ギリシャ語読み索引: ク
ク から始まる単語 88 語。
ク から始まる単語 88 語。
ギリシャ語:κούκλα
読み方:ククラ・クークラ
ラテン文字:koukla
後期ラテン語 *cucla(kúk-、← cuculla 「フードつきの服、僧侶の頭巾、子供の覆い」、kukú-)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)。借用の過程で、子供の覆い・頭巾を意味する「kukú-」のアクセントが「kúk-」に移動し、ギリシャ語の女性名詞語尾 -α に整えられて κούκλα(覆い→人形)の形に定着した。語源の核は「フードで頭を包んだもの」「布で包まれたもの」という発想で、子供の人形が頭を布で覆われた姿を想起させる命名と説明される。
源にある後期ラテン語 cuculla は、古典ラテン語 cucullus(フード、頭巾、修道士の頭巾)の継承で、印欧祖語の「曲げる、覆う」を表す語根に由来する説、または地中海の前ロマンス語起源の語とする説が論じられる。同じ語族からは、フランス語 coqueluche(百日咳、もとは「頭巾」, ペスト時代の医師の頭巾から), スペイン語 cogulla(修道士の頭巾), イタリア語 cocolla(修道士の頭巾、僧服), 英語 cowl(修道士の頭巾、フード、煙突カバー)が並ぶ、中世ヨーロッパの宗教・服飾語彙の系譜。
「人形」の意味への展開は、中世ヨーロッパで子供のおもちゃの人形を布で頭を包んだ簡素な造形で作る伝統が広く、その「頭を覆ったもの」が「人形」の代表的な姿として概念化された経緯。同じ語族から、スラヴ語族でも кукла(露 kukla, ブ kukla, セ・クロ kukla)として広まり、東欧・南東欧の人形語彙の共通源となった。ギリシャ語 κούκλα はラテン語経由とスラヴ語経由の両方の借用の可能性が論じられるが、Tri は後期ラテン語起源を主とする。
ヨーロッパ各語の「人形」語彙では、英語 doll(← Dorothy の愛称), フランス語 poupée(← ラ pūpa「人形、女の子」), スペイン語 muñeca(← 別系統), イタリア語 bambola(← 別系統), ドイツ語 Puppe(← ラ pūpa)と多様な系統が並走するが、地中海・東欧の κούκλα 系統が大きな語族を形成する。
派生・関連語族として κουκλίτσα(小さな人形、指小形), κούκλος(男の人形、男性形), κουκλάρα(大きな人形、増大形、口語), κουκλίδιο(人形劇の人形、書きことば), κουκλάκι(小さな人形、口語), κουκλοθέατρο(人形劇), κουκλοπαιχνίδι(人形遊び), κούκλα του Καραγκιόζη(カラギオジス劇の人形、ギリシャ伝統の影絵芝居), κούκλα βιτρίνας(ショーウィンドーのマネキン), παιδική κούκλα(子供の人形), κούκλα ραψίματος(裁縫用マネキン)。
ギリシャの伝統的な人形劇には、Καραγκιόζης(カラギオジス、影絵芝居の主人公)が中核的なキャラクターで、近代ギリシャの民衆文化・社会風刺の重要な伝承を担う。同じ系列の影絵芝居人形は、トルコの Karagöz, インドネシアのワヤン・クリ、中国の影戯と、東地中海・東洋の影絵芝居文化の中で並走する伝統を持つ。
比喩用法では、美しい女性・魅力的な人を「人形のようだ」と褒める慣用が活発で、Είναι κούκλα!(彼女はすごく綺麗!), κουκλάρα μου!(私の美人さん!)が、口語の親しみのある呼称として広く使われる。同じ比喩は英語 she's a doll, スペイン語 muñeca にも共通し、人形の美しさ・無垢さを介した美人表現の国際的な慣用句として機能する。
「巻き玉」の意味は、糸・ひも・毛糸を巻いた玉が「人形のように布で包まれた塊」のイメージから派生した古い用法で、現代では裁縫・編み物の語彙として残る、技術の語彙としての特殊用法。
ギリシャ語:ξανθός
読み方:クサンソス・クサンソース・クサントス・クサントース
ラテン文字:xanthos
