ギリシャ語:λύγκας
読み方:リンガス・リーンガス
ラテン文字:lygkas
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ギリシャ語:λύγκας
読み方:リンガス・リーンガス
ラテン文字:lygkas
ギリシャ語:ρήσος
読み方:リソス・リーソス
ラテン文字:risos
ふたつの語源を持つ同形異義語。
オオヤマネコとしては、スラブ語の ris(オオヤマネコ)からの借用で、口語的な言い方。標準的な呼び方は λύγκας(オオヤマネコ)で、北半球の国々に分布するネコ科の肉食動物を指す。黄褐色の毛皮、短い尾、極めて鋭い視力を持つ四足獣。
アカゲザルとしては、近代ラテン語の rhesus からの借用。古代ギリシャ語の Ῥῆσος(イリアスに登場するトラキア王の名)にちなむ命名で、オナガザル科のマカク属(学名 Macaca mulatta)の学名として定着した。医学・生物学の実験動物としてよく知られ、Rh 因子(赤血球抗原)の名もこの動物にちなむ。
ギリシャ語:λαγός
読み方:ラゴス・ラゴース
ラテン文字:lagos
中世ギリシャ語の λαγός(野ウサギ)から続く語。古代ギリシャ語の λαγώς に -ός を付けて作り直した形か、または古代ギリシャ語イオン方言の λαγός にさかのぼるとされる。古代の語形は印欧祖語で「だらりと垂れる」を表す語根に「耳」を意味する語が結びついた形と考えられ、ウサギの長く垂れた耳を写した名と見られている。
ふつうの飼育ウサギを指す κουνέλι(ウサギ)とは別の語で、λαγός は野生の野ウサギ側を担う。
派生に λαγουδάκι(子ウサギ、ウサギちゃん。指小形), λαγουδίνα(雌の野ウサギ)。
Λαγωός(うさぎ座)は、ホメロスなどで使われた古い語形がそのまま星座名として残ったもの。
英語の lagomorph(ウサギ目、重歯目)は、古代の同じ語族の λαγώς と μορφή(形)の合成語として作られた。
ギリシャ語:κήτος
読み方:キトス・キートス
ラテン文字:kitos
ギリシャ語:λύκος
読み方:リコス・リーコス
ラテン文字:lykos
古代ギリシャ語の λύκος(狼)を継承。印欧祖語の「狼」を表す語根から続き、ラテン語 lupus、英語 wolf、サンスクリット vṛka、スラヴ祖語 vьlkъ と共通する。英語 lycanthrope(狼男)もラテン語 lycanthrōpus を経て同じ語源で、古代ギリシャ語の合成語 λυκάνθρωπος(λύκος と ἄνθρωπος)から。
派生語に λύκαινα(雌狼)、指小形に λυκάκι、λυκόπουλο(いずれも子狼)、合成語に λυκόφως(薄暮、「狼の光」)など。σκύλος(犬)、αλεπού(狐)、πρόβατο(羊)、αρνί(子羊)と並んで成句や寓話によく登場する。
旧式銃の撃鉄を指すのは、ヘレニズム期ギリシャ語の λύκος にあった「打ち金、てこ」の用法に、フランス語で銃の部品を chien(犬)と呼ぶ慣用が重なったため。同じ用法の類義語に κόκορας(雄鶏)。先頭大文字の Λύκος は南天のおおかみ座で、Κένταυρος(ケンタウルス座)が狙う獣とされる。
ギリシャ語:κριός
読み方:クリオス・クリオース
ラテン文字:krios
古代ギリシャ語の κριός(雄羊)を継承。ふつうは κριάρι(雄羊)を使う。攻城用の破城槌の用法は、雄羊が角で突き当たる姿から。
先頭大文字の Κριός(おひつじ座、牡羊座)は、金毛の雄羊クリソマロス(Χρυσόμαλλος)にちなむ。継母に命を狙われたプリクソスとヘレを背に乗せて空を飛び、コルキスまで運んだ雄羊。プリクソスが到着後に犠牲として捧げた毛皮が「金羊毛」となり、アルゴー船の英雄たちが求めに行ったという話。ゼウスが雄羊を星にした姿。
ギリシャ語:λέων
読み方:レオン・レーオン
ラテン文字:leon
ギリシャ語:ταύρος
読み方:タヴロス・ターヴロス
ラテン文字:tavros
古代ギリシャ語の ταῦρος(雄牛)を継承。印欧祖語で「雄牛」を表した語と共通の語源を持ち, ラテン語 taurus(雄牛)も同じ語根から出ている。先頭大文字の Ταύρος は星座と占星術でおうし座, その期間に生まれた人を指す固有名的用法。
同じ ταῦρος の語族に指小形 ταυράκι(小さな雄牛), 形容詞 ταύρειος(雄牛の), 合成語 ταυρομαχία(闘牛), ταυρομάχος(闘牛士), ταυροκαθάψια(古代の牛跳び儀式), ταυροειδής(雄牛のような形の), ταυρόμορφος(雄牛の形をした)。
英語 Taurus(おうし座)はラテン語 taurus を経て入り, tauromachy(闘牛)は ταυρομαχία から。牛の語彙では βόδι(去勢牛)が去勢された使役・食用の牛を指すのに対し, ταύρος は繁殖用の去勢されていない雄牛を指す。
ギリシャ語:λιοντάρι
読み方:リョダリ・リョダーリ・リョンダリ・リョンダーリ
ラテン文字:liontari
中世ギリシャ語 λιοντάρι(ν)(ライオン)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、ヘレニズム期 λεοντάριον(小さなライオン、← 古代 λέων「ライオン」の語幹 λεοντ- + -άριον 指小接尾辞)を継承し、母音連続 [eo > io] を避ける母音融合(συνίζηση)と、書きことば伝統からの λεο- 形の影響を経た音韻調整の結果。語末の -ν が脱落して現代の λιοντάρι になった。指小形が指小性を失って一般語化する、現代ギリシャ語の名詞語形成の典型パターン。
源にある古代の λέων(属格 λέοντος、ライオン)は、印欧祖語に確実な対応が見出されない地中海・西アジアの古層語で、エジプト・メソポタミア・小アジアからギリシャに伝わった動物名と論じられる。同じ系譜には、エジプト語 mai / labu, ヘブライ語 לְבָא lābāʾ(ライオン), アッカド語 labbu(ライオン)が並び、近東の古層動物名の系譜の中で、ヨーロッパ言語に取り入れられた古い借用語の可能性が論じられる。
ラテン語 leō(属格 leōnis、ライオン、← 古代ギリシャ語 λέων からの古い借用)を経て、ヨーロッパ各語の「ライオン」語彙が広まった:フランス語 lion, スペイン語 león, イタリア語 leone, ポルトガル語 leão, 英語 lion, ドイツ語 Löwe, ロシア語 лев lev。古代ギリシャ語の λέων は地中海・西欧のライオン語彙の共通祖となった国際語の典型例。
