ギリシャ語:μυρωδιά
読み方:ミロディア・ミロディアー
ラテン文字:myrodia
中世ギリシャ語 μυρωδία(におい、香り、← ヘレニズム期 μυρώδης「香りのよい、芳香のある」+ -ιά 抽象名詞接尾辞)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世期に母音連続 [ia] を避ける母音融合(συνίζηση)を経て、現代ギリシャ語の μυρωδιά の形に定着した。源にあるヘレニズム期 μυρώδης は、古代ギリシャ語 μύρον(香油、香料、没薬)に -ώδης(〜のような)を付けた形容詞で、もとは「香油のような香りのする」を意味した。
源にある古代の μύρον(香油、没薬、芳香)は、地中海地域で広く取引された樹脂系の香料を指す古い系譜の語で、新約聖書のマルコ伝 14:3 で女がイエスの頭に注いだ「ナルドの香油」の名前にもなっている。同じ語族からは μυρώνω(香油を塗る、聖体礼儀で使う), μύρωμα(香油塗り、聖油塗布), μυροφόρος(香油を運ぶ女、← 復活祭の伝承で墓に来たマリアたち)が出ており、宗教・典礼語彙の中核を成す。
ラテン語 myrrha(没薬、← 古代ギリシャ語 μύρρα < セム語起源、古代の香料貿易の中で広まった東地中海起源の語)は、近代の英 myrrh, 仏 myrrhe へと受け継がれ、聖書の「東方の三博士の贈り物」の没薬として知られる。古代ギリシャ語の μύρον とラテン語 myrrha は別系統だが、香料の語彙として並走してきた歴史を持つ。
派生・関連語族として μυρίζω(においをかぐ、においがする、動詞), μύρισμα(におい、嗅ぐ動作、口語), μυρωδάτος(香りのよい、形容詞), ξεμυρίζομαι(鼻がきく、嗅ぎつける、口語), ξανθο-μυρωδιά(爽やかな香り、複合語)。口語の異綴りとして μυρουδιά(におい、香り)も併存する。
同じ「におい・香り」の領域には、よい香りに寄った άρωμα(香り、風味、香水、← 古代 ἄρωμα「香料」), 書きことばの οσμή(におい、臭気、← 古代 ὀσμή), 強い悪臭の βρόμα(悪臭、← 中世 βρώμα), δυσοσμία(悪臭、書きことば), ひどい臭いの μπόχα(口語), 微かな匂いの απόπνοια(匂い、息)が並び、強さと評価で言い分ける体系になっている。μυρωδιά は最も中立的で、よい香りにも嫌な臭いにも広く使える基本語として機能し、複数形 μυρωδιές では「季節の香り」「料理の香り」のような集合的な香りも表す。比喩用法では「ほんの少し」「気配」の意味に広がる、感覚から数量・存在感への意味展開が活発な語。

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