ギリシャ語:αρχείο
読み方:アルヒオ・アルヒーオ
ラテン文字:archeio
古代ギリシャ語の ἀρχεῖον(役所、公文書の置かれた場所)を継承。ἀρχή(支配、長、始まり)からできた名詞。
現代の「書類のまとまり、公文書館」の意味はフランス語 archives や英語 archive などから、コンピュータの「ファイル」の意味は、英語の file からの意味借用によって広がった。
ふ から始まる単語 68 語。
ふ から始まる単語 68 語。
ギリシャ語:αρχείο
読み方:アルヒオ・アルヒーオ
ラテン文字:archeio
古代ギリシャ語の ἀρχεῖον(役所、公文書の置かれた場所)を継承。ἀρχή(支配、長、始まり)からできた名詞。
現代の「書類のまとまり、公文書館」の意味はフランス語 archives や英語 archive などから、コンピュータの「ファイル」の意味は、英語の file からの意味借用によって広がった。
ギリシャ語:αποσάθρωση
読み方:アポサスロシ・アポサースロシ・アポサトゥロシ・アポサートゥロシ
ラテン文字:aposathrosi
古代ギリシャ語の σαθρός(朽ちた、もろい)から作られた抽象名詞。近代の地質学用語としては、ドイツ語 Verwitterung やフランス語 désagrégation に対応する翻訳借用として定着した。Verwitterung は Wetter / Witterung(天候、風雨)に関わる verwittern(天候・風雨の影響で崩れる)からの語。désagrégation は「まとまりを構成要素に分解すること」を表し、岩石がばらばらになる発想に対応している。
近い意味の語に διάλυση(分解、溶解)、αποσύνθεση(腐敗、分解)、διάσπαση(分裂、分割)など。αποσάθρωση は岩石の風化や物の劣化の文脈で使うことが多い。
ギリシャ語:μπαλόνι
読み方:バロニ・バローニ
ラテン文字:baloni
イタリア語方言 ballone(大きなボール、風船、← イタリア語 balla / palla「ボール、玉」+ -one 増大接尾辞)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)に、ギリシャ語の中性名詞語尾 -ι を付けて整えた語。源にあるイタリア語の balla / palla は、長い系譜を持つ:(a)ゴート語起源説(ゴート語 balls「ボール」がランゴバルド人を経由してイタリア語に入った), (b)ラテン語 pila(ボール)の派生説など、複数の説が並走する。
近代の航空・玩具語彙としての ballon は、フランス語 ballon(風船、気球)が 18 世紀末の熱気球の発明(モンゴルフィエ兄弟、1783 年)と密接に結びついて広まった国際語。フランス語 ballon、英語 balloon(← 仏 ballon、1783 年に英語に取り入れられた), ドイツ語 Ballon, スペイン語 balón, ポルトガル語 balão が並走し、19 世紀の気球・航空時代の語彙の中核を成す。
源にある古代ギリシャ語の対応概念は、πέπλος(外被、覆い), ἀσκός(皮袋、ガス袋), σφαίρα(球)など複数あり、古代に「気球」「風船」に当たる語は単一には存在しなかった。近代以降の航空・玩具技術の発達とともに、イタリア語・フランス語の borrowing が西欧から東地中海に広まり、現代ギリシャ語の μπαλόνι として定着した。
派生・関連語族として μπαλονάκι(小さな風船、口語の指小形), μπαλονιάρα(大きな風船、増大形、口語), μπαλονοθεραπεία(バルーン療法、医学), μπαλόνι αερόστατου(熱気球の風船), αερόστατο(気球、航空機、書きことば、← αέρας + στατό「静止する」), μπαλόνι σταθμού(停泊用バルーン、書きことば), χημικό μπαλόνι(化学実験のフラスコ)。
医学の領域では、μπαλόνι は内視鏡・カテーテル医療の用具として重要な語彙:μπαλόνι αγγειοπλαστικής(バルーン血管形成術), ενδοαορτική μπαλόνια(大動脈内バルーン), γαστρικό μπαλόνι(胃内バルーン、肥満治療), αγγειακή μπαλονιδιοεντερική(血管内バルーン)が、近代医療の語彙の中核を担う。