書きことばの古典形 λέων(ライオン、書きことば、星座のしし座 Λέων)は、現代ギリシャ語にも並走しており、特に星座(しし座), 紋章学, 神話・象徴・固有名詞(人名 Λέων「レオン」, 都市名 Λεόντειο)の文脈で使われる。日常語の λιοντάρι と書きことば λέων の二語が並走するパターンは、γέρος / γέροντας(老人), δράκος / δράκοντας(竜), σταγόνα / σταγών(しずく)と同類の口語・書きことば対立。
派生・関連語族として λιονταράκι(子ライオン、口語の指小形), λιονταρίνα(雌ライオン、女性形), λιονταρίσιος(ライオンの、ライオンらしい、形容詞), λιονταρίσιο θάρρος(ライオンの勇気), λιονταρίσιο ουρλιαχτό(ライオンの吼え声), λεοντάρι(書きことば形), λεοντόκαρδος(ライオンの心を持つ、勇敢な、← 英 lionhearted, 仏 cœur de lion、リチャード獅子心王の通称の翻訳借用), λεοντόσπαρτος(ライオンに種をまかれた、神話的), Λεοντόκαρδος(リチャード獅子心王 Richard Lionheart の名)。
文化的・象徴的に、ライオンは古代ギリシャ・ヨーロッパ文化の中核的な動物:(a)百獣の王(ο βασιλιάς των ζώων、力・支配の象徴), (b)勇気・高貴の象徴(紋章学の中核モチーフ、英国王室・スコットランド・ベルギー・オランダの紋章), (c)神話のヘラクレスのネメアの獅子退治の伝説、(d)古代ギリシャのミケーネのライオン門、(e)キリスト教では新約聖書の「ユダ族のライオン」(キリストの象徴), 黙示録の四つの生き物の一つ、(f)星座のしし座(Λέων)など、極めて多層的な象徴性を持つ。
慣用句では όρμησε σαν λιοντάρι(ライオンのように突進した), μάχεται σαν λιοντάρι(ライオンのように戦う), καρδιά λιονταριού(ライオンの心、勇敢さ)が、勇気・力強さ・闘争心の比喩として、文学・スポーツ・軍事の表現の中核を担う。古代ギリシャ・近代ヨーロッパに共通する動物象徴の典型例で、ライオンの王者性・勇敢さを介した人間の徳目の表現が、文化を超えて広く共有される普遍的な慣用表現の系譜を持つ。
ギリシャ語:αίγα
読み方:エガ・エーガ
ラテン文字:aiga
中世ギリシャ語 αίγα(雌のヤギ、ヤギ、← 古代 αἴξ「ヤギ」の対格 αἶγα が主格として固定化されたパラダイム再編 μετάπλαση の結果)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。古代ギリシャ語 αἴξ は、属格 αἰγός、対格 αἶγα という不規則な格変化を持つ -ξ 語幹名詞だったが、中世期に対格を主格として固定する整理が起こり、現代ギリシャ語の αίγα の形になった。同じパラダイム再編のパターンは σταγόνα(しずく、← σταγών), αλεπού(キツネ、← ἀλώπηξ)と同類。
源にある古代の αἴξ(属格 αἰγός、ヤギ、雌ヤギ)は、印欧祖語の「ヤギ、子ヤギ」を表す語根に由来し、サンスクリット अज ajá-(雄ヤギ), アヴェスタ語 azō-, アルメニア語 այծ ayc(ヤギ)と同族。地中海・印欧語の「ヤギ」を表す最古層の語彙の一つで、古代ギリシャ世界の畜産・神話・宗教の中核的な動物として深く根付いていた。
古代ギリシャ神話では、αἴξ はゼウスの幼少期にゼウスを乳で養った雌ヤギ Αμάλθεια(アマルテイア)の伝承、ディオニュソス祭のヤギの犠牲、ヤギの皮で作られた神具(αιγίς「アイギス、ゼウスの盾、← αἴξ + イデオロギーの結びつき」、英 aegis)など、神話・宗教の中核に位置する動物。古代の αἰγίς は、ゼウスとアテナの神聖な盾の名前として、現代ギリシャ語にも αιγίδα(保護、後援、← 文字どおり「アイギスの盾の下に」)として継承され、英語 aegis として国際語化している。
地名 Αιγαίο πέλαγος(エーゲ海)は、語源説が複数あり、(a)αἴξ「ヤギ」(複数形 αἶγες が「白波」のメタファーになった、または「ヤギの島」の意), (b)アテナイ王 Αἰγεύς(アイゲウス、テセウスの父、エーゲ海に身を投げた伝承)に由来とする説、(c)海神 Aἰγαίων(アイガイオン、海の老巨人)に由来する説などが論じられる。古代以来の地名の語源を巡る議論として、α- 系のヤギ・アイゲウス・海神の伝承が文化的に重なり合って、地名を形成した。
古代以来の αἴξ から派生した語族は、現代まで広範に継承される:αίγα(雌ヤギ、書きことば寄り), αίγαγρος(野生ヤギ、← αἴξ + ἄγριος「野生の」), αίγειος(ヤギの、書きことばの形容詞), αιγίδα(保護、後援、← 古代の盾の名), Αιγόκερως(やぎ座、山羊座、← αἴξ + κέρας「角」), Αιγαίο(エーゲ海), αιγοβάδιστος(やぎのように歩く、書きことば), αιγοτόμος(ヤギを屠る、書きことば), αιγοβόσκος(ヤギ飼い、書きことば)が並ぶ、神話・地理・天文の語彙の中核を成す。
派生・関連語族として αίγα(雌ヤギ、書きことば寄り), αιγίτσα(小さな雌ヤギ、書きことばの指小形), αίγα του Αιγαίου(エーゲ海のヤギ), αίγαγρος(野生ヤギ), χιμαίρα(キマイラ、← 古代 χίμαιρα「冬生まれの雌ヤギ」、神話の混合怪物)。
同じヤギ語彙の領域には、日常語の κατσίκα(ヤギ、雌ヤギ), 雄ヤギの τράγος, 子ヤギの κατσίκι, 老雌ヤギの γκιόσα, 野生ヤギの αίγαγρος, クレタの野生ヤギの κρι-κρι が並び、αίγα は文語・古風な響きを持つ書きことば寄りの語として、これらの日常語と棲み分ける。学名・天文・地理の用語では、αίγα 系が国際語の語源として頻出する:Capricornus(やぎ座、← ラ caper「ヤギ」+ cornu「角」), Capricorn(英 Capricorn), Aegean Sea(エーゲ海)など。
ギリシャ語:νυφίτσα
読み方:ニフィツァ・ニフィーツァ
ラテン文字:nyfitsa
中世ギリシャ語 νυφίτσα を継承。
古代ギリシャ語 νύμφη(花嫁、若い女性、ニンフ)に指小辞 -ίτσα が付いた νυμφίτσα(小さな花嫁、娘)がもとの形で、中世に μ が落ちて νυφίτσα になった。
細身でしなやかに動くこの小動物に若い娘の優雅さを重ねた民俗的な命名で、ヨーロッパの他言語でもイタリア語 donnola(小さな貴婦人)のように「花嫁」「娘」のイメージでイタチを呼ぶ例が並行して見られる。