古代ギリシャ語の ξανθός(金色の、ブロンドの)に由来。χρυσαφένιος(黄金色の)が金の輝きや光沢を含むのに対し、ξανθός は色調としての金色やブロンドを表す。
ギリシャ語:κουζίνα
読み方:クジナ・クジーナ・クズィナ・クズィーナ
ラテン文字:kouzina
ヴェネツィア語 cusina(台所、料理)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)で、近代以降のフランス語 cuisine(料理、料理法), cuisinière(料理用ストーブ)の意味用法を取り込んで多義化した、意味借用(σημασιολογικό δάνειο)の重なりを伴う語。家の「台所」の意味がヴェネツィア語からの古い層、オーブンつきの「コンロ」と国・地域の「料理」の意味がフランス語から後に重なってできている。
源にあるヴェネツィア語 cusina, フランス語 cuisine, イタリア語 cucina はすべて、後期ラテン語 cocina(台所、← 古典ラテン語 coquina「料理、台所」、← coquere「煮る、料理する」)の継承形。同じラテン語 coquere からは、英語 cook(料理する), kitchen(台所、← 古英語 cycene < 後期ラテン coquina), cuisine(料理), biscuit(ビスケット、← bis「二度」+ cuit「焼かれた」)が出ており、印欧祖語の「煮る、熟す」を表す語根が地中海・西欧の料理語彙の核になっている。古代ギリシャ語の対応語族には、πέπτω(消化する、熟させる、← 同じ印欧祖語の語根)から πέψη(消化)が出ており、ラテン語 coquere と並走する系譜を持つ。
派生・関連語族として κουζινάκι(小さな台所、ミニキッチン、指小形), κουζινέτο(小型コンロ、簡易調理台、← κουζίνα + 伊系の指小接尾辞 -έτο), κουζινούλα(小さな台所、指小形), κουζινίτσα(小さな台所、小さなコンロ、指小形), κουζινικά(台所用品、複数形), κουζίνα-σαλόνι(リビング兼キッチン)。
同じ「料理する場所・道具・流儀」の領域には、φούρνος(オーブン、かまど、パン屋、工業炉、← ラテン furnus), μαγειρείο(業務用調理場、まかない場、← μαγειρεύω「料理する」), γαστρονομία(ガストロノミー、美食文化、← γαστήρ「胃」+ νόμος「規則」、書きことば)が並ぶ。φούρνος が焼くための炉やオーブンを中心に指すのに対し、κουζίνα は火口とオーブンを備えた一体型の調理器具や調理空間を指す。フランス語 cuisine の意味展開を取り入れた「国・地域の料理」用法は近代の意味拡張で、同じ用法はイタリア語 cucina, スペイン語 cocina にも見られる、汎ヨーロッパ的な料理語彙の使い方。
ギリシャ語:ξινό
読み方:クシノ・クシノー
ラテン文字:xino
形容詞 ξινός(酸っぱい、すえた、気難しい)の中性単数形が、名詞として用いられるようになった語。
味覚の関連語には γλυκό(甘味)、πικρό(苦味)、αλμυρό(塩味)などがある。
料理や製菓では、口語で κιτρικό οξύ(クエン酸)を指すことがある。正式な名称は κιτρικό οξύ。
ギリシャ語:ξινός
読み方:クシノス・クシノース
ラテン文字:xinos
中世ギリシャ語 ξινός(酸っぱい)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、ヘレニズム期 *οξινός(古代 ὄξινος「酸っぱい、酢のような」, ← ὄξος「酢」+ -ινος 形容詞接尾辞)の語頭の無強勢母音 [o] が脱落(αποβολή)し、再分節(ανασυλλαβισμός [o-oksi > oksi > o-ksi])を経て ξινός の形に整えられた。語頭脱落は、定冠詞との続き発音 το οξινό > τοξινό > το ξινό のような連音の中で起こった現代ギリシャ語に共通する音韻変化のパターン。
