古代ギリシャ語 σταγών(属格 σταγόνος、対格 σταγόνα、しずく、滴)が、対格 σταγόνα を主格として固定するパラダイム再編(μετάπλαση)を経て、現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。古代の不規則な格変化(主格 σταγών、属格 σταγόνος)の中で、対格を主格として一般化する流れは現代ギリシャ語に共通の活用整理のパターンで、αλεπού(キツネ、← 古代 ἀλώπηξ、対格 ἀλώπεκα), σάρκα(肉、← 古代 σάρξ、対格 σάρκα)と同じパターンを共有する。
源にある古代の σταγών(しずく、滴)は、動詞 στάζω(したたる、滴る、滴を落とす)の派生で、印欧祖語の「滴る、流れる」を表す語根に由来する。同じ語根からは、ラテン語 stagnum(沼、静かな水), 英語 stagnate(停滞する)が並ぶ。古代ギリシャ語の στάζω は、現代ギリシャ語の στάζω(したたる、漏れる、動詞)として継承され、小さな液体の滴る動きを表す動詞として現代まで生きている。
派生・関連語族として σταγονίτσα(小さなしずく、滴剤、口語の指小形), σταγονίδιο(小滴、書きことばの指小形、近代政治史の文脈では 1974 年の民政移管後に軍・治安機関に残った 1967 年 4 月 21 日軍事独裁政権の支持者を「滴」と呼んだ比喩用法を持つ), σταγονόμετρο(点滴器、目盛り付き滴下器), στάλα(しずく、口語の異形), στάλαγμα(滴り), σταλάζω / σταλάγω(したたる、動詞), σταλακτίτης(鍾乳石、← 動詞 σταλάζω + 名詞接尾辞、英 stalactite の語源), σταλαγμίτης(石筍、英 stalagmite), στάλιγμα(点滴)。
地下洞窟の地形語彙の中核に立つ σταλακτίτης(鍾乳石)と σταλαγμίτης(石筍)は、ともに古代ギリシャ語の σταλάζω「したたる」から派生した近代の地学用語で、ヨーロッパ各語に国際語として広まった。点滴の医療装置 σταγονόμετρο も、近代医学の発達とともに整備された語彙で、古代の「しずく」概念が近代科学の語彙の中で活躍している例。
同じ液体・水分の領域には、雨粒の βροχή(雨)の集合形, 涙の δάκρυ(涙), 血の αίμα(血), 汗の ιδρώτας(汗), 露の δροσιά(露), 大量の水の ωκεανός(大洋)が並び、量と性質で言い分けられる。
比喩用法では、量の極小性を表す慣用句が豊富で、σταγόνα στον ωκεανό(大海の一滴、取るに足らないこと), η σταγόνα που ξεχείλισε το ποτήρι(コップをあふれさせた一滴、堪忍袋の緒を切った最後の一件、← 英 the last straw, 仏 la goutte d'eau qui fait déborder le vase に対応する国際慣用句), σταγόνα σταγόνα(一滴ずつ、少しずつ), ούτε σταγόνα(一滴も〜ない)が頻出する。建築では、ドーリア式建築の軒蛇腹を飾る装飾部材(σταγόνα、文字どおり「しずく」)の意味を持つ専門用語にもなる。