共通の語源を持つ関連語に νύφη(花嫁、嫁)、νυφικό(婚礼衣装)などがある。
ギリシャ語:γάτα
読み方:ガタ・ガータ
ラテン文字:gata
中世ラテン語 catta(雌猫), cattus(雄猫)からヴェネツィア語 gata(猫)を経て、中世ギリシャ語 κάττα / γάτα(猫)として取り入れられた外来借用(δάνειο)。借用の過程で、定冠詞女性対格との続き発音 [tin-k] で軟口蓋音が前鼻音化([tiŋg])し、さらに [γ] に変わるという現代ギリシャ語に共通の音韻変化 [k > γ] を経て、現代の γάτα の形に定着した。同じ音韻変化のパターンは、γκαβός(盲目の、← καβός), γκαζοτήρ(ガス点火器)など、定冠詞対格との連音で起こる現象。
源にある中世ラテン語 catta / cattus は、エジプト起源の語と Tri 注記が示す。古代エジプトでは猫が神聖視され、女神バステトの聖獣として崇拝された歴史を持つ。エジプトのコプト語 ϣⲁⲩ šau(猫), ヌビア語 kadiska と関連する地中海・北アフリカの古層語彙で、ローマ帝国期にエジプトからローマに猫の家畜化と語彙が広まり、そこから中世以降のヨーロッパ各語に分布したとされる。
ラテン語 catta / cattus からは、現代のヨーロッパ語の「猫」語彙の大半が派生しており、フランス語 chatte / chat, スペイン語 gata / gato, イタリア語 gatta / gatto, ポルトガル語 gata / gato, 英語 cat, ドイツ語 Katze, スコットランドゲール語 cat, ロシア語 кот kot / кошка koshka が並ぶ。古代ギリシャ語の伝統的な「猫」語彙には αἴλουρος(猫、書きことば、現代の専門語にも残る)があったが、中世以降の日常語では γάτα に取って代わられた。
派生・関連語族として γάτος(雄猫、男性形), γατάκι(子猫、小さな猫、指小形), γατούλα(かわいい猫、女性指小形), γατούλι(かわいい子猫、口語), γατάρα(大きな猫、増大形), γαταρός(雄ネコ、増大形), γατίσιος(猫の、形容詞), γατίνα(雌猫、書きことば), γατομαγειρευτής(猫殺し、書きことば), γατο-(猫の、を表す連結形), γατόψαρο(ナマズ、文字どおり「猫魚」、長いひげが猫を連想させる), γατοκαβγάς(猫の喧嘩、騒がしい喧嘩)。書きことばの古典形 αίλουρος は学術用語として残り、αιλουροειδή(ネコ科)として現代の生物学分類に使われる。
ギリシャ語の伝統では、猫を呼ぶ愛称・口語に ψιψίνα(猫ちゃん、← 擬音 ψιψ-), γαλή(猫を言う別の古語)が並走する。猫の鳴き声 νιαούρισμα(ニャー), γουργουρίζω(喉を鳴らす)も日常の猫描写の語彙として頻出する。
比喩用法は活発で、人について「甘え上手でかわいらしい女性」(χαδιάρα γάτα), 「嫉妬深い女」(ζηλιάρα γάτα), 「頭の切れる人、世渡り上手」(γάτα ως «επιτήδειος»)の意味展開を持つ。慣用句では όταν λείπει η γάτα, χορεύουν τα ποντίκια(猫がいないとネズミが踊る、← 英 when the cat's away, the mice will play の国際共有句), σαν τη βρεγμένη γάτα(濡れた猫のように、ばつが悪そうに), ούτε γάτα ούτε ζημιά(猫も被害もない、何事もなかったことに)が頻出する、猫を介した人間社会の比喩表現の宝庫。黒猫の不吉さ(μαύρη γάτα φέρνει γρουσουζιά)の δεισιδαιμονία(迷信)も、ヨーロッパ共通の動物迷信としてギリシャに根付いている。
ギリシャ語:φώκια
読み方:フォキャ・フォーキャ
ラテン文字:fokia
古代ギリシャ語 φώκη(アザラシ)が、複数形 φῶκαι を基盤に中世期で φώκες と再構築され、新しい単数形 φώκια が形成されたパラダイム再編(μετάπλαση)の結果として現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。古代から中世への複数形優位の整理を経た、興味深い活用パラダイム再編の例で、Tri 注記によれば、地名の Φώκαια(フォカイア、現トルコのフォチャ)が古代から「アザラシ」と関連付けられて呼ばれていた歴史も、語形の安定化に関わったとされる。
源にある古代の φώκη(アザラシ)は、印欧祖語に確実な対応が見出されない地中海・前ギリシャ語基層の語とする説が有力(Beekes)。古代ギリシャ語ではホメロス以来、海獣の名前として『オデュッセイア』第 4 巻のメネラオスが海神プロテウスを捕まえる場面に登場するなど、地中海の海洋文化と深く結びついた語。
地名 Φώκαια(フォカイア)は、古代イオニアの主要都市の一つで、紀元前 7 世紀に西地中海に植民してマッシリア(現マルセイユ)を建設した海洋都市国家の名前。古代地理学者は「フォカイア」の名前がアザラシの φώκη に由来する可能性を論じており、ギリシャ語の地名と動物名が文化的に結びついた歴史を持つ。
ラテン語 phōca(アザラシ、← 古代ギリシャ語 φώκη からの借用)を経由して、フランス語 phoque(アザラシ), スペイン語 foca, イタリア語 foca, ドイツ語 Phoke(古語)として広まった。英語 seal は別系統(ゲルマン語起源)だが、学名 Monachus monachus(モンクアザラシ), Phoca vitulina(ゴマフアザラシ)など、生物学の学名にはギリシャ語起源の φώκη / Phoca が広く残る。
派生・関連語族として φωκίτσα(小さなアザラシ、指小形), φώκαινα(イルカ科の鯨類、ネズミイルカ、書きことば、← φώκη + -αινα 女性形), μεσογειακή φώκια(地中海モンクアザラシ), φώκια μονάχους(モンクアザラシ), φωκογενής(アザラシから生まれた、神話的な書きことば)。
地中海モンクアザラシ(Monachus monachus)は、ギリシャの海岸で観察される最重要の海洋哺乳類の一つで、絶滅危惧種として強く保護されている。エーゲ海・イオニア海・地中海の島々(特にスポラデス諸島の海洋公園)で見られ、ギリシャの自然保護運動の象徴的な動物として知られる。同じ食肉目鰭脚類(Pinnipedia)の領域には、近い動物として θαλάσσιος ελέφαντας(ゾウアザラシ), θαλάσσιο λιοντάρι(アシカ、オタリア), θαλάσσιος λεοπάρδαλη(ヒョウアザラシ)が並ぶ。
