中世ラテン語 catta(雌猫), cattus(雄猫)からヴェネツィア語 gata(猫)を経て、中世ギリシャ語 κάττα / γάτα(猫)として取り入れられた外来借用(δάνειο)。借用の過程で、定冠詞女性対格との続き発音 [tin-k] で軟口蓋音が前鼻音化([tiŋg])し、さらに [γ] に変わるという現代ギリシャ語に共通の音韻変化 [k > γ] を経て、現代の γάτα の形に定着した。同じ音韻変化のパターンは、γκαβός(盲目の、← καβός), γκαζοτήρ(ガス点火器)など、定冠詞対格との連音で起こる現象。
源にある中世ラテン語 catta / cattus は、エジプト起源の語と Tri 注記が示す。古代エジプトでは猫が神聖視され、女神バステトの聖獣として崇拝された歴史を持つ。エジプトのコプト語 ϣⲁⲩ šau(猫), ヌビア語 kadiska と関連する地中海・北アフリカの古層語彙で、ローマ帝国期にエジプトからローマに猫の家畜化と語彙が広まり、そこから中世以降のヨーロッパ各語に分布したとされる。
ラテン語 catta / cattus からは、現代のヨーロッパ語の「猫」語彙の大半が派生しており、フランス語 chatte / chat, スペイン語 gata / gato, イタリア語 gatta / gatto, ポルトガル語 gata / gato, 英語 cat, ドイツ語 Katze, スコットランドゲール語 cat, ロシア語 кот kot / кошка koshka が並ぶ。古代ギリシャ語の伝統的な「猫」語彙には αἴλουρος(猫、書きことば、現代の専門語にも残る)があったが、中世以降の日常語では γάτα に取って代わられた。
派生・関連語族として γάτος(雄猫、男性形), γατάκι(子猫、小さな猫、指小形), γατούλα(かわいい猫、女性指小形), γατούλι(かわいい子猫、口語), γατάρα(大きな猫、増大形), γαταρός(雄ネコ、増大形), γατίσιος(猫の、形容詞), γατίνα(雌猫、書きことば), γατομαγειρευτής(猫殺し、書きことば), γατο-(猫の、を表す連結形), γατόψαρο(ナマズ、文字どおり「猫魚」、長いひげが猫を連想させる), γατοκαβγάς(猫の喧嘩、騒がしい喧嘩)。書きことばの古典形 αίλουρος は学術用語として残り、αιλουροειδή(ネコ科)として現代の生物学分類に使われる。
ギリシャ語の伝統では、猫を呼ぶ愛称・口語に ψιψίνα(猫ちゃん、← 擬音 ψιψ-), γαλή(猫を言う別の古語)が並走する。猫の鳴き声 νιαούρισμα(ニャー), γουργουρίζω(喉を鳴らす)も日常の猫描写の語彙として頻出する。
比喩用法は活発で、人について「甘え上手でかわいらしい女性」(χαδιάρα γάτα), 「嫉妬深い女」(ζηλιάρα γάτα), 「頭の切れる人、世渡り上手」(γάτα ως «επιτήδειος»)の意味展開を持つ。慣用句では όταν λείπει η γάτα, χορεύουν τα ποντίκια(猫がいないとネズミが踊る、← 英 when the cat's away, the mice will play の国際共有句), σαν τη βρεγμένη γάτα(濡れた猫のように、ばつが悪そうに), ούτε γάτα ούτε ζημιά(猫も被害もない、何事もなかったことに)が頻出する、猫を介した人間社会の比喩表現の宝庫。黒猫の不吉さ(μαύρη γάτα φέρνει γρουσουζιά)の δεισιδαιμονία(迷信)も、ヨーロッパ共通の動物迷信としてギリシャに根付いている。