日本語索引: た
た から始まる単語 59 語。
た から始まる単語 59 語。
ギリシャ語:βυσσινής
読み方:ヴィシニス・ヴィシニース
ラテン文字:vyssinis
古代ギリシャ語の βύσσινος(亜麻布の)から。βύσσινος は中世にサワーチェリーを指す βύσσινο へ転じ、その形容詞形が βυσσινής。熟したサワーチェリーのような暗く濃い赤色を表す。ふつうのさくらんぼ色は κερασένιος。
形容詞形には語尾変化する βυσσινής(-ιά, -ί)と、不変化の βυσσινί がある。口語では βυσσινί が広く使われ、名詞としても用いられる。
類義語に κόκκινος(赤)や μπορντό(ボルドー)など。πορφυρός(貝紫色の)より赤みが強く紫みは少ない。
ギリシャ語:τιρκουάζ
読み方:ティルクアズ・ティルクアーズ
ラテン文字:tirkouaz
フランス語 turquoise(ターコイズ、トルコ石、ターコイズブルー)からの外来借用(δάνειο)。性・数・格で語形が変化しない不変化語として現代ギリシャ語に取り入れられた。母音の逆行同化(υποχωρητική αφομοίωση)[i-u > u-u] により、別形 τουρκουάζ が並んで使われ、Tri も両形を一つの見出しで扱う。
フランス語 turquoise はもともと pierre turqueise / pierre turquoise(トルコの石)の形で、トルコを経由して中世ヨーロッパに伝わった石の名として 13 世紀に固まった形容詞 turqueise(トルコの、女性形)の名詞化。さらに遡ると、フランス語 Turc(トルコ人), Turquie(トルコ)の語族につながる。同じ「トルコ経由の石」の連想は、英語 turquoise, ドイツ語 Türkis, イタリア語 turchese, スペイン語 turquesa などヨーロッパ各語に広まった国際語。
実際のターコイズの主要産地は、ペルシャ(現在のイラン), アフガニスタン, エジプト, アメリカ南西部などで、トルコ自体は産地ではないが、シルクロード貿易でトルコ商人が地中海ヨーロッパに輸入したことから「トルコの石」の名がついた。
宝石としてのターコイズと、その色に由来する明るい青緑色(ターコイズブルー)の両方を指し、不変化のため形容詞的にも名詞の後に置いて使う(ρόμπα τιρκουάζ「ターコイズブルーのローブ」)。同系の青緑色の語族として γαλαζοπράσινος(青緑の), ωκεανί(オーシャンブルー), γαλάζιος(空色)が並ぶ。
ギリシャ語:τουρκουάζ
読み方:トゥルクアズ・トゥルクアーズ
ラテン文字:tourkouaz
τιρκουάζ(ターコイズ)の母音の逆行同化(υποχωρητική αφομοίωση)[i-u > u-u] による別形。同じくフランス語 turquoise からの外来借用(δάνειο)で、語源・意味・用法はすべて τιρκουάζ と同じ。Tri も両形を一つの見出しで扱う。
τουρκουάζ の形は語頭の τουρκ- が「トルコの」を意味する Τούρκος / Τουρκία の語幹と一致するため、語源と意味を直感的に結びつけやすく、現代ギリシャ語の話者には親しまれやすい形。両形は併存し、どちらを使っても通じる。
詳しい語源・意味・派生・関連語は τιρκουάζ の項を参照。
ギリシャ語:φυσική αγωγή
読み方:フィシキ アゴイ・フィシキー アゴイー・フィシキ アゴギ・フィシキー アゴギー
ラテン文字:fysiki agogi
φυσικός(身体の、肉体の)の女性形 φυσική と αγωγή(教育、しつけ)を組み合わせた連語。英語の physical education に対応し、日本語の「体育」にあたる。
φυσική αγωγή は、学校教育などで身体を鍛え、運動能力や健康に関わる習慣を育てる科目や教育分野を指す。
関連語に γυμναστική(体操、体育)、άσκηση(運動、練習)、αθλητισμός(スポーツ)、σωματική άσκηση(身体運動)、μάθημα γυμναστικής(体育の授業)などがある。
ギリシャ語:πρώτος
読み方:プロトス・プロートス
ラテン文字:protos
古代ギリシャ語の πρῶτος(第一の、最初の)に由来。πρῶτος は古代ギリシャ語 πρό(前に、先に)と同系統の語であり、さらに「前に、先に」を表す印欧祖語の語根に遡る。
ラテン語 primus(第一の)、prior(前の)、フランス語 premier、英語 first, fore, former なども同じ系統に属する。現代の「第一級の、最上位の」という意味の一部は、フランス語 premier からの意味借用によって強まった。