比喩用法では、女性の外見をけなす侮蔑語として「ずんぐりして醜い女」を意味する強い口語があり、太って動きが鈍いという身体的特徴を否定的に表す動物名罵倒語の一つとして、γαϊδούρα(ロバ), γουρούνα(豚)と同じ系列に位置づけられる。
ギリシャ語:άλογο
読み方:アロゴ・アーロゴ
ラテン文字:alogo
古代ギリシャ語の形容詞 ἄλογος(理性のない, 言葉をもたない)の中性形が名詞化して, ヘレニズム期コイネーの ἄλογον(馬)を経て継承。もとは軍で兵士(λόγος を持つ存在)と対比される「理性をもたない動物」を指し, やがて馬に特化した。「馬力」の用法は現代の ίππος(馬, 馬力)からの意味借用。
派生に αλογάκι(子馬), αλογίσιος(馬の), αλογοκλέφτης(馬泥棒), αλογόμυγα(アブ), αλογότριχα(馬毛), αλογέμπορας(馬商人)。
類義語に ίππος(改まった言い方), άτι(駿馬, 古風), φοράδα(雌馬), πουλάρι(子馬)。
ギリシャ語:αρκούδα
読み方:アルクダ・アルクーダ
ラテン文字:arkouda
中世ギリシャ語 αρκούδα(クマ、← αρκούδιν「小さなクマ、若い熊」の増大形 -α が付いた形)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、ヘレニズム期 ἀρκούδιον(小さなクマ、← 古代 ἄρκτος「クマ」+ -ούδιον 指小接尾辞)の指小性が失われ、増大形が女性名詞として再形成された珍しい経路を持つ。古代の文学語 ἄρκτος(クマ、北極星、北方)は現代ギリシャ語にも書きことば・学術語として並走しており、二形が共存する。
源にある古代の ἄρκτος(クマ、北方、北極星のおおぐま座)は、印欧祖語の「クマ」を表す語根に由来し、サンスクリット ŕ̥kṣa-, ラテン語 ursus(クマ、← 英 ursine), ウェールズ語 arth, 古ペルシア語 araša- と同族。地中海・印欧語の「クマ」を表す最古層の語彙の一つで、星座名(おおぐま座 Ἄρκτος, こぐま座 Ἀρκτοῦρος), 地理用語(北極 Ἀρκτική、文字どおり「クマの方向の」), 神話・宗教語彙の中核を担った語。
古代以来の ἄρκτος から派生した語族には、Αρκτική(北極、← 「クマの方向の地」), Ανταρκτική(南極、← αντι-「反対の」+ Αρκτική), αρκτικός(北極の、形容詞), αρκτούρος(うしかい座のアルクトゥルス、← ἄρκτος + οὐρός「番人」、文字どおり「クマの番人」)が並ぶ、極地・天文・神話の語彙の中核。地球規模の極地の名前がギリシャ語の「クマ」に由来するのは、北の星座のおおぐま座が古代の航海術の指針となり、北方が「クマの方向」と呼ばれた天文・地理の知識文化の証。
派生・関連語族として αρκουδίτσα(小さなクマ、指小形), αρκουδάκι(小さなクマ、テディベア、指小形), αρκουδιάρης(クマ使い、← 古来のジプシーやヴラフ族の伝統職業), αρκουδίστας(クマ使い、書きことば), αρκουδότρυπα(クマの巣穴), αρκουδικός(クマの、形容詞), αρκουδολάγνος(クマ好きの、口語の珍しい形容詞)。同じクマ類の領域には、種類別に πολική αρκούδα / λευκή αρκούδα(ホッキョクグマ), καφέ αρκούδα(ヒグマ), γκρίζα αρκούδα(ハイイログマ), μαύρη αρκούδα(クロクマ)が並び、生物学的分類が完備されている。
ギリシャでは、ピンドス山脈・ロドピ山脈などに生息するヒグマ(καφέ αρκούδα、Ursus arctos)が現代ギリシャ唯一の野生クマで、絶滅危惧種として保護されている。中世のジプシーやヴラフ族の伝統では、訓練したクマを連れて村を回る「クマ踊り」(αρκουδιάρηδες)の文化があり、近代まで続いた古い民俗習慣の名残として語彙に残る。
比喩用法は活発で、太って大柄な人や粗野で動作の鈍い人を「クマ」と呼ぶ蔑称、口語で超大国ロシアを「クマ」のイメージで象徴する政治的比喩、慣用句 σαν αρκούδα(クマのように、極端に), της αρκούδας(ものすごく、ひどく、Κάνει κρύο της αρκούδας「ものすごく寒い」), Κοιμάται σαν αρκούδα(クマのようによく眠る)が頻出する、動物の身体的特徴を介した人間表現の典型例。
ギリシャ語:γαζέλα
読み方:ガゼラ・ガゼーラ
ラテン文字:gazela
フランス語の gazelle(ガゼル)から入った借用語で、そのフランス語は古フランス語の gazel を経てアラビア語の غزال(ガゼル)にさかのぼる。現代ギリシャ語では、この国際的な動物名がそのまま定着した。
γαζέλα はガゼル類を指す語で、ελάφι(シカ)のようなシカ全般の基本語とは区別される。そこから、長い脚や軽やかな身のこなしを連想させて、すらりとした美しい女性やモデルをたとえる語にも広がった。
まれに γκαζέλα(同じ意味の別綴り)とも綴る。語頭の /g/ を二文字で書いた形で、意味の中心は変わらない。
経済の文脈では、アメリカ英語の gazelle company にならった言い方として、短期間で大きく成長する中小企業を指す。動物のすばやさや身軽さを重ねた比喩的な用法である。
主な意味は「ガゼル」。そこから、優雅で細身の美女をほめて言う比喩や、急成長する企業を指す経済用語にも使われる。
ギリシャ語:κουνέλι
読み方:クネリ・クネーリ
ラテン文字:kouneli
イタリア方言 cunelo(ウサギ)の複数形 cuneli を中性単数として再解釈した中世ギリシャ語 κουνέλι が、現代まで受け継がれた外来借用(δάνειο)。イタリア語の複数形がギリシャ語の中性単数として取り込まれた珍しい借用パターンで、中世期の地中海交易・ヴェネツィア・ジェノヴァのバイリンガル文化圏で起こった語形変化の例。
源にあるイタリア語方言 cunelo / coniglio は、ラテン語 cuniculus(ウサギ、地下の通路、トンネル)の継承形で、ローマ時代から地中海地域で広く使われたウサギの語。古代の cuniculus は「地下に巣穴を掘って暮らす動物」「地下通路」「鉱山の坑道」を意味する多義語で、ウサギの巣穴を掘る習性に由来する命名だった。