同じ「ふくらんだもの・空気を含むもの」の領域には、近い概念として φούσκα(泡、水ぶくれ、バブル、← 中世 φούσκα < ラ pulcia), αερόστατο(気球), ζεπελίνο(ツェッペリン、← Zeppelin), αερόπλοιο(飛行船), βαλόνι(バトン、別系統)が並ぶ。
ギリシャの祭日・行事文化では、誕生日・パーティー・国家祝日(特に独立記念日 25 Μαρτίου), 結婚式・受洗式(βάπτιση)の装飾として、色とりどりの μπαλόνια が広く使われる、現代の祝祭文化の象徴的アイテム。学校の行事・子どもの誕生会・商店開店の宣伝など、明るく華やかな日常の場面で頻出する語。
慣用句では το μπαλόνι ξεφούσκωσε(風船がしぼんだ、計画・希望が萎んだ、← 英 the balloon deflated と同じ慣用比喩), σκάει το μπαλόνι(風船が破裂する、爆発的に展開する), υπερφούσκωτο μπαλόνι(過剰に膨らんだ風船、誇張・虚飾の比喩)が、感情・期待・現実のギャップを表す比喩表現として頻出する、視覚的にイメージしやすい慣用句の宝庫。
ギリシャ語:Πτηνόν
読み方:プティノン・プティノーン
ラテン文字:ptinon
古代ギリシャ語の形容詞 πτηνός(翼のある)の中性形 πτηνόν を、そのまま「鳥」の意味で名詞として受け継いだ語。16世紀末、オランダの航海士ケイセルとデ・ハウトマンの観測をもとに、プランシウス(プランキウスとも)が南天に配した星座。新しい星座なので神話はない。英語名 Apus は古代ギリシャ語の ἄπους(脚のない、ἀ-「〜ない」+ πούς「脚」)から来ており、ヨーロッパに持ち帰られたゴクラクチョウの剥製は脚が取り除かれていたため、脚のない鳥と誤って考えられていた。ふつうの「鳥」は πουλί で言う。
ギリシャ語:πισίνα
読み方:ピシナ・ピシーナ
ラテン文字:pisina
イタリア語 piscina(プール、水槽、洗礼盤)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)で、女性名詞語尾 -α を保ったまま現代ギリシャ語の πισίνα の形に定着した。源にあるイタリア語 piscina は、ラテン語 piscīna(魚の池、養魚池、貯水池、← piscis「魚」+ -īna 場所を表す接尾辞)の継承で、もとは「魚を飼う池」を意味した。
源にあるラテン語 piscis(魚)は、印欧祖語の「魚」を表す語根に由来し、英語 fish, ドイツ語 Fisch, ゴート語 fisks と同族。ラテン語 piscīna は、古代ローマで魚や水鳥を飼う養殖池を指したが、中世以降は教会の洗礼盤、貯水池、水浴用の池を指すようになり、近代に「水泳用のプール」の意味へと意味の中心が移った。
ヨーロッパ語の「プール」語彙の系譜では、フランス語 piscine, スペイン語 piscina, ポルトガル語 piscina, ドイツ語 Piscine(やや古風)が同じラテン語起源の語族として並ぶ。英語 pool(< 古英語 pōl「水たまり、池」)はゲルマン語系の別系統だが、swimming pool として現代の同じ概念を指す。ギリシャ語 πισίνα は西欧ロマンス語経由で 20 世紀の都市生活・観光産業の中で定着した近代的な借用語。
源にあるラテン語 piscis から、現代ギリシャ語にも国際語としての魚関連語彙が逆輸入されている。星座の Ιχθύς(うお座、← 古代 ιχθύς「魚」)はギリシャ語自前の伝統語だが、近代の天文学・キリスト教図像学では魚のシンボル全般が ICHTHYS / ΙΧΘΥΣ の頭字語(Ιησοῦς Χριστὸς Θεοῦ Υἱὸς Σωτήρ「イエス・キリスト、神の子、救世主」の頭文字)と結びついて、初期キリスト教の象徴として用いられた歴史を持つ。これは πισίνα とは別系統だが、魚と水の概念を共有する地中海宗教文化の一面。