πρώτος は序数詞として「1番目の」を表すほか、時間的に「最初の」、位置や順位で「先頭の」といった意味を持つ。さらに、品質や重要性で「第一級の、主要な」などの意味でも使われる。
名詞的には ο πρώτος / η πρώτη / το πρώτο の形で「第一の人・もの」を指す。副詞としては πρώτα(まず、以前は)、πρώτον(第一に)など。
関連語に δεύτερος(第二の)、τρίτος(第三の)、τελευταίος(最後の)、πρώιμος(早い、早熟の)、πρωί(朝)、πρωτεύουσα(首都)など。
ギリシャ語:πανεπιστήμιο
読み方:パネピスティミオ・パネピスティーミオ
ラテン文字:panepistimio
近代以降に作られた学術借用+翻訳借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο + μεταφραστικό δάνειο)。古代ギリシャ語の素材 παν-(全部の、すべての)+ ἐπιστήμη(学問、知識)+ -ιον 場所接尾辞 を組み合わせた構造で、中世ラテン語 universitas(学者の連合体、大学)の翻訳借用として作られた近代造語。Tri は基となるヘレニズム期形容詞 πανεπιστήμων(万学に通じた、博識の)を出発点として記す。19 世紀のギリシャ独立後の近代教育制度の整備とともに、ヨーロッパの大学概念をギリシャ語の素材で表現する形で確立された語。
源にある古代の παν-(全部の、すべての、← πᾶς, πᾶσα, πᾶν「すべての」)は、印欧祖語の「すべて、全体」を表す語根に由来し、極めて生産的な造語要素として近代の国際造語要素 pan-(汎、全体的な)の語源となった:英語 panorama(パノラマ), pandemic(パンデミック), pantheon(パンテオン), pantomime(パントマイム), panacea(万能薬), pandemonium(大混乱)など、世界的な国際語の中核を成す造語要素の一つ。
源にある古代の ἐπιστήμη(属格 ἐπιστήμης、知識、科学、技能、← ἐπίσταμαι「知る、理解する、上に立って見る」)は、古代ギリシャ哲学の中核概念で、プラトン、アリストテレスの認識論の中心語:ἐπιστήμη(科学的知識、ロゴスに基づく確かな知)と δόξα(意見、信念、漠然とした知)を対置する古典的二分法は、現代の認識論・科学哲学の基礎概念。同じ語族からは現代まで広範な派生語族が継承される:επιστήμη(科学、学問), επιστήμων / επιστήμονας(科学者、学者), επιστημονικός(科学的な、学問的な), επιστημολογία(認識論、← 英 epistemology)。
中世ラテン語 universitas(連合体、組合、共同体)は、もとは「全体、団体、組合」を意味し、中世ヨーロッパで「学者と学生の組合」(universitas magistrorum et scholarium「教師と学生の連合」)として教育機関の意味が確立された。最古の大学とされるボローニャ大学(1088 年創立), パリ大学(1150 年頃), オックスフォード大学(1167 年), ケンブリッジ大学(1209 年), パドヴァ大学(1222 年)の系譜が、近代の大学制度の起源となる。
ギリシャの近代大学の歴史は、ギリシャ独立(1830 年)後の 1837 年に最初のアテネ国立カポディストリアン大学(Εθνικό και Καποδιστριακό Πανεπιστήμιο Αθηνών、最初の名は Othonian University)が設立されたことに始まる。その後、テッサロニキのアリストテレス大学(1925 年), パトラス大学(1964 年), クレタ大学(1973 年), ヨアニナ大学(1970 年)など、各地に近代大学が設立され、現代ギリシャの高等教育制度の中核を成している。
派生・関連語族として πανεπιστημιακός(大学の、形容詞), πανεπιστημιακή κοινότητα(大学共同体), πανεπιστημιακή έδρα(大学講座), πανεπιστημιακό αμφιθέατρο(大講堂), πανεπιστημιούπολη(大学キャンパス、← πανεπιστήμιο + -ούπολη), φοιτητής(学生、男性形), φοιτήτρια(学生、女性形), καθηγητής(教授), σχολή(学部), τμήμα(学科), πτυχίο(学士号), μεταπτυχιακό δίπλωμα(修士号), διδακτορικό(博士号)。
