イタリア語 palto(コート、外套)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)。源にあるイタリア語 palto は、さらにフランス語 paletot(コート、外套、ガウン)の借用で、フランス語 paletot は中世フランス語 palletoque, palletot(外套、長い上着、← オランダ語 paltrok「巡礼者の長衣」, ← palt「ぼろ布」+ rok「上着」)にさかのぼる、ゲルマン語起源の中世の衣類語。
源にあるオランダ語 paltrok(巡礼者の長衣、ぼろぼろの長着)は、巡礼や旅人の上に羽織る簡素な長衣を指す中世西欧の衣類語で、フランス語に入った後、近代の都会的な「コート」のイメージへと意味の中心が移った。19 世紀のパリで paletot は男性の正式な外套として流行し、その語が地中海・ヨーロッパ各地に広まった経緯がある。
イタリア語 palto は、フランス語 paletot を音韻的に短縮した形で、イタリア語の音韻にあわせた借用形。ギリシャ語にはイタリア語経由で入り、現代ギリシャ語の不変化中性名詞 παλτό として定着した。同じパターンの不変化外来語として、κασκόλ(マフラー、← 仏 cache-col), μπαρ(バー), ταξί(タクシー、← 仏 taxi), μενύ(メニュー、← 仏 menu)が並び、近代以降のフランス語・イタリア語からの借用が中性で不変化扱いになる典型例。
ヨーロッパ各語の「コート」語彙では、英語 paletot(古語、現代では coat / overcoat が一般), ドイツ語 Paletot(古語), スペイン語 paletó(コート), ポルトガル語 paletó(ジャケット)が並走し、19 世紀フランスのファッション文化の遺産として、各国語に残っている。現代の英語では coat(コート、← 古フランス語 cote)が主流で、paletot は古風な響きを持つ。
派生・関連語族として παλτουδιά(厚手のコート、口語の増大形、← παλτό + -ουδιά), παλτό-βεστόνι(短めのコート風ジャケット、複合語), ζεστό παλτό(暖かいコート), βαρύ παλτό(重いコート), μάλλινο παλτό(ウールのコート), καμπαρντίνα(トレンチコート、← イタリア語 gabardina < 古フランス語)。
同じ防寒・上着の領域には、より重く正装的な マントー(μαντό、外套), 短めのジャケットの σακάκι(上着、ジャケット), スーツの κουστούμι(スーツ), トレンチコートの καμπαρντίνα(トレンチコート), セーターの πουλόβερ(プルオーバー、← 英 pullover), アノラックの ανοράκ(アノラック、← イヌイット語)が並び、形・用途・季節で言い分けられる。
ギリシャの冬の生活文化では、παλτό は χειμώνας(冬)の象徴的な衣類で、雪の少ないギリシャ南部でも 12–2 月の冷え込みに対応する必須アイテムとして位置づけられる。慣用句では Φόρεσε το παλτό σου(コートを着なさい)が母親や年長者の優しい注意の定型句として日常会話に頻出し、家族の気遣いと寒さの実用性が結びついた表現として機能する。