イタリア語 piatto(皿、平らなもの)からギリシャ語に入った逆方向の借用、αντιδάνειο(再借用)。源にあるイタリア語 piatto は、後期ラテン語 *platus(平らな、広い、← 古代ギリシャ語 πλατύς「広い、平たい」からの借用)の継承で、古代ギリシャ語の語が外国語を経由して再びギリシャ語に戻った典型例。中世末から近世にかけてのヴェネツィア・ジェノヴァを介した地中海貿易の中で、生活道具の名前としてギリシャ語に取り入れられた。
源にある古代の πλατύς(広い、平たい、平坦な)は、印欧祖語の「広い、平たい、伸びる」を表す語根に由来し、サンスクリット pŕ̥thuḥ(広い), ラテン語 plānus(平らな、← 英 plain, plan, plane)と同族。古代ギリシャ語の πλατύς からは、極めて生産的な語族が現代まで継承されており、πλατεία(広場、← 古代 πλατεία ὁδός「広い道」), πλάτη(背中、← 「広い面」), πλάτος(幅、広さ), πλατύνω(広げる), πλατύφυλλος(葉が広い、植物学), πλάτωμα(平地、テラス), Πλάτων(プラトン、哲学者の名前、← 「広い肩を持つ者」)が並ぶ。
ラテン語 *platus(後期ラテン語)は、古代ローマ末期から中世にかけてラテン語に取り入れられたギリシャ語起源の語で、そこから多様なロマンス諸語の派生を生んだ:イタリア語 piatto(皿), piazza(広場), piano(平らな、平面、計画、ピアノ), スペイン語 plato, plaza, plano, フランス語 plat, place, plan, ポルトガル語 prato, praça, plano, 英語 plate(皿、← 古フランス語 plate「金属の板」), place(場所、← ラ platea「広場」), plain(平原), plan(計画)。「平らな・広い」概念から派生した極めて広範な国際語彙の中核を成す。
ギリシャ語の πιάτο は、その国際的な語族の中でイタリア語経由で戻ってきた形で、古代の πλατύς のもつ「平たい」の意味の中心が、現代では「食器の皿」「料理の盛り付け」へと特化している。書きことばの古典形 πινάκιον(皿、書きことば、← 古代 πίναξ「板、皿」)は別系統だが、専門語として並走する。
派生・関連語族として πιατάκι(小皿、受け皿、ソーサー、口語の指小形), πιατέλα(盛り皿、大皿、← 伊 piattella), πιατικά(皿類、食器、複数形), πιατοθήκη(皿入れ、食器棚), πιατοστραμμένος(皿を伏せた), σερβίτσιο πιάτων(皿のセット、ディナーセット), ξύλινο πιάτο(木の皿), χάρτινο πιάτο(紙皿)。
意味の領域は、食卓の皿(皿そのもの)から、一皿分の料理(盛られた量), 料理の名前・コース(πρώτο πιάτο「前菜」, κυρίως πιάτο「メインディッシュ」, κρύο πιάτο「冷菜」), 皿に似た形の物(πιάτο της ορχήστρας「シンバル」, πιάτο της ρόδας「ホイールキャップ」, δορυφορικό πιάτο「衛星アンテナ、パラボラアンテナ」)まで幅広く展開する。
慣用句では τα θέλει όλα στο πιάτο(何もかも皿に載せて出してほしがる、← 英 want everything served on a plate と同じ慣用比喩), για ένα πιάτο φαΐ(ひと皿の飯ほどの値で、二束三文で)が頻出する、皿を介した社会的・経済的な比喩表現の語彙。