ギリシャの大学制度では、ESHE(Ελληνικό Σύστημα Ανώτατης Εκπαίδευσης「ギリシャ高等教育システム」)の中で、ΑΕΙ(Ανώτατα Εκπαιδευτικά Ιδρύματα「最高教育機関」, 大学)と ΤΕΙ(Τεχνολογικά Εκπαιδευτικά Ιδρύματα「技術教育機関」, 旧高等専門学校、現在は ΑΕΙ に統合)の二系統が、近代以降のギリシャ高等教育の中核を成してきた。EU のボローニャ・プロセス(1999 年以降の高等教育の国際標準化)に従って、現在は学士・修士・博士の三段階の学位体系が整備されている。
近代国際社会の知の中核機関として、πανεπιστήμιο はギリシャの文化・科学・経済・社会の発展の中核を担う、近代国家の象徴的な制度として位置づけられる。古代ギリシャの ἐπιστήμη(科学的知識)の概念が、中世ヨーロッパの universitas(学者連合)を経て、近代の大学制度として再活性化された、概念史の典型例。
ギリシャ語:ατμόσφαιρα
読み方:アトゥモスフェラ・アトゥモースフェラ
ラテン文字:atmosfaira
古代ギリシャ語の ἀτμός(蒸気、湯気)と σφαῖρα(球、球体)からなる ἀτμόσφαιρα に由来する学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。構成要素はともに古代ギリシャ語由来だが、合成語としての ἀτμόσφαιρα はもともと古代ギリシャ語にはなく、17世紀の自然学者ジョン・ウィルキンスがラテン語 atmosphaera を新造したのが始まりで、これがフランス語 atmosphère, 英語 atmosphere として国際的に広まり、現代ギリシャ語にも入った。元の構成要素がギリシャ語由来であるため、再借用(αντιδάνειο)の側面も持つ。「雰囲気・ムード」の比喩義はフランス語・英語経由で広がった意味借用。古代の σφαῖρα は印欧祖語にさかのぼる確実な同根語が見当たらず、Beekes は先ギリシャ語基層からの語と位置づけている。同じ古代 σφαῖρα から英語 sphere(球), hemisphere(半球), 独 Sphäre が、また ἀτμός から英語 atomizer(噴霧器)など蒸気・霧化に関する語族が広まっている。
類義語に αέρας(空気、風。日常の空気、室内・身近な雰囲気), κλίμα(気候、風土、世論。場の雰囲気・空気感も指す), διάθεση(気分、ムード。個人の心の状態)。ατμόσφαιρα は地球や天体を取り囲む大気そのもの、物理学の気圧単位、場の雰囲気、文学・映画作品の独特の情緒を指す形として広く使う。派生に ατμοσφαιρικός(大気の、雰囲気のある), ατμοσφαιρικότητα(雰囲気のあるさま)。関連語に ατμός(蒸気), σφαίρα(球), ατμο-(蒸気・大気を表す結合辞)。成句に περιρρέουσα ατμόσφαιρα(社会を取り巻く空気、情勢)。
ギリシャ語:γαστριμαργία
読み方:ガストリマルイア・ガストリマルイーア
ラテン文字:gastrimargia
古代ギリシャ語の γαστριμαργία(大食、貪食)に由来。これは γαστρίμαργος(腹が貪欲な、大食の)から作られた抽象名詞である。
γαστρίμαργος は γαστήρ(腹、胃。属格 γαστρός)と μάργος(激しい、貪欲な)からなる。γαστήρ は現代ギリシャ語の στομάχι(胃)にあたる古い語で、英語の gastric, gastro-, gastronomy などに含まれる gastr- もこの語に由来する。
同じ μάργος を含む語に λαιμαργία(暴食、大食)がある。γαστριμαργία は辞書上も λόγ. とされ、現代の一般的な一覧では λαιμαργία が使われやすい一方、教会系の一覧では γαστριμαργία が「暴食」にあたる語として用いられることがある。
関連語には γαστρίμαργος(大食の)、φαγητό(食べ物)、αδηφαγία(貪食)、βουλιμία(過食)などがある。対応する美徳としては νηστεία(断食)や εγκράτεια(自制、節制)などが挙げられる。
ギリシャ語:υπουργός
読み方:イプルゴス・イプルゴース
ラテン文字:ypourgos