源にある古代の ὄξος(酢、酸っぱい液体、酸味)は、印欧祖語の「鋭い、刺すような」を表す語根に由来し、ラテン語 acer(鋭い、激しい、← 英 acrid「辛辣な」, acrimony「辛辣さ」), ラテン acidus(酸っぱい、← 英 acid), サンスクリット akrá-(鋭い), 英語 edge(縁、刃)と関連する古層語。古代ギリシャ語の ὄξος は新約聖書のマタイ伝 27:48 でイエスが十字架で与えられた「すっぱいぶどう酒」の名前にもなり、地中海の食文化と宗教文化の中で深い意味を担った語。
書きことばの古典形 ξίδι(酢、← 古代 ὄξος の継承形)は現代ギリシャ語にも継承され、調理用語として広く使われる。同じ ὄξος から派生した語族には ξίδι(酢), ξιδάτος(酢漬けの), ξύδι(古い綴り), οξέως(鋭く、書きことば), οξύ(酸、化学用語), κιτρικό οξύ(クエン酸), οξυγόνο(酸素、← オキシ-、英 oxygen の語源), οξειδώνω(酸化する), οξύς(鋭い、急性の、書きことば)が並ぶ、化学・食品・医学の語彙の根幹を成す系譜。
味を表す基本語の体系では、γλυκός(甘い), πικρός(苦い), αλμυρός(塩辛い、しょっぱい)と並ぶ五つの基本味(最近の科学では旨味 ουμάμι を加えて六つ)の一つを担う。それぞれの中性形 το γλυκό, το πικρό, το ξινό, το αλμυρό は、味そのものを名詞として指す対の形をなしている。
派生・関連語族として ξινούτσικος(やや酸っぱい、口語の指小形容詞), υπόξινος(やや酸っぱい、書きことば), ξινίζω(酸っぱくなる、すえる、動詞), ξινισμένος(酸っぱくなった、過去分詞), ξινιστήρι(酸味料、ピクルス用容器、口語), ξινό(酸味、クエン酸、中性形が名詞化), ξινομυζήθρα(酸味のあるミジスラチーズ), ξινόμηλο(酸っぱいリンゴ), ξινόγαλο(バターミルク、酸乳), γλυκόξινος(甘酸っぱい、複合語), ξινολάχανο(ザワークラウト), ξινάδα(酸っぱさ、口語)。複数形 τα ξινά(柑橘類)は、レモンやオレンジのような酸味の強い果実の総称として広く使われる。
比喩用法では、人の表情・態度・人柄が「気難しい・不機嫌・とげのある」感じを表す広い領域があり、ξινή έκφραση(しかめた表情), ξινό ύφος(とげのある態度), ξινά μούτρα(むくれた顔)が頻出する。慣用句では μου βγαίνει κάτι ξινό(楽しかったはずのことが嫌な結末になる、つけが回る、文字どおり「何かが酸っぱく出る」), περσινά ξινά σταφύλια(去年の酸っぱいブドウ、もはや重要でない過去のこと)が、酸味の比喩を介して感情・運命・記憶を語る慣用表現の中核を成す。
ギリシャ語:ξιφίας
読み方:クシフィアス・クシフィーアス
ラテン文字:xifias
古代ギリシャ語の ξιφίας(メカジキ)を継承。ξίφος(剣)に「〜のような, 〜を持つ」を表す接尾辞 -ίας を付けた形で, もとは「剣を持つもの」「剣のようなもの」。長く突き出た吻を剣に見立てた魚名。中世ギリシャ語では ξιφιός の形も使われ, 現代でも並行して残る。
同じ ξίφος の語族に ξιφήρης(抜き身の剣を持った), ξιφομαχία(剣闘), ξιφολόγχη(銃剣), ξιφίδιο(短剣)。
ふつう「魚」を言うのは ψάρι(魚)で, ξιφίας はその中の種名。学術・文語的には ιχθύς(魚)も並ぶ。学名 Xiphias gladius は古代ギリシャ語 ξιφίας にラテン語 gladius(剣)を足したもので, ギリシャ・ラテン両系統から「剣の魚」を二重に言っている。英語 xiphoid(剣状の), xiphoid process(剣状突起, 胸骨下端の骨)も同じ ξίφος の系統を引く。
ギリシャ語:ξηρασία
読み方:クシラシア・クシラシーア
ラテン文字:xirasia
古代ギリシャ語の ξηρασία(乾き、乾燥状態)を継承。形容詞 ξηρός(乾いた)から動詞 ξηραίνω(乾かす、乾く)を経て作られた名詞。ヘレニズム期は「乾燥状態」一般を指したが、今は特に長期間の無降雨、つまり干ばつを言うことが多い。
