古代ギリシャ語 ὀρυκτός(掘り出された、← 動詞 ὀρύσσω「掘る、採掘する」+ -τός 動詞形容詞接尾辞)の中性形 ὀρυκτόν を、近代以降に書きことばから名詞化して再導入した学術借用(λόγιο διαχρονικό δάνειο)に、フランス語 minéral(鉱物)の意味用法を取り込んだ意味借用(σημασιολογικό δάνειο)の層を併せ持つ近代地質学用語。
源にある古代の動詞 ὀρύσσω(掘る、採掘する、発掘する)は、印欧祖語の「引き裂く、掘る」を表す語根に由来し、ラテン語 runcō(掘る、土を削る、別系統だが類似概念)と関連する。古代ギリシャ語の ὀρύσσω は、ホメロスの『イーリアス』以来、地面・墓・井戸・坑道を「掘る」動作を表す中核動詞で、現代まで広範な派生語族が継承される。
古代ギリシャ語 ὀρύσσω からの派生語族は、現代まで広範に展開する:ορυκτός(掘り出された、鉱物の、形容詞), ορυκτό(鉱物、中性形が名詞化), ορυχείο(鉱山、採掘場、← ὀρύσσω + -χεῖον 場所接尾辞), ορυκτολογία(鉱物学、← 仏 oryctologie の翻訳借用), ορυκτολόγος(鉱物学者), ορυκτογεωλογία(鉱物地質学), μεταλλείο(金属鉱山)。
近代地質学・鉱物学の用語として、19 世紀の地質学・鉱物学の発達とともに整備された。フランス語の orycto-(鉱物の、← 古代ギリシャ語 ὀρυκτός)系の合成語が 18-19 世紀に近代造語として作られ、それを翻訳借用したギリシャ語の ορυκτο- 系の語族(ορυκτολογία「鉱物学」, ορυκτολογικός「鉱物学の」, ορυκτολόγος「鉱物学者」)が現代ギリシャ語に整備された。Tri 注記が示すように、ορυκτό 自体も「鉱物」の意味として、フランス語 minéral の意味用法を取り込んだ意味借用の側面を持つ。
接尾辞 -τός は、古代ギリシャ語以来の生産的な動詞形容詞接尾辞で、動詞語幹に付いて「〜された、〜できる」を表す形容詞をつくる。同じパターンで作られた語族には、γραπτός(書かれた、← γράφω), γνωστός(知られた、← γιγνώσκω), λεκτός(数えられた、← λέγω), ορατός(見える、← ὁράω), χρηστός(用立つ、← χρή)が並び、極めて広範な動詞派生形容詞の系列を成す。
派生・関連語族として ορυκτά(複数形、鉱物群), ορυκτός πλούτος(鉱物資源、鉱物資源財), ορυκτό δείγμα(鉱物標本), σπάνιο ορυκτό(希少鉱物), ραδιενεργό ορυκτό(放射性鉱物), ορυκτή πρώτη ύλη(鉱物原料), συλλογή ορυκτών(鉱物コレクション), ορυκτολογική μελέτη(鉱物学研究), ορυκτολογικό μουσείο(鉱物博物館), ορυκτολογική ανάλυση(鉱物学的分析)。
地質学・鉱物学的には、鉱物(mineral)は、自然界に存在する均質な化学組成と結晶構造を持つ無機物質と定義される。現在約 5,500 種類の鉱物が国際鉱物学連盟(IMA)に登録されており、岩石(pétra, βράχος), 土壌(χώμα), 鉱石(μετάλλευμα)の構成要素として、地球科学の中核を成す。
ギリシャの地質では、ボーキサイト(αλουμίνιο の原料), マグネサイト, クロム鉱, 大理石(μάρμαρο、特にパロス・ペンテリ・ティノス産), ニッケル鉱, 銅鉱が主要な ορυκτοί πόροι(鉱物資源)として、近代の重要な経済資源となっている。
同じ「自然物質・鉱物」の領域には、近い概念として λίθος(石、宝石、試金石、結石), μέταλλο(金属), μετάλλευμα(鉱石), βράχος(岩、大岩), πέτρα(石), κρύσταλλος(結晶、水晶)が並び、それぞれの物質形態・サイズ・用途で言い分けられる。ορυκτό は最も包括的・科学的な「鉱物」の概念語として、地質学・鉱物学・経済地理学の中核を担う。