フランス語 antilope(アンテロープ)からギリシャ語に入った逆方向の借用、αντιδάνειο(再借用)。源にあるフランス語 antilope は、中世ラテン語 antalopus / anthalopus を経由して、中世ギリシャ語 ἀνθόλοψ(伝説上の獣の名)にさかのぼる。ギリシャ語に発する語が西欧語を経て、近代に動物学・自然史の語彙として再びギリシャ語に戻った典型例。
源にある中世ギリシャ語 ἀνθόλοψ は、ビザンツ期の動物寓意集(フィシオロゴス)に登場する伝説上の獣の名前で、東洋から伝わった野生動物のイメージを神話的に表現したものとされる。語形の解釈には複数の説があり、Tri 注記によれば「東方の言語からの借用に、語源俗解(παρετυμολογία)で ἄνθος(花)+ -λοψ を当てたもの」と説明される。古代ギリシャ語にはヒメハト・ハタオリドリの一種を意味する πηνέλοψ(カモの一種、ペネロペーの語源とされる), δρύοψ(キツツキ、← δρῦς「樫」+ -οψ)といった -οψ 接尾辞を持つ動物名が並んでおり、ἀνθόλοψ もこの系列に位置づけられる珍しい命名。
中世期から近代にかけて、欧州の動物学・狩猟文学・聖書翻訳の文脈で antalopus / antilope の語が広まり、英語 antelope(13 世紀頃), フランス語 antilope(17 世紀頃), ドイツ語 Antilope, スペイン語 antílope として近代の動物学語彙の中核となった。アフリカ・アジアの草原に住む細身の草食獣を指す総称として、近代生物学の発達とともに概念が確立された。
源にある古代ギリシャ語の合成要素 -οψ(〜の顔をした、〜の様子の、← ὄψ「顔、目」、← ὁράω「見る」)は、動物の特徴を表す古い造語要素で、現代ギリシャ語の όψη(顔、外観、書きことば), μάτι(目、視線), ὄψις(視覚、見た目)と同じ語族。
派生・関連語族として αντιλοπίσιος(レイヨウの、形容詞), αγέλη αντιλοπών(レイヨウの群れ), αφρικανική / ασιατική αντιλόπη(アフリカ/アジアのレイヨウ), αντιλόπη της Σαχάρας(サハラのレイヨウ、サブスペシーズ)。同じウシ科の野生草食動物の領域には、ガゼルの γαζέλα(← 仏 gazelle < アラビア語 ġazāl), ヌーの γκνου(← 英 gnu), シカの ελάφι(鹿), ヤギの αίγαγρος(野生ヤギ), バッファローの βούβαλος(バッファロー)が並び、αντιλόπη はそれらより広いくくりとして、Bovidae(ウシ科)の中の Antilopinae(レイヨウ亜科)系統の総称的な呼び名として機能する。
野生動物の語彙としては、自然番組・動物園・図鑑的な記述に頻出し、サバンナ・草原の動物相を表す典型的な語彙の一つ。狩猟・自然保護・絶滅危惧種の文脈でも、近代の生態学・環境保全語彙の中核を成す。