派生語に ξηρότητα(乾燥度、素っ気なさ)など。近い語に ανυδρία, αβροχιά, ανομβρία(どれも「雨・水の不足」)。反対は υγρασία(湿気、湿度)。ギリシャ語の ξηρός は英語の xero- にも入って、xerography(乾式複写、「Xerox」の語源), xerophyte(乾生植物)などを作る。
ギリシャ語:ξυλάνθρακας
読み方:クシランスラカス・クシラーンスラカス・クシラントゥラカス・クシラーントゥラカス
ラテン文字:xylanthrakas
古代ギリシャ語の ξύλον(木)と ἄνθραξ(炭、石炭)を組み合わせて作られた学術借用で、フランス語 charbon de bois(木の炭、木炭)の意味を写した翻訳借用。charbon は「炭」、bois は「木」で、ἄνθραξ と ξύλον の組み合わせに対応している。アカデミー辞書は「επίσημο(正式)」と扱い、化学や工業の文脈によく出る。
類義語に ξυλοκάρβουνο(木炭、炭。話し言葉で日常的に使う)。関連語に άνθρακας(炭素、炭疽、炭疽病)。英語の anthracite(無煙炭)や anthrax(炭疽)も、この ἄνθραξ を起源とする。
ギリシャ語:ξύλο
読み方:クシロ・クシーロ
ラテン文字:xylo
古代ギリシャ語の ξύλον(切られた木、棒、木材)から。植物としての木そのものは δέντρο で言い、ξύλο は材としての木や棒に用いる。
英語 xylophone(木琴)の xylo- も、この ξύλον に由来。
材木そのものには ξυλεία も使う。接頭辞 ξυλο-, ξυλό-, ξυλ- は、ξυλουργός(大工)、ξυλοκόπος(きこり)、ξυλόσπιτο(木造の家、ログハウス)、ξυλοδαρμός(殴打、暴行)などの語を作る。木製のものだけでなく、棒で打つ発想から殴打などの意味にもつながる。
複数形 ξύλα は、燃料としての薪にもよく使い、τζάκι(暖炉)や φωτιά(火)の文脈に登場する。比喩では殴打やお仕置き、κρύο(寒さ)で体が棒のように硬くなった状態などを指す。
指小形 ξυλαράκι は小さな木の棒や小枝を指す言葉。聖遺物の τίμιο ξύλο, άγιο ξύλο は、キリストの十字架の木片のこと。
ギリシャ語:ξηρός
読み方:クシロス・クシロース
ラテン文字:xiros
古代ギリシャ語の ξηρός(乾いた)に由来。中世以降の音変化を経た ξερός が一般の形として使われ、ξηρός は古い綴りのまま並んで残った。辛口ワインの ξηρός οίνος、ドライアイスの ξηρός πάγος、乾電池の ξηρό στοιχείο など現代ギリシャ語の定型表現の多くは、フランス語 sec / sèche の対応形に倣って加わった。
派生語に ξηρασία(乾燥、干ばつ)、ξηραίνω(乾燥させる)、ξηρότητα(乾燥度)。合成語に ξηροθερμικός(高温乾燥の)、ξηρόμυαλος(ドライな頭脳の、理屈っぽい)。対義語は υγρός(湿った、液体の)。
英語 xerophyte(乾生植物)、xerostomia(口腔乾燥症)、xerography(乾式電子写真、複写機 Xerox の由来)は古代ギリシャ語 ξηρός をもとにした学術造語で、同じ語源につながる。
ギリシャ語:ξενυχτώ
読み方:クセニフト・クセニフトー
ラテン文字:xenychto
接頭辞 ξε-(外へ、すっかり)と νύχτα(夜)から、中世ギリシャ語の ξενυχτώ(夜更かしする)ができ、現代ギリシャ語に受け継がれた。
ξε- は古代ギリシャ語の前置詞 εκ(〜から、外へ)に連なる接頭辞。ξενυχτώ では、夜を越えて眠らずに過ごす感覚につながる。
中心は、夜の間眠らずに起きていること。自分が徹夜する場合だけでなく、人のそばに夜通し付き添うことや、赤ん坊の泣き声などが人を寝かせないことにも使う。そこから、朝方まで遊ぶ、夜遊びする意味にもなる。
名詞の ξενύχτι(夜更かし、徹夜)は、この動詞から作られた語。ύπνος(睡眠)を削り、夜を越して起きているという発想を共有する。