源にあるラテン語 cuniculus は、印欧祖語起源の確実な対応がなく、地中海・前ロマンス語基層の語、あるいはイベリア半島の前印欧語起源の語とされる説が有力。古代ローマの博物学者プリニウスの『博物誌』第 8 巻 81 章で、ヒスパニア(イベリア半島)に由来する動物として記述されており、ウサギの命名がローマ世界で確立された経緯を示す。同じラテン語 cuniculus からは、フランス語 conil(古語), スペイン語 conejo, ポルトガル語 coelho, カタロニア語 conill, 英語 cony / coney(古語、ウサギ), ドイツ語 Kaninchen(ウサギ、← 中世ラテン経由)が並び、ヨーロッパ各語の「ウサギ」語彙の中核となった。
古代ギリシャ語の伝統的な「ウサギ」語彙には、κύνικλος / κόνικλος(ラテン語 cuniculus からの借用と、独自の κύνικλος の二系統), λαγωός / λαγώς(ノウサギ)の二語が並走していた。現代ギリシャ語の κουνέλι は飼育ウサギ・家ウサギを中心に指し、λαγός(ノウサギ、← μσν. λαγός < αρχ. λαγωός)は野生のノウサギを指す、明確な棲み分けがある。
派生・関連語族として κουνελάκι(子ウサギ、小さなウサギ、指小形、口語), κουνέλα(雌ウサギ、女性形), κούνελος(雄ウサギ、まれな男性形), κουνελοτροφία(ウサギの飼育), κουνελοτρόφος(ウサギの飼育者), κουνελάς(ウサギ売り、ウサギ飼育者、口語), αγριοκούνελο(野ウサギ、野生のウサギ), κουνελοκούνελο(ウサギの群れ、口語の重複表現)。
学名 Oryctolagus cuniculus(アナウサギ、← 古代ギリシャ語 ὀρυκτός「掘られた」+ λαγώς「ウサギ」+ ラ cuniculus)は、ギリシャ語とラテン語の合成語で、「巣穴を掘るウサギ」の意味を持つ。リンネ命名以来の生物学分類で広く使われる学名。
ギリシャ料理では、κουνέλι στιφάδο(ウサギの玉ねぎ煮込み、伝統料理)が代表的な料理で、地中海・バルカン半島の冬の伝統食として広く知られる。同じ料理パターンには λαγός στιφάδο(ノウサギの煮込み)もあり、ウサギの種類で言い分ける。
比喩用法では、ウサギの繁殖力の強さから「子だくさん、繁殖が速い」を意味する γεννάει σαν κουνέλα(雌ウサギのようにたくさん子供を産む、口語の俗語), または「臆病な、すぐ逃げる」を意味する φοβάται σαν κουνέλι(ウサギのように怖がる)のような慣用句がある。
ギリシャ語:αντιλόπη
読み方:アンディロピ・アンディローピ・アンディロンピ・アンディローンピ・アンディロピ・アンディローピ
ラテン文字:antilopi
フランス語 antilope(アンテロープ)からギリシャ語に入った逆方向の借用、αντιδάνειο(再借用)。源にあるフランス語 antilope は、中世ラテン語 antalopus / anthalopus を経由して、中世ギリシャ語 ἀνθόλοψ(伝説上の獣の名)にさかのぼる。ギリシャ語に発する語が西欧語を経て、近代に動物学・自然史の語彙として再びギリシャ語に戻った典型例。
源にある中世ギリシャ語 ἀνθόλοψ は、ビザンツ期の動物寓意集(フィシオロゴス)に登場する伝説上の獣の名前で、東洋から伝わった野生動物のイメージを神話的に表現したものとされる。語形の解釈には複数の説があり、Tri 注記によれば「東方の言語からの借用に、語源俗解(παρετυμολογία)で ἄνθος(花)+ -λοψ を当てたもの」と説明される。古代ギリシャ語にはヒメハト・ハタオリドリの一種を意味する πηνέλοψ(カモの一種、ペネロペーの語源とされる), δρύοψ(キツツキ、← δρῦς「樫」+ -οψ)といった -οψ 接尾辞を持つ動物名が並んでおり、ἀνθόλοψ もこの系列に位置づけられる珍しい命名。
中世期から近代にかけて、欧州の動物学・狩猟文学・聖書翻訳の文脈で antalopus / antilope の語が広まり、英語 antelope(13 世紀頃), フランス語 antilope(17 世紀頃), ドイツ語 Antilope, スペイン語 antílope として近代の動物学語彙の中核となった。アフリカ・アジアの草原に住む細身の草食獣を指す総称として、近代生物学の発達とともに概念が確立された。
源にある古代ギリシャ語の合成要素 -οψ(〜の顔をした、〜の様子の、← ὄψ「顔、目」、← ὁράω「見る」)は、動物の特徴を表す古い造語要素で、現代ギリシャ語の όψη(顔、外観、書きことば), μάτι(目、視線), ὄψις(視覚、見た目)と同じ語族。
派生・関連語族として αντιλοπίσιος(レイヨウの、形容詞), αγέλη αντιλοπών(レイヨウの群れ), αφρικανική / ασιατική αντιλόπη(アフリカ/アジアのレイヨウ), αντιλόπη της Σαχάρας(サハラのレイヨウ、サブスペシーズ)。同じウシ科の野生草食動物の領域には、ガゼルの γαζέλα(← 仏 gazelle < アラビア語 ġazāl), ヌーの γκνου(← 英 gnu), シカの ελάφι(鹿), ヤギの αίγαγρος(野生ヤギ), バッファローの βούβαλος(バッファロー)が並び、αντιλόπη はそれらより広いくくりとして、Bovidae(ウシ科)の中の Antilopinae(レイヨウ亜科)系統の総称的な呼び名として機能する。
野生動物の語彙としては、自然番組・動物園・図鑑的な記述に頻出し、サバンナ・草原の動物相を表す典型的な語彙の一つ。狩猟・自然保護・絶滅危惧種の文脈でも、近代の生態学・環境保全語彙の中核を成す。
ギリシャ語:ασβός
読み方:アズヴォス・アズヴォース
ラテン文字:asvos
スラヴ語 jazv(ă)(アナグマ)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)に、ギリシャ語の男性名詞語尾 -ός を付けて整えた語。中世期から近世にかけてのバルカン半島でのスラヴ語圏との文化接触の中で、生活語彙・動物語彙が広まる過程で取り入れられた。
源にあるスラヴ語の祖形 *jazva(アナグマ、穴)は、印欧祖語の「鋭い・尖った」を表す語根に由来する説と、原スラヴ語の「穴、巣穴」を表す語根との関連説が論じられる。アナグマが地中に深い巣穴を掘って暮らす習性から、「穴の動物」として命名されたという解釈が伝統的。同じ語族からは、ブルガリア語 язовец jazovets(アナグマ), セルビア・クロアチア語 jazavac, ロシア語 язва jazva(古語、傷、潰瘍), ポーランド語 jaźwiec(古語、アナグマ)が並び、スラヴ諸語の動物・地形語彙の中で同系の系譜を保つ。