ὑπό(〜のもとで)と ἔργον(仕事)からなる古代ギリシャ語の男性名詞 ὑπουργός(助手, 仕える者)に由来。もとは「手伝って働く者」を言う語。「大臣」の意味は, かつて使われていたイタリア語借用 μινίστρος がフランス語 ministre にならう形で υπουργός に引き継がれ, 今の政治語として残った。文法上は男性名詞だが, 女性にもそのまま υπουργός の形で使い, 通性名詞として働く。
ὑπουργός から派生した語に υπουργείο(省庁), υπουργοποίηση(閣僚への登用)。合成語には πρωθυπουργός(首相, 直訳: 第一の大臣), υφυπουργός(副大臣, 政務官), υπερυπουργός(大臣級の大臣)が政治語として並ぶ。
ὑπουργός の第二成分 ἔργον は έργο(仕事, 作品)として別に残り, 第一成分 ὑπό は接頭辞として多くの合成語に入る。政府全体を言う κυβέρνηση(政府, 政権)の中で, υπουργός は特定の省を担当する閣僚。フランス語 ministre, 英語 minister, イタリア語 ministro, ドイツ語 Minister はラテン語 minister(下働き, 奉仕者)から経由した別系統の語で, 意味の上でだけ υπουργός と対応する。ヨーロッパ諸国が近代に政府制度を整えた時期, ギリシャ語では外来語 μινίστρος が退き, 古代語 ὑπουργός が新しい「大臣」の意味を担うようになった。
ギリシャ語:γυμναστική
読み方:イムナスティキ・イムナスティキー・ギムナスティキ・ギムナスティキー
ラテン文字:gymnastiki
古代ギリシャ語の γυμναστική(鍛錬の術、γυμναστική τέχνη の略)を継承。形容詞 γυμναστικός(鍛錬の)に τέχνη(術)を補った言い方から τέχνη が落ちた形。動詞 γυμνάζω(鍛える)、さらに γυμνός(裸の)から来ており、古代の鍛錬が裸で行われたことが名前の由来。現代の競技「体操」や学校の「体育」の用法は、フランス語 gymnastique、英語 gymnastics からの意味借用で定着した。
派生語に γυμνάζω(鍛える), γυμναστής / γυμνάστρια(体育教師、体操指導者), γυμναστήριο(体育館、ジム)。関連語に άσκηση(運動、練習)。英語 gymnasium, gymnast は、ラテン語 gymnasium を経て同じ古代ギリシャ語から。
ギリシャ語:οκνηρία
読み方:オクニリア・オクニリーア
ラテン文字:okniria
ヘレニズム期ギリシャ語の ὀκνηρία(ためらい、気おくれ)に由来。これは ὀκνηρός(ためらう、気の進まない、怠惰な)から作られた抽象名詞である。
ὀκνηρός は、動詞 ὀκνέω(ためらう、気が進まない)や名詞 ὄκνος(ためらい、気おくれ、怠惰)と同じ語族に属する。印欧語根に遡るさらに前の由来は確定していない。
現代ギリシャ語では、活気や行動力が欠けている状態を指す。近い語には τεμπέλης(怠け者、怠惰な)に対応する τεμπελιά(怠け癖、怠惰)などがある。οκνηρία は書きことば寄りの表現であり、τεμπελιά はより口語的に使われる。
キリスト教神学の七つの大罪(επτά θανάσιμα αμαρτήματα)では、現代の一般的な一覧で οκνηρία が「怠惰」にあたる語として使われる。教会系の文書では ακηδία が用いられる場合もある。対応する美徳は επιμέλεια(勤勉、配慮)や εργατικότητα(勤勉さ)など。
ギリシャ語:αρχάγγελος
読み方:アルハンゲロス・アルハーンゲロス
ラテン文字:archangelos
ヘレニズム期ギリシャ語の ἀρχάγγελος(大天使)に由来。ἀρχάγγελος は ἀρχι- / ἀρχ-(第一の、上位の、長の)と άγγελος(使者、天使)からなる。
ἀρχ- は古代ギリシャ語 ἀρχή(始まり、支配、権威)や動詞 ἄρχω(始める、支配する)と同じ語族に属する。英語の archangel も、ラテン語 archangelus を経て古代ギリシャ語 ἀρχάγγελος に遡る。
宗教的な文脈では、天使の階級や特定の大天使の称号として先頭大文字の Αρχάγγελος / Αρχάγγελοι が用いられる。関連語には άγγελος(天使、使者)、θεός(神)、ιερός(聖なる)などがある。
ギリシャ語:κουζίνα
読み方:クジナ・クジーナ・クズィナ・クズィーナ
ラテン文字:kouzina
