中世ギリシャ語 πληρώνω(満たす、払い終える)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、古代ギリシャ語 πληρῶ / πληρόω(満たす、いっぱいにする、完成する)の語幹に -ώνω 動詞接尾辞(中世以降に発達した動詞形成パターン)を付けて作られた。現代の意味「支払う」はヘレニズム期にすでに現れ、もとの「満たす」から「勘定を満額にして済ませる、義務を完遂する」という意味展開を経て定着した。
源にある古代の πληρόω は、形容詞 πλήρης(満ちた、いっぱいの)の派生で、印欧祖語の「満たす、たくさんの」を表す語根に由来する。同じ語根からはラテン語 plēnus(満ちた、← 英 plenty, plenitude, plenum), plēre(満たす、← 英 supply, complete, replenish), サンスクリット pūrṇa-(満ちた), 英語 full(満ちた、ゲルマン語)が並び、「満たす・多い」を表すヨーロッパ語彙の根幹を成す古層語。
古代以来の πληρόω からの派生語族には、πλήρης(満ちた、形容詞), πλήρωμα(満たすもの、充満、書きことば、← 新約聖書ガラテヤ書 4:4「πλήρωμα τοῦ χρόνου(時の充満)」のような神学・哲学用語), πληρωμή(支払い、書きことばと口語の中間), αναπληρώνω(補充する、補う、← ανά-「再び」+ πληρώνω), εκπληρώνω(履行する、満たす、← εκ-「外へ」+ πληρώνω), συμπληρώνω(補完する、書き入れる), ξεπληρώνω(払い終える、清算する、← ξε-「完全に」+ πληρώνω)が並ぶ、極めて生産的な動詞語族。
派生・関連語族として πληρωμή(支払い), πληρωτής(支払い者、口語), πληρωτέος(支払い義務のある、書きことば), πληρωτικός(支払い能力のある、書きことば), απλήρωτος(未払いの), ξεπλήρωμα(清算、完済), πληρώνομαι(支払いを受ける、給料をもらう、受け身)。
意味の領域は、現代では金銭の支払い(家賃・税金・買い物・賃金)を中心に、買収(金で人を動かす), 代償の支払い(罪・失敗・犠牲), 報復・仕返し(同じやり方でやり返す), 報恩(神の恵みで報いる)まで広く展開する。基本の対象は χρήμα(金、お金、通貨、貨幣)で、支払いの方法・時期・対象を添えて具体的に表現する。慣用句では、πληρώνω από την τσέπη μου(自腹を切る), πληρώνω τα σπασμένα(他人の失敗のしわ寄せを受ける), πληρώνω κάποιον με το ίδιο νόμισμα(同じやり方でやり返す)が日常会話で頻出し、金銭の比喩から人間関係・道義の表現まで広がる、活発な動詞。