派生・関連語族として πισινούλα(小さなプール、指小形), πισινάδα(プール脇のスペース、口語), ξενοδοχείο με πισίνα(プール付きホテル、定型句)。同じ水泳・水場の領域には、海水浴の場所の παραλία(海岸、ビーチ), 浴室の μπάνιο(風呂、入浴、水浴び、水泳), 自然の池の λίμνη(湖), 噴水の σιντριβάνι(噴水、← トルコ語 < ペルシア語)が並び、用途と規模で言い分けられる。日常表現では κάνω μπάνιο στην πισίνα(プールで泳ぐ、文字どおり「プールで風呂をする」)が定型化しており、μπάνιο が「水浴・水泳」を含む広義の語として πισίνα と組み合わさる。
ギリシャ語:καημός
読み方:カイモス・カイモース
ラテン文字:kaimos
中世ギリシャ語 καημός(燃焼、焼けつくような気持ち)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。動詞 καίω(燃やす、焼く)の受動アオリスト語幹 καη- に、動作・状態を表す名詞接尾辞 -μός がついて造られた語で、もとは物理的な「燃えること、焼けること」を意味した。「胸が焼けるような切ない思い」「持続的な深い悲しみ」「叶わぬ強い願い」へと比喩的に意味が広がり、現代の「深い悲しみ、心痛、渇望」の中心義に発展した。
源にある古代の καίω(焼く、燃やす、傷つける)は印欧祖語の「燃やす、焦がす」を表す語根に由来する可能性があり、英語 caustic(腐食性の、辛辣な、← καυστικός), cauterize(焼灼する、← καυτηριάζω), holocaust(ホロコースト、← ὅλος「すべて」+ καίω「焼く」、「全焼」), encaustic(蝋画、エンコースティック)など、医学・修辞・歴史用語の語幹となっている。
派生・関連語族として καίω(燃やす、動詞), καίγομαι(燃える、自動詞), κάψιμο(燃焼、焼けつくこと), καμένος(焼けた、過去分詞), καύση(燃焼、書き言葉), καυστικός(燃焼の、辛辣な), καημένος(哀れな、可哀想な、文字どおり「焼けた」、感情的な意味の派生)。
ギリシャの民謡・詩・レンベーティコ音楽の中心的な感情語彙の一つで、満たされない切ない思い・故郷を離れた者の郷愁・愛する者を失った悲しみなど、ギリシャ的な感性の根に深く関わる語。英語 burning desire, ポルトガル語 saudade(深い郷愁・切なさ), スペイン語 añoranza(強い思慕・郷愁), ルーマニア語 dor(強い思慕・郷愁), トルコ語 hasret(切なる思慕)に通じるニュアンスを持ち、地中海・バルカン文化圏の共通の情緒語彙として位置づけられる。
ギリシャ語:αινιγματικότητα
読み方:エニグマティコティタ・エニグマティコーティタ
ラテン文字:ainigmatikotita
αινιγματικός(謎めいた)の語幹に、抽象的な性質を表す名詞接尾辞 -ότητα(古代の -ότης の現代形)がついて造られた学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。「謎めいているという性質」「不可解さ」を抽象名詞として表現する語で、近代以降の哲学・文学批評の文脈で生産的に使われるようになった。
源流をたどると αίνιγμα(謎、なぞなぞ)にさかのぼり、古代以来の αἴνιγμα → αἰνιγματικός(古代・中世の形容詞)→ αινιγματικότητα(近代の抽象名詞)という派生の鎖の中で、最後の抽象名詞化のステップが学術借用として固まった形。同じ系統の英語 enigmaticness(より珍しい), フランス語 caractère énigmatique, ドイツ語 Rätselhaftigkeit, イタリア語 enigmaticità などが対応する。
接尾辞 -ότητα(古代 -ότης から)は、形容詞の語幹に付いて「〜であること、〜という性質」を表す抽象名詞をつくる、ギリシャ語の最も生産的な造語要素の一つ。κανονικός(普通の)→ κανονικότητα(正常性), λεπτός(細かい)→ λεπτότητα(精緻さ)など、抽象名詞の形成で広く使われる。