ヴェネツィア語 cusina(台所、料理)からギリシャ語に入った外来借用(δάνειο)で、近代以降のフランス語 cuisine(料理、料理法), cuisinière(料理用ストーブ)の意味用法を取り込んで多義化した、意味借用(σημασιολογικό δάνειο)の重なりを伴う語。家の「台所」の意味がヴェネツィア語からの古い層、オーブンつきの「コンロ」と国・地域の「料理」の意味がフランス語から後に重なってできている。
源にあるヴェネツィア語 cusina, フランス語 cuisine, イタリア語 cucina はすべて、後期ラテン語 cocina(台所、← 古典ラテン語 coquina「料理、台所」、← coquere「煮る、料理する」)の継承形。同じラテン語 coquere からは、英語 cook(料理する), kitchen(台所、← 古英語 cycene < 後期ラテン coquina), cuisine(料理), biscuit(ビスケット、← bis「二度」+ cuit「焼かれた」)が出ており、印欧祖語の「煮る、熟す」を表す語根が地中海・西欧の料理語彙の核になっている。古代ギリシャ語の対応語族には、πέπτω(消化する、熟させる、← 同じ印欧祖語の語根)から πέψη(消化)が出ており、ラテン語 coquere と並走する系譜を持つ。
派生・関連語族として κουζινάκι(小さな台所、ミニキッチン、指小形), κουζινέτο(小型コンロ、簡易調理台、← κουζίνα + 伊系の指小接尾辞 -έτο), κουζινούλα(小さな台所、指小形), κουζινίτσα(小さな台所、小さなコンロ、指小形), κουζινικά(台所用品、複数形), κουζίνα-σαλόνι(リビング兼キッチン)。
同じ「料理する場所・道具・流儀」の領域には、φούρνος(オーブン、かまど、パン屋、工業炉、← ラテン furnus), μαγειρείο(業務用調理場、まかない場、← μαγειρεύω「料理する」), γαστρονομία(ガストロノミー、美食文化、← γαστήρ「胃」+ νόμος「規則」、書きことば)が並ぶ。φούρνος が焼くための炉やオーブンを中心に指すのに対し、κουζίνα は火口とオーブンを備えた一体型の調理器具や調理空間を指す。フランス語 cuisine の意味展開を取り入れた「国・地域の料理」用法は近代の意味拡張で、同じ用法はイタリア語 cucina, スペイン語 cocina にも見られる、汎ヨーロッパ的な料理語彙の使い方。
ギリシャ語:λαμπάς
読み方:ラバス・ラバース・ランバス・ランバース
ラテン文字:lampas
古代ギリシャ語の λαμπάς(松明, たいまつ)を継承。動詞 λάμπω(輝く, 光る)に -άς が付いた語で, 火を手に持って燃やす光源を指す古い語。ラテン語 lampas もここから入り, そこから Romance 経由で英語の lamp や現代ギリシャ語の λάμπα(ランプ, 電球)につながった。
同じ λάμπω の語族に λαμπάδα(ろうそく, 奉献用の長い蝋燭), 合成語 λαμπαδηδρομία(トーチリレー, たいまつ競走), λαμπαδηφόρος(たいまつを持つ者)。おうし座の明るい赤い星アルデバランの古名 Λαμπαδίας も, たいまつの火に見立てた呼び名でこの語族に連なる。
儀式や競技の場面では λαμπάς が手に持つたいまつを受け, ろうそくや奉献用の長い蝋燭は λαμπάδα, 家庭用のランプや電球は λάμπα と使い分ける。
ギリシャ語:θυμάρι
読み方:シマリ・シマーリ・ティマリ・ティマーリ
ラテン文字:thymari
ヘレニズム期のギリシャ語 θύμος(タイム、男性名詞)の指小形 *θυμάριον(小さなタイム、タイムの一枝)が、中世ギリシャ語を経て現代の θυμάρι になった継承語(κληρονομιά)。指小辞が原形と入れ替わって新しい主格となるのは、ギリシャ語の名詞語形成によく見られるパターン。
古代の θύμος の語源は確定されておらず、動詞 θύω(犠牲を捧げる、香を焚く)と関連づけて「香を焚く植物、燻香に用いる植物」とする民間語源(παρετυμολογία)が古来から伝わる。実際に古代ギリシャでは祭壇でタイムを焚いて神への香奉として用いたとされる。一方、Beekes は確実な印欧祖語の対応を見出さず、先ギリシャ語基層からの借用説も提唱されている。同じ θύμος がラテン語に thymum として入り、英語 thyme, フランス語 thym, ドイツ語 Thymian, イタリア語 timo, スペイン語 tomillo(こちらは派生形)など、ヨーロッパ各語の「タイム」語彙の源となった。