近い語に ξαγρυπνώ(眠らずに夜を過ごす)がある。ξενυχτώ は夜更かしや夜遊びにも使う日常的な語で、ξαγρυπνώ は眠れずに起きていることや見守ることに多い。
ギリシャ語:ξένος
読み方:クセノス・クセーノス
ラテン文字:xenos
古代ギリシャ語の ξένος(よその人、客人、外国の)を継承。現代の「外国の」「外国人」の使い方は、フランス語 étranger、英語 foreigner からの意味借用で広がった。
派生語に ξενίζω(もてなす、変だと感じる)、ξενικός(外来の)、ξενιτιά(異郷、異国暮らし)。合成語に ξενοδοχείο(ホテル、直訳「客を受け入れる所」)、ξενοδόχος(ホテル経営者)、ξεναγός(旅行ガイド)、φιλοξενία(ホスピタリティ)、φιλόξενος(もてなし好きの)、ξενοφοβία(外国人嫌悪)。
旅人をもてなす ξενία は聖なる義務とされ、Ζεὺς Ξένιος(客人の守護神ゼウス)がその守護者だった。英語 xenophobia(外国人嫌悪)、xenogenesis(異種生殖)、化学元素の xenon(キセノン、「よそ者」の意でギリシャ語から造られた名)は同じ語源につながる。
ギリシャ語:ξενοδοχείο
読み方:クセノドヒオ・クセノドヒーオ
ラテン文字:xenodocheio
ギリシャ語:ξόρκι
読み方:クソルキ・クソールキ
ラテン文字:xorki
中世ギリシャ語の動詞 ξορκίζω(呪文を唱える、悪霊を追い払う)から逆形成(αναδρομικός σχηματισμός)でつくられた中性名詞で、ξορκ- 語幹に -ι の中性語尾がついた形。動詞 ξορκίζω 自体は古代ギリシャ語 ἐξορκίζω(誓わせる、追い払う)の語頭母音 ἐ- が脱落して中世期に成立した形で、ヘレニズム期からの連続的な継承の鎖の中にある継承語(κληρονομιά)。
源にある古代の ἐξορκίζω は、前置詞 ἐκ-(〜から外へ)と動詞 ὁρκίζω(誓わせる、← ὅρκος「誓い」)の合成で、文字どおり「外へ向かって誓わせる」「呪術的な力で悪霊を追い出す」を意味した。古代ギリシャ語ではもっぱら「誓いを立てさせる、強く要求する」の宗教・法的用法が中心だったが、ヘレニズム期のキリスト教文献で「悪霊を追い払う儀式」の語として固まり、現代の「呪文を唱える、まじないをかける」の意味に発展した。
ギリシャ語内部で並んで使われる学術借用形 εξορκισμός(悪霊祓いの儀式、エクソシズム)は、近代以降にヘレニズム期の ἐξορκισμός をそのまま再導入した形で、ξόρκι が日常の「呪文」全般を指すのに対し、εξορκισμός は宗教的・公式な悪霊祓いに限定される対の関係。
派生に εξορκισμός(悪霊祓い), ξορκίζω(呪文を唱える、追い払う), ξορκιστής(呪術師、まじない師), ξορκισμένος(呪われた、呪文をかけられた)。類義語に επωδή(呪文、呪歌。文章寄りの古典的な語), γητειά(民間呪術、まじないの実践), μάγια(魔術、まじない)。ξόρκι は具体的に「唱える文句としての呪文」を指す中心語で、日常のおまじないから民間信仰の伝統呪文まで幅広く使う。
ギリシャ語:κουτάλι
読み方:クタリ・クターリ
ラテン文字:koutali
ヘレニズム期の κώταλις(くぼみのある器, ひしゃく)の指小形として中世ギリシャ語に κουτάλι(ν) が作られ, 指小の意味は抜けて「スプーン」を指す語になった。もとの κώταλις は現代に伝わらず, 同じ語群から派生した κουτάλα(お玉, 大さじ)が大ぶりの道具の名として残っている。
現代ギリシャ語では食卓のスプーンそのものに加えて、そこから派生した「一さじ分」の量も表す。
派生語に κουταλάκι(小さなスプーン、ティースプーン)、κουταλιά(一さじ分)などがある。
ギリシャ語:κτίριο
読み方:クティリオ・クティーリオ
ラテン文字:ktirio