派生・関連語族として αίνιγμα(謎), αινιγματικός(謎めいた), αινιγματικά(謎めいた様子で、副詞), αινιγματογράφος(謎・なぞなぞの作者)。類義語に μυστηριακότητα / μυστηριωδότητα(神秘性), ασάφεια(曖昧さ), ακαταληψία(理解不能)。αινιγματικότητα は人や対象が持つ「謎めいた雰囲気・性質」を抽象的に指す概念語。
ギリシャ語:όπλο
読み方:オプロ・オープロ
ラテン文字:oplo
古代ギリシャ語 ὅπλον(道具、装備、武器)に由来する語で、現代ギリシャ語の όπλο になった。古くは道具や装備を広く指す語だったが、複数形 ὅπλα が武装・武具を表すところから武器の意味が前に出た。核兵器や化学兵器、生物兵器などの複合語的な使い方はフランス語 arme の影響で近代に整えられた。
派生語・関連語に οπλισμός(武装、軍備)、οπλίζω(武装する)、οπλίτης(重装歩兵)、άοπλος(武器を持たない)、οπλοστάσιο(武器庫)。関連語に στρατιώτης(兵士、軍人)、επίθεση(攻撃、襲撃)。
ギリシャ語:ευαγγέλιο
読み方:エヴァンゲリオ・エヴァンゲーリオ
ラテン文字:evangelio
ヘレニズム期ギリシャ語の εὐαγγέλιον(よい知らせ、福音)に由来。εὐαγγέλιον は εὐάγγελος(よい知らせをもたらす)から作られた中性名詞で、εὖ(よく、善く)と ἀγγέλλω(知らせる、告げる)からなる。ἀγγέλλω は άγγελος(使者、天使)と同じ語族である。
古代ギリシャ語では「よい知らせへの報酬」も表したが、ヘレニズム期以降のキリスト教文脈では、イエス・キリストについてのよい知らせ、その教え、またそれを記した福音書を指す語として定着した。
英語の evangel、evangelical、evangelist は、ラテン語の evangelium を経て同じ εὐαγγέλιον に遡る。一方、英語の gospel は直接の借用ではなく、「よい知らせ」という語構成を古英語でなぞった翻訳借用(calque)にあたる。
関連語には άγγελος(使者、天使)、ευαγγελιστής(福音記者、伝道者)、ευαγγελίζομαι(福音を告げる)、εκκλησία(教会)、απόκρυφος(隠された、外典の)などがある。
ギリシャ語:σκουλαρικιά
読み方:スクラリキャ・スクラリキャー
ラテン文字:skoularikia
σκουλαρίκι(イヤリング)に植物名を作る接尾辞 -ιά が付いた語。花が垂れ下がったイヤリングのように見えることによる。日本語でも、花姿からツリウキソウ(釣浮草)という和名がある。
ギリシャ語:δυστυχία
読み方:ディスティヒア・ディスティヒーア
ラテン文字:dystychia
古代ギリシャ語の δυστυχία(不運、不幸)に由来。接頭辞 δυσ-(悪い、困難な)と τύχη(運)の組み合わせで、「運に恵まれない状態」を表す語。英語 dystopia(ディストピア)、dysfunction(機能障害)、dyslexia(失読症)などの接頭辞 dys- もこの δυσ- から。
対義語は ευτυχία(幸福)で、εὖ(良い)+ τύχη の構成で対をなす。類義語に ατυχία(不運)、κακοτυχία(悪運)、απελπισία(絶望)、κακομοιριά(不運)など。派生語に δυστυχής(不幸な)、δυστυχισμένος(不幸な)、δυστύχημα(災難、事故)など。
ギリシャ語:φελί
読み方:フェリ・フェリー
ラテン文字:feli
ギリシャ語:ανυπαρξία
読み方:アニパルクシア・アニパルクシーア
ラテン文字:anyparxia
古代ギリシャ語の ἀνυπαρξία を継承。ύπαρξη(存在)に否定の αν- が付いてできた名詞。
ギリシャ語:αθανασία
読み方:アサナシア・アサナシーア・アタナシア・アタナシーア
ラテン文字:athanasia
