トルコ語 tembel(怠け者、怠惰な)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)に、ギリシャ語の男性名詞・形容詞語尾 -ης を付けて整えた語。さらに源にあるトルコ語 tembel は、ペルシア語 تنبل tanbal(怠惰な、不活発な)からの借用で、近代以降のオスマン期に地中海・東欧の生活語彙に広まった。
ペルシア語 tanbal の語源には複数の説があり、印欧祖語の「弱い、力のない」を表す語根とする説、アラビア語起源説などが論じられるが、確定していない。中世から近世にかけてのペルシア・オスマン文化圏の生活語彙として広まり、トルコ語 tembel, ブルガリア語 темпелин, セルビア・クロアチア語 tembel, ルーマニア語 tembel と、同じ系譜の「怠け者」語彙が南東ヨーロッパの諸語で並走する。
派生・関連語族として τεμπελιά(怠惰、怠け癖、口語), τεμπέλα(女性形), τεμπέλικο(中性形), τεμπελάκος(小さな怠け者、ぐうたら坊や、軽い口語の指小形), τεμπέλαρος(のっそりした怠け者、増大形), τεμπέλικος(怠惰な、形容詞), τεμπελιάζω(怠ける、動詞), αρχιτεμπέλης(筋金入りの怠け者、← αρχι-「最高の」+ τεμπέλης), τεμπελχανάς(ぐうたら、← トルコ語 tembelhane「怠け者の家」+ ギリシャ語式語尾), τεμπελόσκυλο(極度の怠け者、文字どおり「怠け犬」)。さらに、車のセンターアームレストを意味する技術・自動車用語としての τεμπέλης(人が腕を預けて怠ける場所、という比喩命名)も派生用法として現代に定着している。
同じ「怠け者・怠惰」の領域には、書きことば寄りの οκνηρία(怠惰、ものぐさ)や οκνηρός(怠惰な、← 古代), ακαμάτης(怠け者), ανεπρόκοπος(だらしない、ぱっとしない), αργόσχολος(暇をもてあます), φυγόπονος(骨折りを嫌う)が並ぶ。きつい罵倒語には κηφήνας(雄バチ、転じて寄生的な怠け者), τεμπελχανάς, τεμπελόσκυλο があり、反対の側には ακάματος(疲れを知らない), εργατικός(働き者の), φίλεργος(仕事好きの), φιλόπονος(勤勉な), δουλευταράς(よく働く人)が並び、勤労美徳の評価軸の中で言い分けられている。
τεμπέλης の語感は中立的な「怠け者」から軽い諧謔まで幅広く、軽口で τεμπέλη μου!(私の怠け者ちゃん!)と親しい人に呼びかけたり、自嘲的に Είμαι τεμπέλης σήμερα(今日は怠けてる)と気軽に使ったりできる、口語の中心語の一つ。比喩用法の「車のアームレスト」は、腕を預けて楽な姿勢をとれる装備が「怠け者の収納」と命名された、現代の自動車文化に根付いた特徴的な命名。