古代ギリシャ語の συμπάθεια(共に感じること, 感情の共有)に由来。σύν(共に)と πάθος(受けた感情, 経験)からなる合成語で, 元の形容詞 συμπαθής(共に感じる)の抽象名詞。「好感」「好意」「お気に入り」「同情」までの現代の使い分けは, フランス語 sympathie, 英語 sympathy の意味配置と重なって整った。
同じ語族に, 語源になった形容詞 συμπαθής(愛すべき, 好ましい), そこから作られた動詞 συμπαθώ(好む, 同情する)と形容詞 συμπαθητικός(感じのよい)。対義の αντιπάθεια(反感)は αντί-(反する)を前に付けて作られた並行合成語。英語 sympathy, フランス語 sympathie はラテン語 sympathia を経て同じ語源で, 日本語「シンパシー」も同源。
同じ πάθος から作られた語は接頭辞でまったく違う意味に分かれる。απάθεια は α-(〜なし)と πάθεια で「無関心, 無感動」を指し, 英語 apathy の語源。εμπάθεια は εν-(中に)と πάθεια で, 古代には「強い情動」を指したが, 現代ギリシャ語では「悪意, 敵意」の意味が中心になった。英語 empathy はこの εμπάθεια をもとに作られた語で「相手の立場に入って感じる共感」を指すため, ギリシャ語と英語で意味が逆転している。この行き違いを避けるため, 英語 empathy の意味には, ギリシャ語では ενσυναίσθηση(共感)を充てる。英語の pathology(病理学), passion(情熱), pathos(悲壮感)も πάθος を素材にした語。
日本語の「共感」は広い場面で使うが, 心理学的な用法で見ると συμπάθεια に対応するのは「同情」のほうで, 相手の感情に寄り添いながらも自分は外側から見ている態度。英語 empathy とギリシャ語 ενσυναίσθηση は, 相手の立場に入り込んで同じ感情を自分のこととして感じる態度を指す。日本語では「同情」に哀れみの響きが強いため「共感」が sympathy の範囲まで吸収してしまっているが, ギリシャ語ではこの二つは別の語として分かれている。
συμπόνια(同情, 憐れみ)は σύν と πόνος(痛み)を合わせた語で, 英語 compassion(ラテン語 com + pati「共に苦しむ」)と構造が同じ。苦しみの共有に焦点があり, 相手の痛みを和らげたいという動機を伴う。συμπάθεια が好意にも同情にも使える広い範囲を持つのに対し, συμπόνια は苦痛の共有に限られる。
οίκτος(哀れみ)は相手の不幸に対して気の毒に思う感情で, 距離感を伴い哀れみや憐憫が前に出やすい。日本語の「同情」が持つ消極的な語感は οίκτος に近い。έλεος(慈悲)は宗教や司法で使うことが多く, 神の慈悲や裁判での温情のように「赦す」「大目に見る」側面が前に出る。ευσπλαχνία(深い慈しみ)は εὖ(良い)と σπλάχνα(内臓)からなる語で, 感情が体の奥底から湧き上がる発想。日本語の「はらわたが痛む」「断腸の思い」と通じる。κατανόηση(理解)は感情の共有ではなく, 相手の状況を知的に把握する態度を表す。