古代ギリシャ語の ἀθανασία(不死)に由来。αθάνατος に相当する古代形 ἀθάνατος(不死の、死なない)に -ία を付けた抽象名詞で、さらに ἀ-(否定)と θάνατος(死)にさかのぼる。
類義語に αιωνιότητα(永遠)、αφθαρσία(不滅、不朽)など。
英語 athanasy(不死、不朽)は古代ギリシャ語 ἀθανασία がそのまま入った語で、現代では古語として文学的な文脈に限られる。人名の Athanasius / Athanasia(アタナシオス、アタナシア)は同じ語から「不死の者」を表す名で、4世紀のアレクサンドリアの教父アタナシオスにちなむ Athanasian Creed(アタナシオス信条)も広く知られる。ギリシャ神話の死神 Θάνατος(Thanatos)、英語 euthanasia(安楽死、eu- + θάνατος)も同じ語根 θάνατος を含む。
ギリシャ語:απορώ
読み方:アポロ・アポロー
ラテン文字:aporo
古代ギリシャ語の ἀπορῶ を継承。名詞 απορία(当惑、疑問)と同じ語根。形容詞 ἄπορος(手立てがない)からできた動詞。
ギリシャ語:αναλήθεια
読み方:アナリシア・アナリーシア・アナリティア・アナリーティア
ラテン文字:analitheia
ギリシャ語:Δίδυμοι
読み方:ディディミ・ディーディミ
ラテン文字:didymoi
古代ギリシャ語の δίδυμος(二重の、双子の)に由来。δύο(二)の重複からできた形容詞で、印欧祖語で「二」を表す語根につながり、サンスクリット語 dvis(二つ)やラテン語 duplus(二重の)とも系統を同じくする。
男性複数形の Δίδυμοι は、ギリシャ神話のカストルとポルックスの双子兄弟にちなんだ星座名。一方は不死、一方は死すべき定めだったが、死別を悼んで兄弟が願い、二人で夜空にのぼるようになったという神話。ふたご座の主星 α と β もそれぞれ Castor、Pollux と呼ばれる。占星術では黄道十二宮の第三宮の名にも使われる。現代ギリシャ語で一般に「双子」を表すのは中性複数形の δίδυμα で、Δίδυμοι は天文・占星の固有名詞としてのみ用いる。
ギリシャ語:χοιρινός
読み方:ヒリノス・ヒリノース
ラテン文字:choirinos
中世ギリシャ語 χοιρινός(豚の、← χοίρος「豚」+ -ινός 形容詞接尾辞)を、近代以降に書き言葉から再導入した学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。なお、ヘレニズム期にはアクセント位置が異なる χοίρινος(豚の皮でできた)という別語があり、両者は語源を共有しながらアクセントの位置と意味が異なる別系統として Tri が区別している。
源にある古代の χοῖρος(属格 χοίρου、子豚、豚)は、印欧祖語の「子豚」を表す語根に由来する可能性があるが、Beekes は確実な対応を見出さない。古代ギリシャ語では χοῖρος が若い豚(子豚、特に乳離れ前の子豚), ὗς / σῦς が成豚(より広い「豚」全般)を指す区別があったが、中世以降に χοῖρος が広い「豚」を意味する中心語となり、現代の χοίρος / χοιρινός 系統に至る。
接尾辞 -ινός(古代 -ινος から)は、素材・由来を表す形容詞をつくる古代以来の生産的な造語要素で、ξύλινος(木製の), μαρμάρινος(大理石の), αίγινος(ヤギの), βόινος(牛の)など、多くの素材形容詞を生み出している。
派生・関連語族として χοιρινό(豚肉、中性形が名詞化、← χοιρινό κρέας の省略), χοιρομέρι(豚もも肉、ハム), χοιρίδιο(子豚、書きことば), χοιροτροφία(豚の飼育、養豚), χοιροειδή(イノシシ科、書きことば), χοιροστάσιο(豚舎), χοιρομάνα(雌豚)。類義語に βόειος(牛の、← βοῦς「牛」), αρνίσιος(子羊の、← αρνί「子羊」), κατσικίσιος(ヤギの), κουνελίσιος(兎の)など、肉用家畜の形容詞群と並ぶ。
ギリシャ語:ανάσταση
読み方:アナスタシ・アナースタシ
