中世ギリシャ語 τραγουδιστής(歌手、歌い手、← 動詞 τραγουδώ「歌う」+ -ιστής 動作主名詞接尾辞)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。動詞語幹 τραγουδ- に「〜する人」を表す接尾辞 -ιστής を付けたギリシャ語内部の派生(εσωτερικός σχηματισμός)で、現代ギリシャ語の生産的な動作主名詞造語パターンに乗っている。
源にある中世の τραγουδώ(歌う、現代も継承される動詞)は、ヘレニズム期 τραγῳδέω / τραγωδῶ(悲劇を歌う、悲劇の合唱を歌う、悲劇を演じる、← 古代 τραγῳδία「悲劇」、← τράγος「ヤギ」+ ᾠδή「歌」、文字どおり「ヤギ歌」)の意味と用法が拡大して、一般の歌唱を意味するようになった語。古代の τραγῳδία は、ディオニュソス祭でヤギを犠牲に捧げて歌われた合唱から発達した演劇ジャンルの名前で、近代ヨーロッパ語の tragedy / tragédie / Tragödie の語源にもなった、世界文学史の中核概念。
源にある古代の ᾠδή(歌、ode、← ἀείδω「歌う」)は、印欧祖語の「声、歌う」を表す語根に由来し、現代ギリシャ語の τραγούδι(歌、← τραγῳδ- + -ι), ωδή(書きことば、頌歌), αηδόνι(ナイチンゲール、文字どおり「歌い手」)として継承されている。
接尾辞 -ιστής は、動詞から行為者・職業人を表す名詞をつくる現代ギリシャ語の中心的な造語要素で、極めて生産的。同じパターンで作られた語族には、ποδοσφαιριστής(サッカー選手), μπασκετμπολιστής(バスケット選手), βιολιστής(バイオリン奏者), πιανίστας(ピアニスト), σολίστ(ソリスト), μαθητής(生徒), πελάτης(客), αθλητής(アスリート)が並び、職業・行為者の名詞の系譜の中核を成す。
派生・関連語族として τραγουδίστρια(歌手、女性形、← τραγουδιστ(ής) + -τρια 女性形接尾辞), τραγουδιστά(歌うように、副詞), τραγουδιστός(歌うような、メロディアスな、形容詞), τραγούδι(歌), τραγουδώ(歌う、動詞), αοιδός(古風な「歌い手、吟唱詩人」、書きことば), ψάλτης(聖歌歌手、教会の聖歌係), τενόρος(テノール、← 伊 tenore), βαρύτονος(バリトン), βαθύφωνος(バス), σολίστ(ソリスト、← 仏 soliste)。
同じ「歌う人」の領域には、職業の τραγουδιστής, 古風・文学的な αοιδός(吟唱詩人), 教会の ψάλτης(聖歌歌手), ライブ歌手の περφόρμερ(パフォーマー)が並び、文脈と格式で言い分けられる。τραγουδιστής は最も日常的・中立的で、ポピュラー、ロック、クラシック、伝統音楽、オペラまで含む幅広い「歌う職業人」を指す中心語として機能する。文学では「詩や歌でたたえる人」を意味する比喩用法もあり(例: ο Παλαμάς, ο τραγουδιστής της λιμνοθάλασσας「潟湖を歌った詩人パラマス」), 古代の ἀοιδός 概念とつながる詩人と歌い手の連続性を反映している。