古代ギリシャ語の ὕδωρ(水)からの学術借用。ふだんの「水」は νερό(水)に譲り, 学術・公的・法的・宗教的な文脈の書き言葉に残る。印欧祖語で「水」を表した語根の子孫で, ヘレニズム期以降に νηρόν(新鮮な水)を縮めた νερό がふつうの水を指すようになり, ύδωρ は改まった場面に限られた。
同じ ὕδωρ の語族に派生形容詞 υδάτινος(水の, 水状の), υδατικός(水に関する), υδατώδης(水のような, 水っぽい)。合成語では υδρο- を冠する語が数十並び, υδρογόνο(水素), υδραυλικός(水道工, 水力の), υδροηλεκτρικός(水力発電の), υδροφόρος(給水の), υδρόβιος(水生の), υδατάνθρακας(炭水化物), υδροκέφαλος(水頭症の)などが続く。
ふだんの νερό に対し, ύδωρ は法令・科学・宗教の用語に現れる改まった語。複数形 ύδατα は水域や各種の水をまとめて言うときに使う。近代の言い方では βαρύ ύδωρ(重水), εσωτερικά ύδατα(内水), χωρικά ύδατα(領海)など, フランス語 eau lourde, 英語 inland waters, フランス語 eaux territoriales からの翻訳借用が並び, 専門用語の体系はこうして整った。英語 hydro-, hydrogen, hydraulic, hydrant, ラテン語 unda(波), 英語 water, ドイツ語 Wasser は同じ印欧語根の子孫。