中世ギリシャ語 κτίριον(建物、住居)を、近代以降に書きことばから再導入した学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。中世形 κτίριον は、古代ギリシャ語 οἰκητήριον(住居、住む場所、← οἶκος「家」+ -τήριον 場所を表す接尾辞)の語頭が、動詞 κτίζω(建てる、築く)に引きずられて語源俗解(παρετυμολογία)で *οἰκτήριον > κτίριον と変化した形。本来の語源とは異なる語に音が似ているために語形が引きずられた、典型的な民間語源の例。語末の -ν が脱落して現代の κτίριο になった。
源にある古代の οἶκος(家、家屋、家政)は、印欧祖語の「住居、定住地」を表す語根に由来する語で、ラテン語 vicus(村、近隣), 英語 -wich(地名語尾、Greenwich の -wich)と同じ語族。οἶκος から派生した語族はヨーロッパの社会・学術語彙の中核を成し、οἰκογένεια(家族), οικονομία(経済、家政、← οἶκος + νέμω「分配する」、英 economy も同源), οικολογία(生態学、← οἶκος + -λογία、英 ecology も同源), οικιστικός(住宅の), οικειότητα(親密さ、← 「家のような」感じ)が出ている。英語の eco-(economy, ecology), エコ・環境の語彙はすべて古代ギリシャ語 οἶκος に発する。
語源俗解の引き手になった κτίζω(建てる、創設する)は、印欧祖語の「住む、住み着く」を表す語根に由来し、ラテン語 situs(位置、場所), sanskrit kṣéti(住む)と関連する古層語。κτίζω 自身からは κτίσμα(建造物、書きことば), κτίστης(建設者、創設者), κτίτορας(創設者、教会・修道院などの設立者)が出ている。
派生・関連語族として κτηριακός / κτιριακός(建物の、形容詞), κτηριολογία / κτιριολογία(建築学、書きことば), κτηριολογικός(建築学の、形容詞), κτηριοδομή / κτιριοδομή(建築構造)。同じ建築物の領域には、住居寄りの σπίτι(家、自宅), 抽象寄りの κτίσμα(建造物), 居住単位の κατοικία(住宅、住居), 大型・公的な μέγαρο(大きな建物、宮殿), οικοδόμημα(建造物、書きことば)が並ぶ。κτίριο は英語の building, structure に対応する基本語で、公共施設・オフィスビル・学校など、規模が比較的大きく公的性格を持つ建築物を指すことが多い。
ギリシャ語:κτιριολογία
読み方:クティリオロイア・クティリオロイーア・クティリオロギア・クティリオロギーア
ラテン文字:ktiriologia
κτίριο(建物)の古い形 κτίριον に、学問・論理を意味する接尾辞 -λογία(英語 -logy の語源)が付いた合成語。英語 building science / building technology に相当する。
建築関連の学問では、意匠や設計に重点を置く αρχιτεκτονική(建築学)と、施工や技術に重点を置く οικοδομική(建築工学)があり、κτιριολογία は οικοδομική の一分野にあたる。
ギリシャ語:κουνέλι
読み方:クネリ・クネーリ
ラテン文字:kouneli
イタリア方言 cunelo(ウサギ)の複数形 cuneli を中性単数として再解釈した中世ギリシャ語 κουνέλι が、現代まで受け継がれた外来借用(δάνειο)。イタリア語の複数形がギリシャ語の中性単数として取り込まれた珍しい借用パターンで、中世期の地中海交易・ヴェネツィア・ジェノヴァのバイリンガル文化圏で起こった語形変化の例。
源にあるイタリア語方言 cunelo / coniglio は、ラテン語 cuniculus(ウサギ、地下の通路、トンネル)の継承形で、ローマ時代から地中海地域で広く使われたウサギの語。古代の cuniculus は「地下に巣穴を掘って暮らす動物」「地下通路」「鉱山の坑道」を意味する多義語で、ウサギの巣穴を掘る習性に由来する命名だった。