派生に θυμαράκι(小さなタイム、可愛いタイム、指小形), θυμαρίσιος(タイム風味の、タイムから採れた、← θυμάρι + 形容詞接尾辞 -ίσιος), θυμαρίσιο μέλι(タイムの花からとれた蜂蜜、ギリシャの名産)。類義語的に同系の地中海ハーブ語族として δυόσμος(スペアミント), ρίγανη(オレガノ), βασιλικός(バジル), μέντα(ミント)が並ぶ。
比喩成句 στα θυμαράκια(タイムの茂みに、墓地に、死んで埋葬されて)はギリシャ農村部の墓地に自生するタイムの情景から来た婉曲表現で、πάει στα θυμαράκια(彼はタイムの茂みに行った=亡くなった)の形でよく使われる。
ギリシャ語:αδάμαντας
読み方:アダマダス・アダーマダス・アダマンダス・アダーマンダス・アダマダス・アダーマダス
ラテン文字:adamantas
ヘレニズム期のギリシャ語 ἀδάμας(属格 ἀδάμαντος、対格 ἀδάμαντα、「征服できないもの、もっとも硬い金属、鋼鉄」)の対格 -αντα を主格として再形成した形を、近代以降に書き言葉から再導入した学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)。古代の ἀδάμας は否定接頭辞 ἀ- と動詞 δαμάζω(手なずける、屈服させる、打ち砕く)の語幹からなり、文字どおり「征服できない」「打ち砕けない」を意味した。古代では主に最も硬い金属(鋼鉄、ダイヤなど)を指したが、後期に宝石としての「ダイヤモンド」の意味で固定された。
同じ ἀδάμας が中世ラテン語に diamas として入り、古フランス語 diamant を経て、英語 diamond, フランス語 diamant, ドイツ語 Diamant, イタリア語 diamante などヨーロッパ語の「ダイヤモンド」語彙の源になった。同じ流れの中で、ロマンス語経由で再びギリシャ語に戻った αντιδάνειο の形が日常語の διαμάντι(ダイヤモンド)。一方、αδάμαντας はヘレニズム期からの形を直接近代に再導入した学術借用形で、両者は同じ語源から異なる経路で現代ギリシャ語にたどり着いた対の関係にある。
派生に αδαμάντινος(ダイヤモンドの、堅固な、揺るぎない)。類義語に διαμάντι(日常で「ダイヤモンド」を指す中心語), αδάμας(αδάμαντας と同じ語の古典的な形、書きことばで使う)。αδάμαντας は文学・宝飾・人名で使う書きことば寄りの語。
ギリシャ語:διαμάντι
読み方:ディアマディ・ディアマーディ・ディアマンディ・ディアマーンディ・ディアマディ・ディアマーディ
ラテン文字:diamanti
イタリア語 diamante(ダイヤモンド)から中世期に入った αντιδάνειο(返り借用)。イタリア語 diamante はラテン語 diamas に、これは古代ギリシャ語 ἀδάμας(属格 ἀδάμαντος、対格 ἀδάμαντα、「征服できないもの、最も硬い金属」、ἀ-「否定」+ δαμάζω「打ち砕く」由来)にさかのぼる。語頭が ἀδ- から δια- に変化した背景には、古代ギリシャ語 διαφανής(透明な)の影響があるとされる。
つまり古代ギリシャ語が中世ラテン語・イタリア語を回って現代ギリシャ語に戻ってきた語で、出発点と到着点が同じ言語にある対称的な経路を持つ。同じ ἀδάμας からはラテン語 diamas を経て、英語 diamond, フランス語 diamant, ドイツ語 Diamant, イタリア語 diamante などヨーロッパ各語の「ダイヤモンド」語彙が広まった。なお、英語 adamant(断固とした、頑固な)は同じ ἀδάμας の「征服できない」の語感を残す形容詞として、より古代に近い形で派生したもの。
ギリシャ語内部では、近代以降に書き言葉から再導入された学術借用形 αδάμαντας と並んで使われるが、διαμάντι が日常で「ダイヤモンド」を指す中心語、αδάμαντας が文学・宝飾・人名で使う書きことば寄りの語、と役割が分かれている。
派生に διαμαντάκι(小さなダイヤモンド、可愛い人を呼ぶ愛称、指小形), διαμαντικά(宝飾品、複数形), διαμαντοτεχνία(宝石加工技術)。類義語的な比喩用法では「優れた人格・性格」を讃える άνθρωπος διαμάντι(非の打ち所がない人物)のような連語が定型化している。
ギリシャ語:ωκεανός
読み方:オケアノス・オケアノース
ラテン文字:okeanos