ギリシャ語の動物語彙には、スラヴ語起源の借用が中世期に複数取り入れられた歴史があり、αρκούδα(クマ、ただし古代起源 ἄρκτος + 指小形 αρκούδιον からの継承)と並んで、ασβός もその系譜の一例として位置づけられる。バルカン半島の野生動物名は、ギリシャ語・スラヴ語・ヴラフ語・アルバニア語の間で複雑な相互借用関係を持つ。
書きことばの古典的な対応語は不在で、古代ギリシャ語にはアナグマを指す確実な専門名が存在せず、古代の動物学では γαλέη / γαλῆ(イタチ、テン、← 動詞 γαλεάω)の総称的な語で呼ばれていたとされる。中世以降にスラヴ語からの借用 ασβός が定着して、現代ギリシャ語の正式名となった。
派生・関連語族として ασβίσιος(アナグマの、形容詞、口語), ασβότρυπα(アナグマの巣穴), ασβομούρης(アナグマ顔の、口語の罵倒語), ασβολή(アナグマの体毛、書きことば)。学名 Meles meles はラテン語 mēlēs(アナグマ、ロバ、混乱)の二重命名で、リンネが 1758 年の『自然の体系』で命名した。
同じ食肉目イヌ亜目の小型哺乳類の領域には、近い動物として νυφίτσα(イタチ), κουνάβι(テン), βιδρα / βίδρα(カワウソ), σκίουρος(リス), αλεπού(キツネ), λύκος(オオカミ)が並び、それぞれの動物名がそれぞれの起源(古代継承・スラヴ借用・ラテン借用)を反映する。ヨーロッパの森林・農村地帯の生態系を表す動物語彙の中で、ασβός は穴居性・夜行性・雑食性の動物を代表する語として位置づけられる。
ギリシャ語:τσακάλι
読み方:ツァカリ・ツァカーリ
ラテン文字:tsakali
トルコ語 çakal(ジャッカル)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)に、ギリシャ語の中性名詞語尾 -ι を付けて整えた語。源にあるトルコ語 çakal は、ペルシア語 شغال šaġāl(ジャッカル)からの借用で、さらにさかのぼるとサンスクリット शृगाल śr̥gāla-(ジャッカル)に行き着く、インド・イラン・トルコ・地中海を結ぶ動物名語彙の系譜の中核。
源にあるサンスクリット śr̥gāla- は、印欧祖語の「呼ぶ、鳴く」を表す語根に由来するとされ、ジャッカルの特徴的な遠吠えに由来する命名と説明される。古代インドの『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』の動物寓話に登場する śr̥gāla(巧妙で抜け目のない動物)の比喩用法は、ペルシア語・トルコ語を経て地中海の τσακάλι にも引き継がれた。「抜け目のない、ずる賢い」という人格の比喩は、インド以来の長い伝承を持つ。
ヨーロッパ各語の「ジャッカル」語彙では、英語 jackal, フランス語 chacal, スペイン語 chacal, ポルトガル語 chacal, イタリア語 sciacallo, ドイツ語 Schakal が並び、いずれもトルコ語・ペルシア語経由でヨーロッパに広まった国際語の系譜にある。学名 Canis aureus(コミミジャッカル、キンイロジャッカル、ヨーロッパ・西アジアに分布)はラテン語起源の二語名。
ギリシャでは、コミミジャッカル(Canis aureus)が北部・中部の森林・湿地帯に生息し、近代まで一般的な野生動物だったが、20 世紀後半の生息地破壊により個体数が減少、現代では保護対象となっている。同じイヌ科の動物の領域には、近い種として λύκος(オオカミ), σκύλος(イヌ), αλεπού(キツネ)が並び、野生・家畜の区分と社会的・象徴的な意味づけで言い分けられる。
派生・関連語族として τσακαλάκι(小さなジャッカル、ちびっこ切れ者、口語の親しみのある指小形), τσάκαλος(やり手、切れ者、男性名詞、口語), τσακαλίσιος(ジャッカルの、形容詞), τσακαλο-(ジャッカルの、を表す連結形、口語), τσακαλόψυχος(ジャッカルの魂を持つ、抜け目のない、書きことば)。
比喩用法は活発で、人を褒めて「頭が切れる」「抜け目がない」「要領よく立ち回る」を意味する用法が、口語表現として定着している。同じ比喩を担う「切れ者」語彙には、γάτα(猫、抜け目のない人), σπίρτο(切れ者、← マッチの火がぱっとつく速さ), αστέρι(星、スター、秀才), ξεφτέρι(タカ、切れ者), σαΐνι(タカ、切れ者), τζιμάνι(できるやつ、口語), καπάτσος(世渡り上手、抜け目のない), επιτήδειος(如才ない、有能な)が並び、それぞれ動物・天体・道具のイメージを介した比喩表現の語彙体系を形成する。
τσακάλι は、特に「コンピューターに強い」「数学が得意」「商売がうまい」「裏で交渉がうまい」のような、技能と機転を組み合わせた評価で使われることが多く、Είναι τσακάλι στα μαθηματικά(数学に関しては切れ者だ), Τσακάλι στα κομπιούτερ(コンピューターに強い), Πού το βρήκες, ρε τσακάλι(どこで見つけたんだ、この切れ者)のような、軽い称賛と親しみを込めた口語表現として頻出する。
ギリシャ語:καμηλοπάρδαλη
読み方:カミロパルダリ・カミロパールダリ
ラテン文字:kamilopardali
ヘレニズム期ギリシャ語 καμηλοπάρδαλις(キリン、← 古代 κάμηλος「ラクダ」+ πάρδαλις「ヒョウ、雌ヒョウ」)を、近代以降に書きことばから再導入した学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。古典形 -ις の語尾を中世以降の女性名詞語尾 -η に整えて καμηλοπάρδαλη となった。長い首がラクダを、斑点模様がヒョウを思わせるという見立てから生まれた、古代ギリシャ人の動物観察に基づく合成命名。
源にある古代の κάμηλος(ラクダ)は、セム語起源の借用で、フェニキア語・ヘブライ語 גָּמָל gāmāl(ラクダ)と関連する。古代ギリシャ語に紀元前 5 世紀以前に取り入れられ、ヘロドトスやアリストパネスの著作にも現れる、地中海・西アジアの貿易語彙の中核。同じセム語族からは、ラテン語 camelus(ラクダ), アラビア語 جمل jamal, 英語 camel, ドイツ語 Kamel が並び、地中海・近東の動物語彙の共通祖となった。
源にある古代の πάρδαλις(ヒョウ、雌ヒョウ)は、ペルシア語 pārs(ヒョウ)からの借用で、さらにさかのぼると印欧祖語の「斑点・色合い」を表す語根に由来するとされる。同じ系譜にラテン語 pardus(ヒョウ), サンスクリット pŕ̥dāku-(ヒョウ、毒蛇)が並び、東洋から地中海への動物名の伝播を反映する語。古代ギリシャ語の πάρδος(雄ヒョウ), πάρδαλις(雌ヒョウ)が、現代ギリシャ語の λεοπάρδαλη(ヒョウ、← λέων「ライオン」+ πάρδαλις、近代の合成)として継承される。
