トルコ語 yasemin(ジャスミン、← ペルシア語 یاسمین yāsamīn)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)。借用の過程で語末の子音 -n が脱落(αποβολή του τελ. συμφ.)して γιασεμί の形に整えられた。源にあるペルシア語 yāsamīn は、ペルシア固有の語ではなく、さらにさかのぼるとセム語起源(古アラビア語、アラム語)と関連すると論じられる、地中海・西アジアの古層の植物名。
ヘレニズム期ギリシャ語にもすでに同じ植物を指す ἰάσμη(イアスミ、ジャスミンの一種)の形が、ペルシアからの古い借用として存在しており、Tri 注記が指摘する。古代から地中海・西アジアの香料・薬草交易の中で、ジャスミンとその名前がギリシャ世界に伝わった長い歴史を持つ。
同じペルシア語 yāsamīn から、アラビア語 yāsmīn ياسمين, トルコ語 yasemin, アルメニア語 яасмин, アラム語 yasmin を経由して、中世ラテン語 jasminum / iasminum, フランス語 jasmin, スペイン語 jazmín, イタリア語 gelsomino, 英語 jasmine / jessamine, ドイツ語 Jasmin として広まった。地中海・近東・西欧を結ぶ「ジャスミン」語彙の国際的な系譜の中で、ギリシャ語 γιασεμί はオスマン期にトルコ語経由で取り入れられた、近代ギリシャ語の借用層を代表する語。
植物学的には Jasminum 属(モクセイ科 Oleaceae)の常緑または半常緑のつる性低木。代表的な品種に Jasminum officinale(コモンジャスミン、白い花), Jasminum grandiflorum(オオバナジャスミン、香水原料), Jasminum sambac(マツリカ、ハワイのレイの花)があり、いずれも強い芳香で知られる。香水産業ではジャスミンの花から抽出される精油(απόλυτο γιασεμιού)が最高級香料の一つとして珍重され、グラース(フランス), グラース地方の香水文化と深く結びついている。
ギリシャ・地中海では、伝統的に庭・中庭・テラスにジャスミンを這わせて、夏の夜の香りを楽しむ文化があり、夏の地中海の景色と切り離せない植物の一つ。文学・詩・歌(特に λαϊκό τραγούδι、ポピュラー歌謡)でもジャスミンの香りは恋愛・郷愁・夏の象徴として頻出する。
派生・関連語族として γιασεμάκι(小さなジャスミン、愛称形), γιασεμένιος(ジャスミンの、形容詞), γιασεμόκλωνος(ジャスミンの枝), γιασεμόκηπος(ジャスミンの庭), αγριογιασεμί(野生ジャスミン), αρωματικό γιασεμί(香り高いジャスミン)。
同じ庭・観賞用の香り高い花の領域には、τριαντάφυλλο(バラ), μαγνόλια(モクレン), γαρδένια(クチナシ), λεβάντα(ラベンダー), νερατζιά(ネロリ、ダイダイ), ορτανσία(アジサイ)が並び、地中海・ヨーロッパの庭園文化の中核を成す観賞植物の体系の一翼を担う。香り(άρωμα)の話題では、γιασεμί はバラと並ぶ最重要の香水原料として頻出する。