古代ギリシャ語の ὠκεανός(大地を囲む大河, 大河の神)に由来。神話では大地を取り巻く一本の巨大な河であり, 同時にその河を擬人化したティタン神 Ὠκεανός の名でもある。現代の「大洋, 海洋」の用法はフランス語 océan, 英語 ocean, イタリア語 oceano からの意味借用で輪郭が整った。
同じ ὠκεανός の語族に ωκεάνιος(大洋の, 広大な), 合成語 ωκεανογραφία(海洋学), ωκεανογράφος(海洋学者), ωκεανοπόρος(大洋を渡る)。神話の Ωκεανός はウラノスとガイアの息子で, 妻は姉妹のテテュス, 娘たちは海のニンフ オケアニデス。
英語 ocean もラテン語 oceanus を経て同じ語源。海全般を言う θάλασσα(海)や岸から離れた沖の πέλαγος(外洋, 沖)に対し, ωκεανός は太平洋や大西洋のような大陸を隔てる大水域に使う。
ギリシャ語:ηλιακό σύστημα
読み方:イリアコ システィマ・イリアコー シースティマ・イリャコ システィマ・イリャコー シースティマ
ラテン文字:iliako systima
ギリシャ語:ηλιακός
読み方:イリアコス・イリアコース・イリャコス・イリャコース
ラテン文字:iliakos
古代ギリシャ語の ἡλιακός(太陽の)を継承。ήλιος(太陽)に関係形容詞を作る -ακός が付いた形。
英語 solar、フランス語 solaire はラテン語 sol(太陽)からの形容詞で、ηλιακός とは別系統。現代ギリシャ語の技術用語(ηλιακή ενέργεια「太陽エネルギー」、ηλιακή κυψέλη「ソーラーセル」、ηλιακός θερμοσίφωνας「ソーラー温水器」など)はこれら欧州諸語の概念を取り入れた意味借用で発展した。
連語に ηλιακό σύστημα(太陽系)、ηλιακή ενέργεια(太陽エネルギー)、ηλιακό πάρκο(ソーラーパーク)、ηλιακό στέμμα(コロナ)、ηλιακός κύκλος(太陽周期)、ηλιακή έκλειψη(日食)など。
ギリシャ語:ήλιος
読み方:イリョ・イーリョ
ラテン文字:ilios
印欧祖語で「太陽」を表す語根に起源を持ち、古代ギリシャ語の ἥλιος(太陽)を継承。ラテン語 sol、英語 sun、ドイツ語 Sonne は同じ語根の別系統。
派生語に ηλιακός(太陽の), ηλιοθεραπεία(日光浴), ηλιοστάσιο(至点), λιάζομαι(日なたぼっこをする)など。関連語に ηλίανθος(ヒマワリ、ήλιος + άνθος「花」の合成語で、口語では ήλιος だけでも呼ぶ), φως(光)。英語 helium は太陽のスペクトルで発見された元素で、ラテン語経由で ἥλιος をもとにした語。heliocentric(太陽中心の), heliosphere(太陽圏)なども同じ語源。
ギリシャ語:μάρμαρο
読み方:マルマロ・マールマロ
ラテン文字:marmaro
古代ギリシャ語の男性名詞 μάρμαρος(光輝, 光る石, 印欧祖語で「輝く」を表す語根にさかのぼる説がある)が女性形を経て中性 μάρμαρον(大理石)となり, 語尾 -ον が脱落して現代ギリシャ語の μάρμαρο に至った。同じ語根に動詞 μαρμαίρω(輝く, きらめく)もある。英語 marble はラテン語 marmor を経て同じ μάρμαρος にさかのぼる。
派生に μαρμάρινος(大理石の), μαρμαρένιος(大理石の, 大理石のように冷たい), μαρμαράς(大理石職人), μαρμαράδικο(大理石加工場), μαρμαρώνω(大理石にする, 凍りつかせる), μαρμαρυγή(きらめき, 輝き), μαρμαρόσκονη(大理石の粉)。合成語に μαρμαρογλύπτης(大理石彫刻家), μαρμαρογλυπτική(大理石彫刻), μαρμαρόστρωση(大理石舗装), καλλιμάρμαρος(美しい大理石の)。
ギリシャ語:μαζικός
読み方:マジコス・マジコース
ラテン文字:mazikos
μάζα(質量、かたまり、大衆)に、形容詞を作る接尾辞 -ικός が付いた語。フランス語 en masse(大量に、一斉に)に対応する形で定着した。
関連表現に μαζική παραγωγή(大量生産)、μαζικές μετακινήσεις(大規模な移動)、μέσα μαζικής ενημέρωσης(マスメディア)、μαζικά μέσα ενημέρωσης(マスメディア)、μέσα μαζικών μεταφορών(大量輸送機関、公共交通機関)、μαζική κοινωνία(大衆社会)などがある。
