古代ギリシャ語の形容詞 νοήμων(知的な、分別のある、← νοῶ「考える、理解する」の現在分詞由来)の語幹に抽象名詞を作る接尾辞 -οσύνη(〜であること、〜さ)を付けた、近代以降の学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。19 世紀以降、心理学・教育学の発達とともに、英語 intelligence や仏語 intelligence にあたる学術概念を表すギリシャ語として作られた近代造語。
源にある古代の νοῶ / νοέω(考える、理解する、知覚する、心で捉える)は、ホメロス以来の知性語彙の中核を成す動詞で、印欧祖語の「気づく、心で捉える」を表す語根に由来する。同じ動詞からは νους / νοῦς(精神、心、理性、知性), νόημα(思い、考え、意味), νόηση(認知、知性作用、書きことば), νόημα(意味、思考の内容), νοητός(知的な、概念的な)が出ており、古代ギリシャ哲学(プラトン、アリストテレスら)の知識論・認識論の概念基盤を成した語族。
接尾辞 -οσύνη / -σύνη は、ヘレニズム期から書きことばで生産的な抽象名詞接尾辞で、形容詞や名詞の語幹に付いて「〜であること、〜の性質」を表す抽象名詞をつくる。同じパターンで作られた語族には、δικαιοσύνη(正義、← δίκαιος「公正な」), σωφροσύνη(節制、慎み、← σώφρων「節度のある」), μνημοσύνη(記憶、想起), καλοσύνη(善良さ), ελευθεριοσύνη(自由さ)が並び、古代以来の生産的な抽象概念造語の道具立てになっている。
派生・関連語族として τεστ νοημοσύνης(知能テスト、← 仏 test d'intelligence の翻訳借用), δείκτης νοημοσύνης(知能指数、IQ、← 英 intelligence quotient の翻訳借用), τεχνητή νοημοσύνη(人工知能、AI、← 英 artificial intelligence の翻訳借用), συναισθηματική νοημοσύνη(情動知能、EQ、← 英 emotional intelligence)。
同じ「知性・知能」の領域には、生まれつきの才気を言う ευφυΐα(聡明さ、機転、書きことば、← 古代 ευφυής「素質のよい」), 認知作用を言う νόηση(認知、書きことば), 精神・理性を言う νους(精神、心、理性), 思考力を言う διάνοια(知性、思考力), 口語的な μυαλό(脳、頭)が並び、抽象度・専門性で言い分けられている。νοημοσύνη は心理学・教育学の専門概念に対応する硬い言い方で、知能検査・IQ・人工知能のような測定可能・操作可能な「知的能力」を中心に表す近代的な語として位置づけられる。