中世ギリシャ語 παππούς(祖父、おじいさん)が現代まで受け継がれた語で、子供の幼児語(νηπιακή λέξη)「πα-που」のような繰り返し音から、子音 -ς を加えて名詞化された形と Tri 注記が記す。古代ギリシャ語にすでに同形 πάππος(祖父、おじいさん、← 同じ幼児語の繰り返し音由来)があり、世界各国の幼児語に共通する「pa-pa」「ma-ma」型の音声繰り返しが、家族呼称の語源となる典型例。アクセントは μπαμπάς(パパ), γιαγιά(おばあさん)の類推で前々アクセントから前アクセントに移動した。
源にある幼児語の「pa-pa」型の音声繰り返しは、人類の言語普遍的な特徴の一つで、ほとんどの言語の家族呼称の語源となっている。世界各国の家族呼称:英語 papa(父), grandpa(祖父), daddy(父), グランパ(祖父), スペイン語 papá, abuelo(祖父), ロシア語 папа papa, дедушка dedushka(祖父), 中国語 爸爸 bàba, 爷爷 yéye(祖父), 日本語 ぱぱ・じぃじ・お祖父さん, ヘブライ語 אבא abba, סבא saba(祖父)など、世界各語の幼児期の繰り返し音が家族呼称の中核を成す現象は、言語学者ロマン・ヤーコブソンが「乳児の最初の音節は両唇閉鎖音 + 開口母音(pa-pa, ma-ma)から始まる」と指摘した、人類言語の普遍的な特徴。
ギリシャ語の家族呼称体系は、幼児語起源の対の系列を成す:μπαμπάς(パパ、お父さん、← 幼児語 ba-ba)と μαμά(ママ、お母さん、← 幼児語 ma-ma), παππούς(おじいさん)と γιαγιά(おばあさん、← γιά-γιά の繰り返し音)。これらの幼児語起源の家族呼称は、書きことばの πατέρας(父), μητέρα(母), παππούς(祖父、口語と書きことばの両方), γιαγιά(祖母、同様)と並走する。
派生・関連語族として παππούλης(おじいちゃん、口語の親しい指小形), παππουδίτσης(小さなおじいさん), παππουδάκος(おじいさん、軽い口語), παππουδίστικος(おじいさんらしい、形容詞), ο παππούς μου(私の祖父、私のおじいちゃん), αγαπημένος παππούς(大好きなおじいさん), παππούς και γιαγιά(おじいさんとおばあさん、定型表現), μεγάλος παππούς / πρόπαππος(曾祖父), προπαππούς(曾祖父)。
ギリシャの家族文化では、παππούς は伝統的な大家族(パトリアーキカル・ファミリー)の中核を担う存在で、孫(εγγόνι)に物語を語り、人生の知恵を伝え、伝統的な技能(魚釣り、料理、伝統舞踊、楽器)を教える役割を担う。年中行事(クリスマス、復活祭、結婚式、命名式)で重要な家族統合の中心人物として、世代を超える文化的継承の象徴。
文学・映画・社会の場面では、παππούς は伝統的な知恵者・物語の語り手・歴史の証人として、近代化・グローバル化の中で消えゆく伝統文化の象徴として描かれることが多い。テオ・アンゲロプロスの映画『シタリオラ』(『再現』『旅芸人の記録』), ニコス・カザンザキスの『その男ゾルバ』, ヤニス・リッツォスの詩など、現代ギリシャ文学の中核作品で、παππούς のイメージが伝統と現代をつなぐ重要なモチーフとなる。
意味の領域では、(a)家族関係の祖父(直系の祖父), (b)親しみの呼びかけ(年配男性への敬意・親愛の表現), (c)老人の慣用呼称(老人ホーム στέγη παππούδων / γερόντων「老人ホーム」, παππούδες της γειτονιάς「近所のおじいさんたち」)の三層に展開する。