(遺灰、遺骸、文章語)。比喩的に「灰燼に帰す」「灰になる」を意味する γίνομαι στάχτη が広く使われる。
ギリシャ語:πέτρα
読み方:ペトゥラ・ペートゥラ
ラテン文字:petra
古代ギリシャ語の πέτρα(岩, 岩盤)を継承。「大きな岩」から「石」全般へ意味が広がった。
英語の人名 Peter, ペテロ は同根の Πέτρος(男性形, 岩)から。新約聖書マタイ 16:18 でイエスが弟子シモンをそう呼んだことに由来する。英語 petroleum(石油)は πέτρα とラテン語 oleum(油)からの合成で「石の油」, petrify(石にする, 恐怖で固まらせる)も同じ系統。
指小形に πετρούλα, πετραδάκι(小石)。派生に πέτρινος(石の), πετρώνω(石化する)。合成に πετρέλαιο(石油), πετρογραφία(岩石学)。λίθος も同じ「石」を指す古代由来の語で, 現代ギリシャ語では鉱物学, 医学, 合成語に残る。ふつうの「石」には πέτρα を使う。
ギリシャ語:λίθος
読み方:リソス・リーソス・リトス・リートス
ラテン文字:lithos
古代ギリシャ語の λίθος(石)に由来。起源はよくわかっていない。英語の接尾辞 -lith, -lite(〜石)や litho-(lithography「石版画」、lithosphere「岩石圏」、monolith「一枚岩」など)、元素名 lithium(リチウム)はこの語から。
現代ギリシャ語は文語的な語で、ふつうは πέτρα を使う。λίθος は地質学や医学、建築の文脈、歴史的な慣用句に残る。男性名詞のほか、λυδία λίθος(試金石)や φιλοσοφική λίθος(賢者の石)のような固定表現では女性名詞として使う。派生語に形容詞 λίθινος(石の)、合成語の ασβεστόλιθος(石灰岩)、λιθόσφαιρα(岩石圏)など。
ギリシャ語:χώμα
読み方:ホマ・ホーマ
ラテン文字:choma
古代ギリシャ語の動詞 χώννυμι(積み上げる、埋める)から派生した χῶμα(土手、盛り土)を継承。
近い語に γη(大地、地球)、έδαφος(土壌、地面)、σκόνη(埃、粉末)などがある。
複数形 χώματα は大量の土のほか、土をいじって遊ぶことや、土砂に埋もれる状況などにも使う。土地や故郷を指す際にもこの複数形が用いられる。
埋葬や死の文脈では、「土の中に入る」という表現で亡くなることや葬られることを表す。Ας είναι ελαφρό το χώμα που θα σε σκεπάσει(あなたを覆う土が軽いものでありますように)のような追悼の定型句でもおなじみだ。
指小形 χωματάκι は少量の土や小さな塊を表し、愛着を込めて使われることもある。

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