物理・化学では μαζικός αριθμός(質量数)のように使われる。
ギリシャ語:πολλά
読み方:ポラ・ポラー
ラテン文字:polla
古代ギリシャ語の形容詞 πολύς(多い、多くの)の中性複数形 πολλά を継承。
πολύς は印欧祖語の「満ちる、多い」を表す語根に由来し、英語の接頭辞 poly-(多くの)などもこの語根から派生している。
ギリシャ語:χταπόδι
読み方:フタポディ・フタポーディ
ラテン文字:chtapodi
中世ギリシャ語 οκταπόδι(タコ)が現代まで受け継がれた継承語(κληρονομιά)。中世形は、ヘレニズム期 ὀκτάπους(八本足の、タコ、← 古代 ὀκτώ「八」+ ποῦς「足」)の指小形 *οκταπόδιον(小さな八本足、母音連続の回避を経て)から派生したもの。現代ギリシャ語では、語頭の無強勢母音 [o] が脱落(αποβολή)し、定冠詞続き発音 το οκταπόδι > τοκταπόδι > το χταπόδι の経路で再分節し、子音連続 [kt] が中世期に同化変化(ανομοίωση τρόπου άρθρωσης)で [xt] に変わって、現代の χταπόδι の形に定着した。
源にある古代の ὀκτώ(八)は、印欧祖語の「八」を表す語根に由来し、ラテン語 octō, サンスクリット aṣṭáu, 英語 eight, ドイツ語 acht と同族。地中海・印欧語の数詞「八」を表す最古層の語彙の一つで、極めて広範な国際語彙の根幹を成す。同じ語根からはオクターブ(οκτάβα、← 仏 octave), 八角形(οκτάγωνο), 八重奏(οκτέτο), 八月(Οκτώβριος、ただし古代ローマ暦では本来「八番目の月」だった), タコ(χταπόδι)が出ており、数を介した造語の中核。
源にある古代の ποῦς(属格 ποδός、足)は、印欧祖語の「足」を表す語根に由来し、ラテン語 pēs(属格 pedis、← 英 pedal, pedestrian, pedicure), サンスクリット pā́d-, 英語 foot, ドイツ語 Fuß と同族。古代ギリシャ語の ποῦς は現代ギリシャ語の πόδι(足、← μσν. πόδι(ν) < ελνστ. ποδίον υποκορ.)として継承されており、この χταπόδι は数詞「八」と「足」の合成で、文字どおり「八本足」を意味するシンプルな解剖学的命名。
書きことばの古典形 οκτάπους / πολύπους(タコ、文字どおり「多くの足」)は、現代ギリシャ語にも書きことば・専門語として並走する。πολύπους は近代の動物学・医学では πολύποδας(ポリプ、ポリープ、生物学のヒドラ・サンゴ等)として使われ、英語 polyp(ポリプ)の語源にもなった。
派生・関連語族として χταποδάκι(小さなタコ、指小形、口語), χταπόδια κρεμασμένα(つるされたタコ、複数形), χταποδόψαρο(タコ魚、複合語), χταποδολίκι(タコの吸盤), οκτάπους / οκτάποδας(書きことばの古典形), πολύπους / πολύποδας(ポリプ、書きことば、医学用語)。
頭足類(κεφαλόποδα)の領域には、近い海産物として καλαμάρι(イカ、← 中世 καλαμάρι < ラ calamarium「インク壺」), σουπιά(コウイカ、← 古代 σηπία)が並び、地中海料理の主要な海産物として広く食卓に登場する。χταπόδι は食材としてはギリシャ伝統料理の中心の一つで、χταπόδι κρασάτο(ワイン煮), χταπόδι ξιδάτο(酢漬け), χταπόδι στιφάδο(玉ねぎ煮込み), χταπόδι στα κάρβουνα(炭火焼き)など多彩な調理法を持つ。タコを岩に打ちつけて柔らかくする伝統的な下処理(χτυπώ το χταπόδι στα βράχια)も、地中海漁村の生活文化として知られる。
比喩用法では、八本の腕の形が「枝分かれして広がるもの」のイメージを生み、荷物を固定する伸縮ゴムひもの χταπόδι(バンジーコード), 車の排気マニホールドの χταπόδι(複数の排気管が一点に集まる枝分かれ部品)など、近代の道具・機械語彙にも比喩的に展開している。慣用句の χτυπιέμαι σαν χταπόδι(タコのようにのたうち回る、激しく抗議する)も、タコの動きの激しさを介した感情表現の典型例。

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