ラテン文字:anastasi
古代ギリシャ語の ἀνάστασις(立ち上がること、復活)から。ἀνά-(上へ、再び)と ἵστημι(立たせる、立つ)に、動作名詞を作る -σις が付いた語である。
ヘレニズム期のキリスト教ギリシャ語で、墓からの復活、とくに Χριστός の復活を指す語として使われた。英語 anastasis は古代ギリシャ語 ἀνάστασις を借りた語で、キリストの復活や復活図を指す。人名 Anastasia も同じ語源で、「復活」に結びつく名前である。
関連語には ζωή(命、生命)、θάνατος(死)、νεκρός(死んだ、死者)、Πάσχα(復活祭)などがある。
比喩的に「再生」や「復興」を意味する文脈では、αναζωογόνηση(再活性化)や αναγέννηση(再生)といった表現が用いられる。
ギリシャ語:Πάσχα
読み方:パスハ・パースハ
ラテン文字:pascha
ヘレニズム期ギリシャ語 Πάσχα(過越祭、← ヘブライ語 פֶּסַח pesah「過越、過越祭」, アラム語 פִּסְחָא pisḥā)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)。紀元前 3 世紀の七十人訳聖書(Septuagint)でユダヤ教の過越祭の名前として翻訳・取り入れられて以来、ギリシャ語のキリスト教文化の中核を成す宗教用語として現代まで継承されている。
源にあるヘブライ語 pesah は、動詞 פָּסַח pasaḥ(過ぎ越す、跳び越える)の派生で、出エジプト記 12 章のエジプトの初子皆殺しの夜に、ユダヤ人の家を「過ぎ越した」(pasaḥ)出来事に由来する祭の名。ユダヤ教の最重要祭の一つで、エジプトからの解放と神との契約を記念する春の祭りとして、現在もユダヤ教徒によって祝われている。
新約聖書のギリシャ語では Πάσχα が、最初はユダヤ教の過越祭を指していたが、キリスト教の発展とともに「キリストの受難と復活」と過越祭の象徴的な結びつきが強調され、4 世紀のニカイア公会議(325 年)でキリスト教の復活祭の名前として正式に採用された。「キリストは我らの過越」(Παντὶ καιρῷ καὶ πάσῃ ὥρᾳ Πάσχα Χριστὸς ἡμῶν, パウロ、コリント前書 5:7)の神学的解釈が、この語の意味の中心移動の根拠となった。
ヨーロッパ各語の「復活祭」語彙では、ラテン語 Pascha(イースター)が、フランス語 Pâques, スペイン語 Pascua, イタリア語 Pasqua, ポルトガル語 Páscoa, ドイツ語 Ostern(別系統、ゲルマンの春の女神 Ēostre 由来), 英語 Easter(同じくゲルマン語起源)として広まり、ロマンス諸語と東方教会・正教会では Pascha 系、ゲルマン諸語では Ostern / Easter 系という二つの系譜が並走する。
派生・関連語族として πασχάζω(過越祭・復活祭を祝う、書きことば), πασχαλιά(復活祭、口語、← μσν. πασχαλία), πασχαλινός(復活祭の、形容詞), πασχαλιάτικος(復活祭向きの、復活祭の時期の、口語), πασχάλιος(復活祭の、書きことば), πασχαλίτσα(てんとう虫、口語、← パスハに飛ぶ虫の意), Λαμπρή(復活祭の口語形、← λαμπρός「輝かしい」、復活祭の祝いの「輝き」を強調)。
ギリシャの東方正教会では、復活祭は最大の宗教行事で、独特の慣習と祝祭文化を持つ:聖週間(Μεγάλη Εβδομάδα), 聖金曜日(Μεγάλη Παρασκευή)の Επιτάφιος 行列, 復活の夜(土曜深夜から日曜未明)の Ανάσταση 礼拝、復活の蝋燭(λαμπάδα), 赤い卵(κόκκινα αβγά), 子羊の丸焼き(αρνί στη σούβλα), 復活祭のパン(τσουρέκι)など、宗教・食・家族・地域共同体が一体となった祭典として祝われる。
挨拶では、復活祭前後に Καλό Πάσχα(よい復活祭を), Χριστός Ανέστη!(キリストは復活された!), Αληθώς ανέστη!(まことに復活された!)が交わされ、宗教文化と日常生活が密接に結びついた語として機能する。