中世ギリシャ語 σπουργίτης(スズメ、男性形)が、対格を基盤とする中性形 σπουργίτι へとパラダイム再編(μετάπλαση)を経て現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形 σπουργίτης は、ヘレニズム期の形容詞 (στρουθός) πυργίτης(塔に住むスズメ、← πύργος「塔」+ -ίτης 場所・所属を表す接尾辞)の名詞化で、定冠詞対格複数 τοὺς πυργίτας との続き発音から再分節([tus-p > tusp > tus-sp])を経て、語頭に補助の [s] が発達した。さらに唇音 [p] の影響を受けた母音変化 [o > u] を伴って σπουργίτης の形に整えられた。
源にある古代の στρουθός(鳥、特にスズメ)と、その派生 στρουθίον(小鳥、スズメ、新約聖書のスズメ)は、印欧祖語に確実な対応が見出されない地中海・前ギリシャ語基層の語とする説が有力。古代ギリシャ語ではダチョウ(στρουθοκάμηλος、文字どおり「ラクダ鳥」)の語幹にもなった、極めて広い「鳥」の概念を担った語族。新約聖書のマタイ伝 10:29「δύο στρουθία ἀσσαρίου πωλεῖται(二羽のすずめは一銭で売られているではないか)」のスズメは、神の摂理の比喩として有名。
ヘレニズム期の (στρουθός) πυργίτης は、文字どおり「塔のスズメ」「教会の塔に巣を作るスズメ」を意味した、ビザンツ・地中海の鳥観察に基づく具体的な命名。中世以降、πυργίτης から名詞化された σπουργίτης が広く使われるようになり、現代の σπουργίτι に至る経路を辿る。
ヨーロッパ各語の「スズメ」語彙は、それぞれ独自の系譜:英語 sparrow(← 古英語 spearwa), ドイツ語 Sperling, ロシア語 воробей vorobey はゲルマン語・スラヴ語起源。ラテン語 passer(スズメ)は、フランス語 passereau, スペイン語 pájaro(鳥一般), イタリア語 passero, 英語 passerine(スズメ目の)として、生物学の分類名 Passeridae(スズメ科)の語源となった。ギリシャ語 σπουργίτι はそれらとは別系統の独自の語族を保つ。
派生・関連語族として σπουργιτάκι(小さなスズメ、口語の指小形), σπουργίτης(スズメ、男性形が並走), σπουργίτω(雌スズメ、口語の女性形), σπουργιτοφωλιά(スズメの巣), σπουργιτο-(スズメの、を表す連結形、口語), παμπολυμελής σπουργιτοκοινωνία(大群のスズメ社会、書きことばの遊び), στρουθίον(書きことばの古い指小形、聖書語彙), στρουθοειδής(スズメ目の、書きことばの形容詞)。
ギリシャの自然・農村文化では、スズメは最も身近な鳥の一つで、農家・教会・家屋の軒先に巣を作る益鳥として親しまれてきた。同じスズメ目(Passeriformes)の小鳥には、ツバメの χελιδόνι, ヒバリの κορυδαλλός, シジュウカラの αιγίθαλος, ヒタキの μυγοχαφτής が並ぶ、農村の小鳥の語彙体系の中核を成す。
慣用句では Τρώει σαν σπουργίτι(スズメのように食べる、とても少食である、← 英 eat like a bird と同じ国際的な慣用比喩)が頻出し、スズメの少食イメージから「節制」「小食」を表す比喩表現として定着している。