中世ギリシャ語 πεταλούδα(蝶)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)で、語源には二つの説が論じられる:(1)πέταλο(蹄鉄、円形の金属板、葉、花びら)に語尾 -ούδα が付いた派生説、(2)ヘレニズム期 πετηλίς(属格 -ίδα、バッタの一種)からの音韻変化を経た形とする説。Tri 注記は両方の可能性を「ίσως... ή」(おそらく〜あるいは〜)として並べて示し、確定していない。
源候補の一つの古代 πέταλον(葉、花びら、平たい板、← πετάννυμι「広げる、開く」)は、印欧祖語の「広げる、開く」を表す語根に由来し、ラテン語 pateō(開いている、← 英 patent), παττᾱνος(広がった)と関連する。蝶の羽が広がる姿を「広げられた葉」のように見立てた命名と解釈される。同じ語根からは πέταλο(花びら、蹄鉄), πέταγμα(飛行), πετάλα(金属板), ροδοπέταλο(バラの花びら)が派生する。
源候補のもう一つの πετηλίς(バッタ、書きことば)は、πέτομαι(飛ぶ)の派生で、「飛ぶ虫」を意味した。古代ギリシャ語の動詞 πέτομαι は、現代ギリシャ語の πετώ(飛ぶ)として継承され、πεταλούδα の意味の中心「飛ぶ虫」とつながる。
近代の派生用法として、英語 butterfly の意味展開を取り込んだ意味借用(σημασιολογικό δάνειο)が複数加わっている:(a)競泳の「バタフライ」(← 英 butterfly stroke), (b)カオス理論の「バタフライ効果」(← 英 butterfly effect、Edward Lorenz が 1972 年に提唱), (c)医療の「バタフライ針」(← 英 butterfly needle、点滴・採血用の小型カテーテル)が、近代の科学・スポーツ・医療語彙として確立されている。
派生・関連語族として πεταλουδίτσα(小さな蝶、指小形), πεταλουδάκι(小さな蝶、口語), πεταλουδοειδής(蝶のような形の、形容詞), πεταλουδώδης(書きことばの「蝶のような」), πεταλουδοθερία(蝶の収集、書きことば), πεταλουδολόγος(蝶の研究者、書きことば), πεταλουδοκύνηγος(蝶取り)。
ヨーロッパ各語の「蝶」語彙は系統がばらばらで、フランス語 papillon(← ラ papilio), スペイン語 mariposa, イタリア語 farfalla, 英語 butterfly(← 古英語 butorflēoge「バターのハエ」), ドイツ語 Schmetterling と、それぞれ独自の語族を形成しており、ギリシャ語 πεταλούδα もその一つの独自の語族を保つ。
学術命名では、リンネが 1758 年の『自然の体系』で、目(科)の Lepidoptera(鱗翅目、← ギリシャ語 λεπίς「鱗」+ πτερόν「翅」)を命名し、現代の昆虫分類学の中核概念となった、ギリシャ語起源の国際語彙の典型例。
「蝶形のもの」の比喩用法は活発で、γυαλιά πεταλούδα(バタフライ眼鏡), μαχαίρι πεταλούδα(バタフライナイフ), πεταλούδα γκαζιού(スロットル弁), ψάρεμα με πεταλούδα(スピナー釣り), λαβίδα πεταλούδα(バタフライ・クランプ)など、形が両側に広がる物を「蝶」と呼ぶ造語パターンが、近代技術の語彙に広く展開している。慣用句では όπως η πεταλούδα στη φωτιά(火に飛び込む蝶のように、危険を顧みず情熱に駆られて)が、蝶の脆さと美しさを介した感情表現の象徴として、詩・歌・文学に頻出する。