中世ギリシャ語 τρέξιμον(走ること、← 動詞 τρέχω「走る」のアオリスト語幹 τρεξ- + -ιμον 動作の結果・行為を表す中性名詞接尾辞)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。語末の -ν が脱落して現代の τρέξιμο の形に整えられた。
接尾辞 -ιμο は、動詞のアオリスト語幹から動作・行為・結果を表す中性抽象名詞をつくる現代ギリシャ語の生産的な造語要素。同じパターンで作られた語族には、γράψιμο(書くこと、← γράφω「書く」), διάβασμα(読書、← διαβάζω「読む」、ただし -μα 接尾辞), μάζεμα(集めること、← μαζεύω), παίξιμο(遊ぶこと、演奏、← παίζω), φάγωμα(食べること、← τρώω), χτύπημα(叩くこと、← χτυπώ)が並び、動作の名詞化の中核的な造語パターン。
源にある古代の τρέχω(走る、走り去る、急ぐ、流れる)は、印欧祖語の「走る、回る、車輪」を表す語根に由来し、サンスクリット dhráj-(走る), アヴェスタ語 draxθa-(速い)と関連する古層語。古代ギリシャ語のアオリスト形は ἔδραμον(不規則)が標準で、ヘレニズム・中世期に正則化したアオリスト έτρεξα が現代の動詞活用の基盤となった。同じ動詞 τρέχω からは、δρόμος(道、走路、← 古代の τρέχω のアオリスト語幹由来), τροχός(車輪), διατρέχω(横切る、急ぐ), εκτρέχω(駆け出す), αναδρομή(遡及、再走行), καταδρομή(襲撃、襲来), υποδρομικός(亜音速の、書きことば)が出ている、走る・移動する概念領域の中核語族。
派生・関連語族として τρέχω(走る、流れる、動詞), τρεχούμενος(流動性の、流れる), τρέχοντας(走りながら、副詞的), τροχός(車輪), τροχαία(交通、交通警察), δρόμος(道、走路、距離), δρομέας(ランナー、走者), προδρομικός(先駆けの、書きことば), ξανατρέχω(再び走る), ανατρέχω(さかのぼる), καταδρομέας(特殊部隊員、襲撃兵)。
意味の領域は、まず体を動かして走ること(ランニング)が中心。そこから、用事を片づけるための奔走(とくに複数形 τρεξίματα では「雑事に追われる慌ただしさ」を強調), コンピュータでのプログラム実行(英 running の意味用法を取り入れた近代の意味借用、σημασιολογικό δάνειο), 自然な液体の流れ(まれな用法)まで連続的に展開する。同じ「走る・運動」の領域には、上位概念の άσκηση(運動、練習), 準備運動の ζέσταμα(準備運動、加熱), 軽い走りの τζόκινγκ(ジョギング、← 英 jogging), 競走の αγώνας δρόμου(競走), 短距離走の σπριντ(スプリント、← 英 sprint), マラソンの μαραθώνιος(マラソン、← 古代 Μαραθών の地名)が並び、動きの種類と速度・距離で言い分けられる。
複数形 τρεξίματα は奔走・雑事の慌ただしさを強調する用法で、τρεξίματα με την Αστυνομία(警察沙汰), τρεξίματα με τα δικαστήρια(裁判沙汰), τρεξίματα με το σπίτι(家のことでのごたごた)のように、生活上のトラブル・手続きの多忙さを表す慣用句で頻出する、口語の生活語彙の中核。