フランス語 bibliographie(書誌、文献目録)からギリシャ語に入った逆方向の借用、αντιδάνειο(再借用)。源にあるフランス語 bibliographie は、古代ギリシャ語の素材 βιβλιο-(本、← βιβλίον「書物」)+ -γραφία(書くこと、記述、← γράφω「書く」)の合成で 17 世紀末にフランス語に作られた近代造語が、現代ギリシャ語に戻ってきた典型例。古代ギリシャ語の語が外国語を経由して再びギリシャ語に入った例の代表的な学術語彙の一つ。
ヘレニズム期ギリシャ語にすでに βιβλιογραφία(本を書くこと)という形が存在したが、現代の意味(「文献目録、書誌、参考文献の集成」)はフランス語 bibliographie の意味用法を受け取って加わったもので、古代の意味とは異なる。Tri 辞典は「διαφ. το ελνστ. βιβλιογραφία『本を書くこと』」と特に注記して、近代の意味と古代の意味の区別を明示する。
源にある古代の βιβλίον(書物、巻物)は、地名 Βύβλος(ビブロス、フェニキアの都市、現レバノンのジュベイル)に由来する説が伝統的。ビブロスはエジプトのパピルスを集積する古代地中海の主要な交易拠点で、その都市名がギリシャ語で「パピルス」「書物」を意味する語になった、地名から普通名詞へと意味が転じた例。ラテン語 biblia(書物、← ギリシャ語複数形 τὰ βιβλία)から、ヨーロッパ各語の Bible(聖書、← 「書物」の代表), biblio-(書物の、を表す国際造語要素), library(図書館、← ラ librāria)の語源となった。
源にある古代の γράφω(書く、記す、刻む、描く)は、印欧祖語の「ひっかく、刻む」を表す語根に由来し、ドイツ語 kerben(刻む), 英語 carve(彫る)と関連する古層語。古代の γράφω は最初は「鋭いもので刻みつける」を意味し、書字・絵画・記録・記述の語彙の根幹となる動詞として、極めて生産的な派生語族を持つ。同じ動詞からは、γραφή(書、文書), γράμμα(文字), γραμματική(文法), γραφικός(絵画的な、書記の), αυτογράφο(サイン、自筆、← 英 autograph), καλλιγραφία(書道、書法), ορθογραφία(正書法), παραγραφή(時効、書き換え)が並ぶ。
接尾辞 -γραφία は近代の学術造語要素として極めて生産的で、γεωγραφία(地理学), ιστοριογραφία(歴史記述), λαογραφία(民俗学), βιογραφία(伝記、自伝学), αυτοβιογραφία(自伝), χαρτογραφία(地図学), χορογραφία(振付、舞踊記譜), ξυλογραφία(木版画)が並び、英語 -graphy / 仏語 -graphie の語源となった国際造語要素の中核。
派生・関連語族として βιβλιογράφος(書誌学者、書誌作成者), βιβλιογραφικός(書誌の、書誌学的な、形容詞), βιβλιογραφώ(文献を引用する、参考文献を挙げる、動詞), βιβλιογραφική αναφορά(書誌記述), βιβλιογραφικό λήμμα(文献記述項目)。同じ書物・出版に関する語彙には、出版の βιβλίο(本、書物), 図書館の βιβλιοθήκη(図書館、書棚), 書店の βιβλιοπωλείο(書店), 書籍商の βιβλιοπώλης(書店主), 出版社の εκδοτικός οίκος(出版社)が並び、書物の生産・流通・分類・参照の語彙体系の中で、βιβλιογραφία は学術研究の参照体系を支える中核語。