学名 Giraffa camelopardalis(リンネ 1758)の種小名 camelopardalis は、ラテン語 camelopardus / camelopardalis(ラクダヒョウ、キリン、← 古代ギリシャ語 καμηλοπάρδαλις の借用)から取られ、古代の見立てが現代の生物学命名に引き継がれた、動物分類学の語源遺産。属名 Giraffa は、アラビア語 زرافة zarāfa(キリン、← おそらくアフリカ由来)が中世ラテン語経由で広まった別系統の語で、英語 giraffe, フランス語 girafe, スペイン語 jirafa の語源。
ギリシャ語の伝統的なキリン語彙は古代ギリシャ語の καμηλοπάρδαλις を現代まで継承する一方、近代以降は西欧由来の γιραφή / ζιραφή(ジラフ、現代の口語、← 仏 girafe)も並走することがある。学術・公式の語は καμηλοπάρδαλη が標準。
派生・関連語族として καμηλοπαρδάλεις(複数形), καμηλοπαρδαλίσιος(キリンの、形容詞、書きことば), μωρό καμηλοπάρδαλη(子キリン), αρσενική / θηλυκή καμηλοπάρδαλη(雄/雌のキリン), λαιμός της καμηλοπάρδαλης(キリンの首、長さの比喩としても使われる), κηλίδες της καμηλοπάρδαλης(キリンの斑点)。
同じアフリカの大型哺乳類の領域には、近い動物として οκάπι(オカピ、キリン科の唯一の近縁種), λεοπάρδαλη(ヒョウ), ελέφαντας(ゾウ), ρινόκερως(サイ), ιπποπόταμος(カバ)が並び、サバンナ・草原の動物相を表すアフリカ自然語彙の中核を成す。動物園・自然番組・図鑑の文脈で頻出する語で、Giraffa camelopardalis(マサイキリン、アミメキリン等)の各亜種の名前と組み合わせて使われる。
ギリシャ語:βουβάλι
読み方:ヴウヴァリ・ヴウヴァーリ
ラテン文字:vouvali
ギリシャ語:γάιδαρος
読み方:ガイダロス・ガーイダロス
ラテン文字:gaidaros
中世ギリシャ語 *γάιδαρος(推定形、ロバ)が、現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。源にあるのはアラビア語 gadar / gaidar(ロバ)からの中世期の借用で、ギリシャ語の語尾 -ος を伴って取り入れられた。中世期の異形に γάδαρος, γαϊδάριον(ロバ、指小形)が見られる。
源にあるアラビア語 ḡadar / غَدَر はロバを指す古代以来のセム語族の語彙で、エジプト・シリア方言から地中海貿易を通じてビザンツ世界に広まったと見られる。古代ギリシャ語の固有語 ὄνος(ロバ、属格 ὄνου)は中世以降に廃れ、アラビア語経由の γάιδαρος が取って代わった経緯。同じアラビア語起源の語に スペイン語 borrico, ポルトガル語 burro(ロバ、ラテン burricus 由来)など、地中海諸語の「ロバ」語彙が並ぶ。
派生・関連語族として γαϊδούρα / γαϊδάρα(雌ロバ、女性形), γαϊδαράκος(小さなロバ、可愛いロバ、指小形), γαϊδούρι(ロバ、別形), γαϊδουρινός(ロバの、形容詞), γαϊδουροκαλόκαιρο(小春日和、ロバ夏、← 11 月初旬の暖かい日々を指す慣用語), γαϊδουρομέλισσα(マルハナバチ、文字どおり「ロバ蜂」、大きな蜂の俗称)。古代由来の ὄνος は学術・古典語彙に残る。
無神経で恩知らずな人物への罵倒として広く使われ、ロバの鈍重さ・頑固さ・大きな耳・忍耐強さに結びつくイメージから、多数の慣用句・諺が生まれている: κατά φωνή και ο γάιδαρος(噂をすれば現れる), Φάγαμε τον γάιδαρο κι έμεινε η ουρά(大仕事の大半が終わった), Ήτανε στραβό το κλήμα, το 'φαγε κι ο γάιδαρος(泣きっ面に蜂)など、地中海農村文化に深く根ざした表現が日常で生きている。
ギリシャ語:μοσχάρι
読み方:モスハリ・モスハーリ
ラテン文字:moschari
中世ギリシャ語 μοσκάρι(子牛、← ヘレニズム期 μοσχάριον「小さな雄牛、子牛」、← 古代 μόσχος「若い枝、若芽、子牛」の指小形)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。標準綴り μοσχάρι は、書きことば伝統からの学術的影響(λόγια επίδραση)で口語形 μοσκάρι の [σκ] が古典綴り [σχ] に修正された形で、Tri は「λόγ. επίδρ. στο μοσκάρι(μοσκάρι に対する書きことばの影響)」と記す。継承の流れに学術的な綴り修正が重なった、二層的な系譜を持つ。
源にある古代の μόσχος は、もともと「若い枝、若芽」を意味し、そこから「若く新しいもの」「若い動物」へと比喩的に意味が広がって、ヘレニズム期には子牛を中心に指す語になった。同じ語からは香料の「ムスク」を意味する μόσχος(麝香、ジャコウ、ジャコウジカの分泌物)も出ており、これはアラビア語 misk 経由でラテン語 muscus, 英語 musk, 日本語の「ムスク」へと広がった、ギリシャ語起源の国際語彙でもある。地名「モスクワ」もまったくの別系統だが、ジャコウとの混同で語源俗解的に結びつけられる例がある。
派生・関連語族として μοσχαράκι(小さな子牛、指小形), μοσχαρίσιος(子牛の、形容詞、← μοσχάρι + -ίσιος), μοσχαρίσιο κρέας(子牛肉), μοσχάρι-βόδι(成牛になる過程の若い牛), μοσκάρι(民間口語形)。
牛の家族語彙体系では、上位概念の βοοειδή(牛類、家畜のウシ)の下に、雌の αγελάδα(雌牛、乳牛), 去勢の βόδι(去勢牛、農耕用), 繁殖用の雄の ταύρος(雄牛), 子の μοσχάρι(子牛), 若年の δαμάλι(若い牛)が並ぶ。年齢と性で細かく言い分ける畜産語彙の体系が古代から維持されている。料理では子牛肉が肉料理の代表素材として頻出し、μοσχάρι κοκκινιστό(トマト煮), μοσχάρι στιφάδο(玉ねぎ煮込み), μοσχάρι γιουβέτσι(土鍋焼き)といった伝統料理の名前が定型化している。罵倒語としての用法は、太って動きが鈍い人や、無神経・愚鈍な人を動物に重ねる口語の比喩展開で、γαϊδούρι(ロバ), γουρούνι(豚)と同じ系列の畜産動物罵倒語に並ぶ。