源にあるラテン語 cuniculus は、印欧祖語起源の確実な対応がなく、地中海・前ロマンス語基層の語、あるいはイベリア半島の前印欧語起源の語とされる説が有力。古代ローマの博物学者プリニウスの『博物誌』第 8 巻 81 章で、ヒスパニア(イベリア半島)に由来する動物として記述されており、ウサギの命名がローマ世界で確立された経緯を示す。同じラテン語 cuniculus からは、フランス語 conil(古語), スペイン語 conejo, ポルトガル語 coelho, カタロニア語 conill, 英語 cony / coney(古語、ウサギ), ドイツ語 Kaninchen(ウサギ、← 中世ラテン経由)が並び、ヨーロッパ各語の「ウサギ」語彙の中核となった。
古代ギリシャ語の伝統的な「ウサギ」語彙には、κύνικλος / κόνικλος(ラテン語 cuniculus からの借用と、独自の κύνικλος の二系統), λαγωός / λαγώς(ノウサギ)の二語が並走していた。現代ギリシャ語の κουνέλι は飼育ウサギ・家ウサギを中心に指し、λαγός(ノウサギ、← μσν. λαγός < αρχ. λαγωός)は野生のノウサギを指す、明確な棲み分けがある。
派生・関連語族として κουνελάκι(子ウサギ、小さなウサギ、指小形、口語), κουνέλα(雌ウサギ、女性形), κούνελος(雄ウサギ、まれな男性形), κουνελοτροφία(ウサギの飼育), κουνελοτρόφος(ウサギの飼育者), κουνελάς(ウサギ売り、ウサギ飼育者、口語), αγριοκούνελο(野ウサギ、野生のウサギ), κουνελοκούνελο(ウサギの群れ、口語の重複表現)。
学名 Oryctolagus cuniculus(アナウサギ、← 古代ギリシャ語 ὀρυκτός「掘られた」+ λαγώς「ウサギ」+ ラ cuniculus)は、ギリシャ語とラテン語の合成語で、「巣穴を掘るウサギ」の意味を持つ。リンネ命名以来の生物学分類で広く使われる学名。
ギリシャ料理では、κουνέλι στιφάδο(ウサギの玉ねぎ煮込み、伝統料理)が代表的な料理で、地中海・バルカン半島の冬の伝統食として広く知られる。同じ料理パターンには λαγός στιφάδο(ノウサギの煮込み)もあり、ウサギの種類で言い分ける。
比喩用法では、ウサギの繁殖力の強さから「子だくさん、繁殖が速い」を意味する γεννάει σαν κουνέλα(雌ウサギのようにたくさん子供を産む、口語の俗語), または「臆病な、すぐ逃げる」を意味する φοβάται σαν κουνέλι(ウサギのように怖がる)のような慣用句がある。
ギリシャ語:γνώση
読み方:グノシ・グノーシ
ラテン文字:gnosi
印欧祖語で「知る」を表す語根にさかのぼる動詞 γιγνώσκω(知る)から派生した古代ギリシャ語の女性名詞 γνῶσις(知識)に由来。語尾 -σις が -ση に変わって現代ギリシャ語の γνώση の形になった。英語の gno- を含む gnostic, diagnosis, prognosis, recognize も同じ語族。
同じ語族に動詞 γνωρίζω(知る, 知らせる), γνωστός(知られている, 知人), γνωστικός(認識の, 知的な), γνώμη(意見, 判断), γνώμων(指標), άγνοια(無知), αναγνώριση(認識)。合成語に επίγνωση(自覚), διάγνωση(診断), πρόγνωση(予後, 予測), γνωσιολογία(認識論)。
μάθηση(学習)は学ぶ過程, παιδεία(教育, 教養)は全人格的形成, σοφία(知恵)は知を正しく使う洞察を指す。
ギリシャ語:γνωστός
読み方:グノストス・グノストース
ラテン文字:gnostos
ギリシャ語:γνώμη
読み方:グノミ・グノーミ
ラテン文字:gnomi
古代ギリシャ語の γνώμη(判断、認識、考え、格言)を継承。
古代ギリシャ語の動詞 γιγνώσκω(知る、認識する、判断する)から派生した名詞で、もとは「知る手段」「判断する力」を表し、そこから「判断、見解、格言」の意味に展開した。