ギリシャ語:βόδι
読み方:ヴォディ・ヴォーディ
ラテン文字:vodi
中世ギリシャ語 βόδι(ν)(牛、去勢牛)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、ヘレニズム期 βοΐδιον(小さな牛、← 古代 βοῦς「牛」の指小形)が、中世期に発音 [v(ói)] を経て、母音連続の回避(αποφυγή της χασμωδίας)と二重母音化(διφθογγοποίηση), 半母音 [j] の脱落を経て βόδι(ν) に整えられた、複雑な音韻変化のすじみちを持つ。語末の -ν が脱落して現代の βόδι になった。
源にある古代の βοῦς(属格 βοός、牛、雄牛、雌牛)は、印欧祖語の「牛」を表す語根に由来し、サンスクリット gáu-, ラテン語 bōs(属格 bovis、← 英 bovine), 英語 cow, ドイツ語 Kuh と同族。地中海・印欧語の「牛」を表す最古層の語彙の一つで、農耕・畜産文化と深く結びつく語族。
古代以来の βοῦς からの派生語族は極めて広く、現代に継承される語族には βοοειδή(牛類、家畜のウシ、← βοῦς + εἶδος「種類」), βουκολικός(牧歌的な、← 古代 βουκόλος「牛飼い」、英 bucolic の語源), βούτυρο(バター、← βοῦς + τυρός「チーズ」, 文字どおり「牛のチーズ」、英 butter, 仏 beurre の語源), εκατόμβη(百頭の犠牲、← ἑκατόν「百」+ βοῦς、英 hecatomb), βοδινός(牛の、牛肉の、形容詞), βοδολάτρης(牛崇拝者、書きことば), βουστάσιο(牛舎), βοϊδάμαξα(牛車)が並ぶ。古代の最重要家畜が農耕・宗教・食文化のすべてに関わった結果、極めて多様な派生語族を残した語。
派生・関連語族として βόιδι(民間口語形), βόδινος / βοδινός(牛の、牛肉の), βοδάρα(大きな牛、増大形), βοδάκι(小さな牛、子牛、指小形), βοδίλα(牛臭さ、口語), βοδότομαρο(牛皮、罵倒語), βοϊδολάτης(牛飼い、書きことば), βοδίσιος(牛の、形容詞)。書きことばの派生では βόειος(牛の、← 古代 βόειος)が並走し、料理用語として「βόειο κρέας(牛肉)」, 専門語として「βόειος ταινία(条虫)」のように現代でも使われる。
牛の家族語彙体系では、上位概念の βοοειδή の下に、雌の αγελάδα(雌牛、乳牛), 去勢の βόδι(去勢牛、農耕用), 繁殖用の雄の ταύρος(雄牛), 子の μοσχάρι(子牛), 若年の δαμάλι(若い牛)が並び、性・年齢・用途で細かく言い分けられる体系が古代から維持されている。
比喩用法は活発で、太って粗野な人や愚鈍な人を「牛」と呼ぶ罵倒語、Κοιμάται σαν βόδι(牛のようによく眠る), Τρώει σαν βόδι(大食い), Τι με κοιτάς σαν βόδι;(何を間抜けな顔で見ているんだ)のような慣用句が頻出する。動物名を介した人間の身体・性格表現の典型例で、γαϊδούρι(ロバ), γουρούνι(豚), μοσχάρι(子牛)と同じ系列の畜産動物罵倒語の中核を成す。
ギリシャ語:αγελάδα
読み方:アイェラダ・アイェラーダ・アゲラダ・アゲラーダ
ラテン文字:agelada
中世ギリシャ語 αγελάδα が、ヘレニズム期または中世のギリシャ語 ἀγελάς(属格 ἀγελάδος、対格 ἀγελάδα、群れに住む雌の動物、← ἀγέλη「群れ」+ -άς 形容詞接尾辞)の対格 -άδα を主格として再形成し、文脈で省略された名詞 βοῦς(雌牛、ἡ)を伴って「群れの中の雌牛」を意味するようになって現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。Tri も「現代の意味は中世期に確立」と注記する。
源にある古代の ἀγέλη(群れ、家畜の集団、特に放牧された牛・馬の集団)は印欧祖語の「集める、駆り集める」を表す語根に由来し、同じ語族にラテン語 agere(駆る、なす、英語 act, agent の語源), ἄγω(古代「導く、駆る」)が並ぶ。古代から中世にかけて、家畜が舎飼い(στάβλος)ではなく群れで放牧される習慣(αγελαία βοσκή)が地中海・ギリシャ本土の畜産文化の中心で、その文脈で「群れの雌牛」が αγελάς → αγελάδα として固まった。
派生・関連語族として αγελαδάκι, αγελαδίτσα(小さな雌牛、子牛、指小形), αγελαδάρης(牛飼い), αγελαδάρισσα(女牛飼い), αγελάδα γαλακτοπαραγωγής(乳牛), αγελαδίσιος(雌牛の、雌牛由来の), αγελαδινός(同上), αγελαδοτροφία(牛飼育), γελάδα(民衆口語形、語頭母音脱落)。類義語に μοσχάρι(子牛、若い牛), βόδι(去勢牛), ταύρος(雄牛), δαμάλα(若い雌牛、未経産牛), βοοειδή(牛類全般、書きことば)。
定型表現として ιερή αγελάδα(聖なる雌牛、誰も手をつけられない聖域), νόσος των τρελών αγελάδων(狂牛病、文字どおり「狂った雌牛たちの病」), παχιές / ισχνές αγελάδες(豊かな時期 / 苦しい時期、← 旧約聖書創世記 41 章のヨセフのファラオの夢の解釈に由来)など、ヨーロッパ文化共通の比喩表現が数多く生きている。
ギリシャ語:βοοειδή
読み方:ヴォオイディ・ヴォオイディー
ラテン文字:vooeidi
ヘレニズム期の古代ギリシャ語 βοοειδής(牛に似た)から。これは βοῦς(牛)と -ειδής(〜に似た)からなる形容詞で、その中性複数形 βοοειδή が名詞として使われている。
βοῦς は印欧祖語で「牛」を表す語根に起源を持つ。ラテン語 bos や英語 cow などと同系。学名 Bovidae(ウシ科)はラテン語 Bos に科名を表す -idae が付いた形で、語源の層では古代ギリシャ語 βοῦς とつながる。
家畜の牛を一頭ずつ指す際は、雌牛・乳牛の αγελάδα、去勢牛の βόδι などを用いる。ほかにも繁殖用の雄の ταύρος、子牛の μοσχάρι などがある。
βοοειδή は家畜の牛をまとめて言うほか、動物学ではウシ科の動物全体を指す際にも使う。