語根は印欧祖語で「知る」を表す語に起源を持ち、ラテン語の (g)nōscere(知る)と同根。ラテン語経由で英語の know, knowledge, recognize, cognition, gnostic, agnostic などの語族が広がっている。
英語 gnome(格言、教訓)もこの γνώμη が直接の起源。
近代に入って「個人の主観的な意見、見方」という用法は、フランス語・英語の opinion からの意味借用により広まった。
「意見、見方」を表す語として、ふだん広く使われるのは άποψη など。
対して γνώμη は、専門家の見解、世論、公的な意見表明、法律の場面などで使われることが多い。関連語に αντίληψη(認識、見方)、εκτίμηση(評価、見立て)、κρίση(判断、批評)、πεποίθηση(信念、確信)など。
語源を共有する γνώση(知識)と同じ語族。
ギリシャ語:Γνώμων
読み方:グノモン・グノーモン
ラテン文字:gnomon
古代ギリシャ語の γνώμων(指標、日時計の棒、大工の曲尺)を継承。γιγνώσκω(知る)に接尾辞 -μων が付いた形で、判断の基準となる道具などを意味する。現代ギリシャ語で器具や物差しは一般に γνώμονας と呼ぶが、古形の γνώμων も文語的な表現として残る。
18世紀にフランスの天文学者ラカーユが南天に設定した星座のひとつ。大工の曲尺を記念してラテン語で Norma(じょうぎ座)と名付けられた。比較的新しい星座のため、関連する神話などは存在しない。
英語の gnomon(日時計の針、幾何学のグノモン)も同源。
ギリシャ語:κουράγιο
読み方:クライオ・クライーオ・クラギオ・クラギーオ
ラテン文字:kouragio
イタリア語 coraggio(勇気、心の強さ)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)。借用の過程で、語頭の唇音 [k] の影響を受けて [o] が [u] に変化([o > u])し、語末はギリシャ語の中性名詞語尾 -ιο に整えられて、現代ギリシャ語の κουράγιο の形に定着した。
源にあるイタリア語 coraggio は、後期ラテン語 *coraticum(心の働き、気持ちのありよう、← ラテン語 cor「心」+ -aticum 抽象名詞接尾辞)に由来する語で、ロマンス諸語に共通の「勇気」語彙の中核。同じ系譜には、フランス語 courage, スペイン語 coraje, ポルトガル語 coragem, 英語 courage(< 古フランス語 corage)が並ぶ。これらはすべてラテン語 cor(心、心臓)を語源にしており、「心の働き、気概」が「勇気」を表す比喩として広まった、地中海・西欧文化に共通する造語パターンの結果。
源にあるラテン語 cor 自体は印欧祖語の「心臓」を表す語根に由来し、古代ギリシャ語 καρδιά(心、心臓), 英語 heart, ドイツ語 Herz と同じ語族。ラテン語 cor からは英語 cordial(心からの), accord(調和、合意、← ad-「〜に向かって」+ cor), record(記録、← re-「再び」+ cor「心に思い起こす」), courage が出ている。
派生・関連語族として κουραγιάζω(励ます、勇気づける、口語動詞), κουραγιωμένος(勇気づけられた、励まされた、過去分詞), κουραγιάκι(小さな勇気、ちょっとした気力、指小形)。意味の領域は、近い語の θάρρος(勇気、胆力、書きことば寄り), τόλμη(大胆さ、思い切り、書きことば), ανδρεία(武勇、書きことば), ψυχή(魂、心、勇気)と重なるが、κουράγιο は苦しい状況をしのぐ気力や、人を励ますときの「元気を出して」「頑張って」に寄り、ψυχή が内面の強さやガッツを言うのに対して、κουράγιο は外への励まし・呼びかけに使うことが多い。呼びかけの Κουράγιο! は「気をしっかり」「頑張って」を意味する慣用表現として日常で広く使われる。

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